第32話 お泊り!?

駅から約10分ほど歩いたところで、ようやく西城さんの家に到着した。


「ここ?」

「うん……ここ・・・・・・201」

「201号室ね、わかった」

「あとはよろしく……お休み」


家の前について安心してしまったのか、俺の背中に乗っかりながら、西城さんは再び意識を失い眠りについてしまった。


「よぉ~しやおやお! ちゃちゃっと西城さんを寝かせて今度は私を家までおぶって送れ!」

「なんで命令形なんだよ。ってか、お前はピンピンしてるし一人で歩いて帰れるだろ」

「こんな夜遅い時間にこんなか弱い女の子を暗い夜道一人で歩かせる気!? やおやおそれはないよ~」

「お前を送ると終電が無くなる」

「それじゃあ、泊まっていけばいいじゃん・・・・・・//////」


上目遣いで見つめてくる津賀。正直酔っぱらって頬が赤くなっていて無防備になっているのも相まってかなりヤバイ。こんな美少女にそんな可愛い顔されたら、くらっと来てしまいそうだ。


「私の家の近くの漫画喫茶に!」

「台無しだよ!」


そりゃそうだよね津賀実家住みだもんね。泊めてくれるわけないよね!

少しでも期待してしまった俺が馬鹿だった。


「いいから、さっさと西城さん寝かせて俺たちも帰るぞ」

「は~い」


誤魔化すように話を切り上げて、西城さんが住んでいるアパートと思われる階段を登っていく。

201号室の前に到着した。家の前の表札に名前が書いていなかったので、本当にあっているのか戸惑ったが、鍵を差し込むとすんなり施錠が解除できたので一安心する。


扉を開けると、緊張している俺をよそに、津賀が先に靴を脱いでガツガツと部屋にあがっていく。


「えっと電気電気~」

「し、失礼します……」

「あ、あった!」


カチャっと津賀が家の明かりをつけ、家の中の全容が明らかになる。

玄関から正面に部屋があり、左にはキッチン、右にはトイレだろうかドアが一つついていた。

だいぶ奥行きがある部屋で8畳くらいはあるのではないだろうか?

一人暮らししている割には結構いい部屋に住んでいるんだな……


「へぇ~美月ちって結構いい部屋に住んでるんだね、やおやお」


部屋を見渡しながらそんなことを言ってくる津賀。


「あぁ…そうみたいだな」


西城さんを玄関に座らせて靴を脱がせる。


「よしっ……西城さんあと少しだ。頑張れる?」


俺が尋ねると、西城さんは『ん~』っと唸りながらモゾモゾと身体を動かして立ち上がろうとする。


急いで靴を脱いで西城さんの身体を支えようとする俺。

咄嗟に手を出してしまったので、ふにっと柔らかい西城さんのお腹を触ってしまったのはご愛嬌として、西城さんを支えながら部屋の奥へと進む。


部屋の右側に玄関からは見えなかったが、ベッドが横たわっており、その手前で津賀がスイッチが切れたように横になって倒れていた。


「お前は何してんだ津賀・・・・・・」

「やおやお・・・・・・眠い・・・・・・」

「ちょっと我慢して待ってろ。西城さん寝かせたらお前も家まで送ってやるから頑張れ」

「うん……」


津賀にそう言い聞かせてから、俺は西城さんをベッドの前まで連れていき、掛布団を剥がす。

すると、西城さんは充電が切れたようにそのままベッドに倒れ込んだ。

モゾモゾっと身体を動かして、仰向けになって枕に頭を収める。


「ありがと・・・・・・羽山くん」

「どういたしまして」


お礼を言ってくる西城さんに対して、優しく微笑みかけてから、剥がした掛布団を西城さんに掛けてあげた。


「おやすみ、西城さん」

「うん……おやすみ」


よしっ! これで任務完了だな。


後は・・・・・・こいつだな。


「おい、津賀起きろ。帰るぞ」

「やおやお・・・・・・ムニャムニャ」

「津賀~」

「……」


津賀からの返事はない。ただの屍の用だ。

どうすんだこれ? 津賀までおぶって帰る気力はもう残ってないぞ?


「お~い、津賀~。津賀さ~ん?? 起きろ!」

「……」


しかし、津賀はスースーと寝息を立ててそのまま深い眠りについてしまった。

本当にどうするんだこれ?


流石に西城さんの家に津賀を置いてくわけにもいかないし……

というか、鍵もかけずに出て行ってしまったら物騒だろう。

恐らくスペアキーを持っているはずだから、一度俺が持って帰って後日返してもいいのだが、土日を挟むので友達であっても家の鍵を他人に持たれているというのは、西城さんにとってもいい気分ではないだろう。

時間的にも結構遅い時間だし。とりあえずまずは終電を調べてみよう!


「津賀を送ったとして12時5分着だから……積んだわ」


津賀が眠ってしまっているので、津賀を送り届ける場合、終電がない。

つまり俺は漫画喫茶確定ということになる。そして次に気になるのはお財布事情。

漫画喫茶一人分くらいは持ち合わせているが、二人分払えるかは厳しい金額。まあ最悪津賀を起こしていけばいいのだけど……


ふと時計を確認する。時刻は既に夜の11時を回ろうとしていた。

さっき調べた電車の時間をもう過ぎていた。

こりゃもう満喫ルート確定だな。そう思った時だ。

ポツポツと外から雨の音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなり、ざぁざぁという音に変わっていく。


「嘘だろ……」


生憎傘を持ち合わせていない。

津賀をおぶって駅まで傘なしで歩いたら、びしょ濡れになってしまう。


「しばらく雨宿りさせてもらうか」


これは決して、西城さんの家をもっと見てみたかったとかそう言うわけではなくて、津賀も寝てるし一人でのうのうと帰るのは違う気がするし、鍵を持って帰るのも気が引けるし、戸締りしないで帰るのも危ないし、傘も持ってないし。いろいろな条件が重なったうえでの判断だ。


自分に言い聞かせるようにして、俺はようやく壁際に腰を下ろした。


座った瞬間、どっと疲れが一気に押し寄せてきた気がする。


雨が止むまで、少しだけ休ませてもらいますかね・・・・・・


そうして、俺はベッドスヤスヤと寝てる西城さんと、地べたでゴロンと倒れて寝ている津賀を眺めながら、ゆっくりと瞳を閉じた。





気が付けば、雨音以外辺りには物音ひとつ聞こえなくなっていた。

寝返りを打つと、壁際で寄りかかりながらスヤスヤと眠っているやおやおの姿がある。


「はぁ……何やってるんだろう私」


やおやおが西城さんの事が好きならば、応援してあげるのが友達としての役目なのに……

やおやおと西城さんを二人きりにしたくないという私の気持ちが勝ってしまった。


結局、美月ちを送り届けるのに最後まで付き合ってしまい、こうして寝っ転がったら一気に睡魔が襲って来て眠ってしまったわけで・・・・・・


チラっと壁に掛けられている時計を見ると、時刻は夜の1時を回ったところ。既に終電は終わってしまっているので、始発まで美月ちの家でお世話になるしかない。


「はぁ……何やってるんだろう私」


また同じ独り言を繰り返してしまう。


やおやおは優しいし、泥酔している美月ちを襲うような男ではないと分かっているのに……それなのに、やおやおが美月ちと二人でいる姿を考えただけで自分の中で何かモヤモヤする醜いものが頭の中を立ちこめてきた。

やおやおの恋を応援してあげるって言ったのに……やおやおに幸せになって欲しいって願っているのに……



「はあ……何やってるんだろう私」


私は何度も同じため息と独り言を小さな声で繰り返し零すことしか出来なかった。

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