第31話 おんぶ
「それじゃあ、俺はこの辺で」
「おう、悪いね送ってもらっちゃって」
先輩たちが申し訳なさそうに謝ってくる。
今俺は、お店を出て泥酔してしまった西城さんをおんぶして担いでいる。
「まあ、友達なんで問題ないです」
「まあこれからは活動とかでも会うと思うから、その時によろしく!」
「はい、よろしくお願いします」
俺は先輩たちにペコリとお辞儀をしてから、駅に向かって歩き出す。
すると、その隣で鼻をすする音が聞こえた。
「やおやお~私ビッチじゃないよね? そうだよね?」
隣でせっかくかっこいい雰囲気を台無しにする女が一人。
津賀は懇願するように涙目で訴えてきていた。どうやら津賀・野方ビッチ論争は、浜屋の方に軍配が上がったようだ。
その野方は、勝ち誇った表情を浮かべてさっさと何処かへ消えていってしまった。おそらく、同期の先輩たちと二次会にでも向かったのであろう。
「はいはい、わかったから。お前も帰るぞ」
津賀を背中を押すようにして促し、駅へと歩いていく。
やっぱり、美少女同士が仲良くなれるなんてフィクションの世界だけだな。
現実は醜くて残酷な世界である。そうひしひしと感じさせられる飲み会だった。
◇
駅までたどり着き、西城さんになんとか定期券が入っている場所を聞き出して、駅の改札口を通り抜ける。
階段を登り切りホームへたどり着き、西城さんをいったん下ろしてベンチに座らせrる。金曜日ということもあり、多くのサラリーマンで混雑している。こりゃ、西城さんを電車で座らせるのは難しそうだな。
そんなことを考えながら、俺はも一つ謎の行動をしている人物に視線を向ける。
「で、なんでお前いるの?」
「えぇ~何その態度! やおやおひっど~い」
いい感じにテンション高めで酔っぱらっている津賀愛奈がニコニコと笑っていた。
先程まで悲しんでいたのが嘘のように……
「お前JRだろ。なんでこっちきてんの?」
大学の最寄り駅は、JRと私鉄が乗り入れており、西城さんはここから私鉄に乗って3駅ほどで、津賀はJRのはずなのだが、なぜか私鉄ホームまでついてきていた。
「だって、やおやお一人に西城さん送らせるの申し訳ないかなぁ~って思ったから!」
「本当の理由は?」
「家に送った後、やおやおが西城さんが寝てるのをいいことにやましいことをしないか監視するためで~す」
「どんだけ信用無いんだよ俺……」
西城さんには何もする気はないよ?
本当だよ?
おんぶしている時、太もも柔らかいなとかちょっとは思ったけど、別に襲おうなんてこれっぽっちも思ってないんだからね?
やはり大学生というのは弥生が言っていたように、女が無防備にしていたら獣のように襲って一夜を過ごすものなのだろうか。
日本全体の大学生の倫理観が心配になってきた。
「まあとにかく! 飲み会の最中美月に何もしてあげられなかったし、少しは貢献させて!」
そう言って、西城さんのバッグを手に取っていかにも手伝ってますアピールをする津賀。まあ、正直バッグを持ってもらうだけでも助かるので、ここは津賀のお言葉に甘えることにしよう。
「わかった。それじゃあ、よろしく頼むわ」
「うん、任せて!」
そうこうしているうちに、電車がホームに到着した。
「西城さん! 今から電車乗るからね」
俺がそう声を掛けると、西城さんはふらついた足取りながらも、俺につかまって電車に何とか自分の足で乗り込んでくれる。
車内は混雑していたが、ラッキーなことにドアと座席の間にある横のスペースが空いていたので、そこに西城さんを寄りかからせることが出来た。
こうして、西城さんの最寄り駅まで向かった。
最寄り駅についたところで、西城さんが虚ろながらも目を覚ましてくれたので、道を尋ねながらゆっくりと歩いて西城さんの家まで向かった。まさか、こんな形で西城さんの家の場所を知ることになるとは……
想定外ではあったが、どこにあるのか分からない道のりを歩きながら、俺は緊張とワクワク感が心の中で入り混じるような感情が芽生えているのだった。
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