第4話 積極的にならなきゃ!

「ただいま~」

「あれ?お兄ちゃん帰ってきたんだ。おかえり~」


 家に帰ると、3つ下の妹の弥生やよいがソファーに寝っ転がって、寝間着姿の短パンから伸びている生足をパタパタさせてスマホをいじりながら意外そうな顔をして俺の帰りを出迎えた。


「何だよその言い草は・・・まるで俺が夜更かししてくる前提みたいな感じじゃねーか」

「え?だって、今日新歓? ってやつだったんでしょ。可愛い女の子捕まえて一夜を過ごしてくるイベントじゃないの?」

「お前は新歓を合コンか何かと勘違いしてないか?」

「でも、大学生っていい女に片っ端から声かけて、持ち帰ってヤルことしか考えてないんじゃないの?」

「その偏見はやめろ!」


 確かにそういう奴もいるけど!大学生全員そんなことやってると思ったら大間違いだ!

 大学生を何だと思ってるんだこいつは?!


「まあ、お兄ちゃんはヘタレだし、そんなことできないとは思ってたけどね」


 妹までにヘタレ宣言されチクっと心が痛んだ。お兄ちゃん悲しい。


「でも、お兄ちゃんにはそれくらいの荒療治が必要なんだよ!もっと、当たって砕けていかないと!」

「砕ける前提なんだな・・・」


 それもそれで、お兄ちゃんのライフが削られるんですが・・・


「当たり前じゃん!美人に声かけられたら『デュフッ』ってなっちゃうくらいヘタレなお兄ちゃんだよ」

「そこまで酷くないわ!」


 本当だよ?普通に喋れるよ?


「まあ、と・に・か・く!お兄ちゃんはもっと恋に積極的にならなきゃ!」

「弥生だって、男と付き合ったことないくせに・・・」

「私はいいの、女の子だから! お兄ちゃんはダメなの、男の子だから!」

 

 俺を指さしながら青みがかったくせっ毛の黒髪を揺らして、弥生が訳の分からない理屈を提示してくる。お兄ちゃんもう頭が痛くなってきた。


「あぁっ、もう分かったから! 弥生、もう夜遅いぞ、早く寝ろ」

「ぶー。せっかくお兄ちゃんの帰りを待っててあげたのに~」

「待たんでいい、ほらさっさと寝る寝る」

「ちぇ~」


 俺が弥生をあしらうと、ふくれっ面をしながらも、渋々といった感じで弥生はソファーから立ち上がり自室へと戻っていった。


 妹の弥生は、俺の3つ年下の高校1年生だ。俺と同じ私立中学を受験して、見事に合格して、俺が進む予定だったエスカレーター式の高校に入学したばかりである。


 家から弥生の通っている学校まで通学だけで1時間以上かかるので、夜更かししてしまうと睡眠時間がどんどんと削られていき、よくないのだ。お兄ちゃん、弥生が寝不足で倒れないか心配。


 ちなみに両親は自営業で何やら金属機器の仕事をしている。朝が早い仕事のため既に就寝済み。夜遅くなると、いつも俺と弥生だけが起きている状態だ。 


 ま、そんなことはさておき、ようやく弥生がいなくなりリビングが静かになったところで、先ほどまで弥生が独占していたソファーに腰かけた。ようやく体の力が抜けたような感じがして、どっと疲れが押し寄せてきた。


 思い返せば、今日は色々なことがあった。

 中学の美少女同級生の津賀愛奈に再会するわ、食堂で初恋の女の子に似た藤野さんという食堂のお姉さんに出会うわで、体力と気力を持っていかれる一日だったな。


 そんなことを振り返っていると、ふと先ほどの弥生の言葉が思い出される。


『お兄ちゃんはもっと恋に積極的にならなきゃ!』

「恋に積極的ねぇ・・・」


 ふと一人でソファーに倒れ込んで呟く。

 確かに今までは、恋に消極的だったのかもしれない。だって、仮に好きな人が出来たとしても、自分に自信がなかったし、何より今の関係性が崩れてしまうのが一番いやだったから。


 それでも、高校の時は勇気を振り絞って、二人の女の子に告白することが出来た。

 でも、どちらも結果は違えど、自分にとっては黒歴史になっちゃったわけで・・・

 

 そんなことを考えてしまうと、負のスパイラルに陥ってしまう。

 挙句の果てには、自分はこんなにいい大学に入ってよかったのだろうか?などと考えてしまう。


 結局、弥生に言われた、恋に積極的にならなきゃ!という言葉が、眠るまでずっと頭の中にこびりついて離れなかった。

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