第3話 中学の同級生
「じゃあ、またなやお!啓人!」
「弥起、橋岡~バイバイ~」
「羽山君、橋岡くんまたね~」
授業を無事に終えて、船津、乙中、西城さん3人と別れを告げて、俺と啓人は、テニスサークルの新入生歓迎会に参加するため、指定の集合場所へと足を向けていた。
GW前後は、一緒に授業を受ける仲間もできて、ようやく授業が落ち着き始める中、今度は部活動・サークル活動が慌ただしくなってくる。新入生歓迎会、いわゆる新歓が始まり、多くの新入生たちがサークルの雰囲気などを掴むために、その飲み会に参加する。
今日は、とあるテニスサークルの新入生歓迎会に参加していた。俺は特に入る予定のないサークルであったのだが、啓人にどうしてもと頼まれてしまい、仕方なくついていってやることにしたのだ。まあ、新歓だし新入生はほとんどタダで飲み食い出来るし、損はないからいいんだけどね。
そんなことを考えながら、指定された集合場所へ向かった。
俺たちは集合時間ギリギリに到着したので、新入生たちは既に先にお店に向かっているようで、集合場所には幹事の人らしき先輩と、時間ギリギリになった新入生たちがちらほらいるだけだった。
「これ、引いてくれる?」
先輩に促されて、抽選箱のような箱から紙切れを一枚引いた。
中には番号が記されており、俺が7番、啓人が13番だった。
「何の番号ですか?」
と聞くと。
「まあ、ついてからのお楽しみ~」
くじの箱を持っていた先輩はニコニコと意味ありげな笑みを浮かべながらも、俺たちの質問をはぐらかされてしまった。
俺たちは首を傾げて疑問に思いつつ、残りの新入生たちと一緒にお店へと足を運ぶのであった。
お店に到着するなり、中で待っていた先輩に「自分の持っている紙の番号の席に座ってね!」と言われた。どうやら、机の番号を決めるためのくじ引きだったらしい。
いろんな人との交流を深めようということで、先輩、新入生がくじ引きで入り乱れて各机に散らばることになっているらしい。ここで、俺は啓人と別れ、各々番号の記された机へと向かう。
一緒についてきてほしいと言われたのに、肝心の新歓会場で別れちゃったら元も子もないな、そんなことを思いながら紙の番号と同じ机に向かった。
引いたくじの番号の机に到着すると、既に俺以外のメンバーは座っており、「はじめまして~」っと先輩たちに挨拶される。
俺は空いている座布団の席へ腰かけた。そして、向かい側にいる人へ挨拶をしようと顔を上げた時だ。そこには、目を疑うような人物が座っていた。
そこにいたのは、黒髪に褐色色がかった日に焼けた肌を晒して、緊張した面持ちで座っている中学時代の同級生、
「津賀・・・!?」
俺は思わず指さしながらそう呟いた。
すると、彼女も俺の存在に気が付き、驚いたような表情を浮かべた。
「えっ!?やおやおじゃん!え?なんでいるの?」
突然の再会だった。まさか、中学時代の同級生と4年ぶりにこんなところで・・・
世間って狭いな。
「それはこっちのセリフ! え? もしかして津賀も鷹大?」
「うん、私も鷹大だよ。文学部」
「マジか、俺経済」
「ホントに!?え、びっくりなんだけど」
津賀愛奈は、口元を手で押さえて驚きを隠せないといった表情をしていた。それもそうだろう。中学時代の俺の成績を知っている者にとっては、俺が大学進学をしている時点で、奇跡みたいなものなのだから。
「やおやおがこの大学にいるだけで信じらんないんだけど!」
「失礼な・・・俺も受験勉強死に物狂いで頑張ったんだよ」
「そっか!必死に頑張ったんだね・・・・・・」
津賀は、一瞬陰気臭い顔をしたが、すぐに屈託のない笑顔に戻り、褐色色の肌で余計に白く輝く歯をキラリと見せていた。中学の時よりも大人びた印象で、可愛いというよりは綺麗といった方がいいのかもしれない。
ちなみに、やおやおとは中学時代津賀に付けられたあだ名だ。まあそう呼んでいたのは結局津賀だけだったが・・・
そんなことがありつつも、乾杯の音頭が取られて、新歓が始まった。一通り机内の自己紹介が終わると、先輩たちは早速新入生を置いて、他の机へとあいさつ回りへと出かけてしまった。
津賀は早速、その美貌から男の先輩たちから声を掛けられて、愛想よく振舞っていた。
うわぁ~でた~こういう後輩の可愛い女の子を狙って集ってくるハイエナみたいな出会い厨達・・・俺の苦手なタイプだ。
俺が怪訝な表情を浮かべる中、津賀は愛想を振りまきながら、にこやかな笑みを浮かべていた。というか、むしろ若干色目を使ってるまである。
津賀は津賀で変わってないな・・・あんなトロっとした上目遣いで見られたら、ほとんどの男どもが勘違いして好きになっちゃうだろうが・・・
まあ、さすが津賀というか、何というか。こういう風に誰にでも色目を使う姿は、昔と変わらいな。
ようやく津賀が先輩たちから解放され、ふぅっと溜息をついていた。
すると、あきれ顔で眺めていた俺と目が合った。
それを見て、津賀が怪訝そうな顔でこちらを睨んでくる。
「何?」
「いや、津賀は相変わらずだな~と思いまして」
「別に?普通だと思うけど?」
あっけらかんとした表情を浮かべる津賀。いや、それがノーマルだったら、日本中の女みんなビッチになるっての!
そんな感じで中学時代のように他愛のない話を続ける。
俺と津賀愛奈の出会いは中学時代まで遡る。当時中学受験をして、県内の私立中学校に入学した俺は、入学式当日、昇降口の前に咲き誇っていた桜の木の下で記念に家族と写真撮影を行っていた。
その順番待ちをしている時に桜の木の下で、あどけない表情でにこやかな笑みを浮かべて、写真を撮っている黒髪美少女こそが、津賀愛奈であった。
俺はその彼女の笑顔を見た瞬間、心奪われた。あれは間違いなく一目ぼれだった。
あぁ…こういう可愛い女の子と一緒に中学生活を謳歌したい。そんなことをふとその時思った。それから、同じクラスであることが分かり、俺は積極的に津賀愛奈に話しかけたのだ。
今思えば、よくあれで引かれなかったと思う。休み時間になるたびに、何度も津賀愛奈の元へと出向き、津賀愛奈のことを質問する。そんな毎日を続けているうちに、無事携帯のアドレスを手に入れたのだ。
それ以来、俺は毎日のように津賀愛奈とメールのやり取りをしていた気がする。よく、「食事中にケータイをいじるんじゃありません!」と親に怒られていたものだ。だが、その時の俺にとっては津賀愛奈とメールをしている時が、一番幸せだったのである。何故ならば、当時の俺は、彼女に恋をしていたから…
しかし、俺はこの時既に、津賀愛奈という女の術中にまんまと嵌ってしまっていたのだ。
そのおかげもあって、俺は人生を潰す羽目にもなったのだが…
まあそれはともかくとして、今目の前にいる津賀愛奈は、昔と変わらぬ褐色色の日焼けした肌に、黒い長髪の髪を後ろに垂らして、つやつやとした肌に、小さな顔。すぅっとした鼻筋に艶のある唇。どこを見ても昔の可愛い彼女がそのまま大人になって、美少女が美人になったという感じだ。
中学時代にはなかった胸も、平均並みには膨らみを帯び、長いスラっとしたモデルのような長い足を伸ばしてこれでもかと見せつけている。
「そういえば、なんでやおやおはこんなサークルの新歓にいるわけ?テニスやらないでしょ?」
「友達にお願いされてついてきたんだよ、ただ飯食えるし、損はねえからな」
「ふーん。それで、しれっと可愛い女の子でも見つけて連れて帰ろうとかしてたんでしょ~」
「それはお前だ」
全く、これだからそういう考えにしか思考が向かない奴は・・・
「とにかく、俺は偶然この場に居合わせただけで、そこで偶然津賀にも再会したってわけ。特にこれといった理由はないよ!」
「ふ~ん」
津賀は自分の手を見ながら、興味なさそうな生返事を返す。
「お前なぁ・・・」
「あっ!そうだ、やおやお、安岡って覚えてる?」
津賀は突然思い出したように中学時代の同級生の話を始めた。
いきなりで驚いたが、俺も話題を変えることには肯定的だったので、話題に乗っかった。
それからは、新歓という名の、二人同窓会みたいな雰囲気も漂い、昔話に花が咲いた。
中学時代に優勝した合唱コンクールや、体育祭。クラスで起こった事件など様々なことを回想した。そんな時間に、俺は酔いしれていた。いい感じに雰囲気に酔ってきたとき、津賀愛奈がふときいてきた。
「そういえば、やおやおのLINE知らないかも」
「あぁ…多分?」
「それじゃあ、交換しようよ!」
「うん」
俺が中学生の時は、まだガラケーの時代だったので、LINEが普及していなかった。
そのまま俺は別の高校へ進学してしまったため、中学の友達はほとんどLINEを知らないのだ。
スマホを取り出してLINEを開き、津賀のスマホに表示されているQRコードを読み取って、津賀愛奈との2回目の連絡先交換を行った。まさか、中学時代の片思いしていた女の子と大学になって再会して、また連絡先を交換するなんて夢にも思っていなかった。
そんなことがありつつ、時間は刻一刻と過ぎていき、新歓はお開きの時間となった。
津賀は男を捕まえるわけでもなく、普通に帰宅していった。てっきり、そこら辺のイケメン男子でも捕まえて2次会へと向かうのかと勝手に思っていたが、思い違いだったようだ。
橋岡が先にいつの間にかフェードアウトしていたので、俺は一人寂しく岐路に着いた。
駅から山手線に乗って帰っている途中、LINEの通知が来た。津賀からだった。
『ai』と書かれた名前のアイコンには、お花見を楽しんでいる様子の津賀愛奈の写真が写っていた。トーク画面を開くと、『改めて、これから、よろしく!やおやお~♡』と書かれた、メッセージが書かれていた。
また勘違いするような文面を・・・と思いながらも、俺は『おう、よろしく』っと一言素っ気ない返事を返した。
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