第30話 確定会
「それでは、新入生を迎えてこれから仲良く楽しく活動をしていきましょう! 乾杯!」
「かんぱ~い!」
「かんぱ~い!」
次々と鳴り響く乾杯のグラスの音。よろしく~と陽気な声を上げる先輩たち。それにつられるようにして苦笑の笑みを浮かべながら乾杯に応じる俺たち新入生一同。
俺たちは、映画製作サークルの確定会に参加していた。確定会というのは、新入生の入部申込期間が終わり、今年の新入生の数が確定した時に行ういわば正式な『入部おめでとう、これからよろしく』の会と言ったような催しである。まあ、一言でいえば飲み会なのだが、今まで可愛い女の子目的で来ていた奴らではなく、ちゃんとサークルに興味を持ってきた人しかいないので新歓よりも落ち着いているというのが確定会のいい所だ。
俺と西城さんと津賀は横一列に並び、お互いに乾杯をしてからグラスに入っているサイダーのような透明な飲み物を身体に流し込んだ。
サイダーのようなシュワシュワした感触に、少し爽やかな柑橘系の味がする。
最後につーんとするような感じがしたが、普通のサイダーに何か味が付いたものだろう。
「やおやお~これからよろしく~」
津賀がテンション高めにグラスを出してくる。
今日は白と紺の横縞のシャツにデニムの半袖ジャケットを羽織り、下はオレンジのホットパンツという格好だ。ホントこいつは夏を先取りしているな……
畳の上に正座で座っていながらも、日に焼けた褐色色の肌が艶やかで眩しかった。
「おう、よろしくな」
「美月ちもよろしくね!」
「うん、よろしく愛奈ちゃん」
西城さんと津賀は二人も仲睦まじく乾杯を交わす。
西城さんはピンク色のブラウスにクリーム色のフレアスカートを身に着け、落ち着いた装いを呈していた。
すると、テーブルの向かい側に透き通ったと透明感あふれるオーラを放った女性が現れる。浜屋莉乃だ。
「ようこそ! 映画製作サークルへ!」
「はい、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
浜屋は津賀・西城さんと順に乾杯をしていき、俺のところへグラスを持ってきて視線を向けてくる。
「初めまして、ようこそ映画製作サークルへ!よろしくね」
この前言っていたように、浜屋と俺は知らぬ存ぜぬで突き通すらしい。
「は、はじめまして、よろしくお願いします……」
俺はぼそっとそう言って、浜屋と乾杯を交わす。
透通すような笑顔とトップス越しに見える白い肩と鎖骨が艶めかしい。
「じぃ~」
「じぃ~」
ふと視線を感じて隣を見ると、二人がジト目でこちらの様子を眺めている。
「な、なんだよ……」
「べ、別に……」
「なんでもない」
二人とも本当に仲いいですね。
「にしても、二人とも可愛いね! 結構モテるでしょ?」
浜屋は、津賀と西城さんに向き直り、興味津々に話を切り出す。
「それはどうも~」
「いえいえ、私はそんなこと・・・・・・」
二人の態度は対照的だ。まだ仲良くなって間もないもんね。息が合わなくても仕方ないよね。
「君も二人とも可愛いって思うよね?」
そう言って俺に話を振ってくる浜屋莉乃。なんでそう言う話を振ってくるのかねぇ……
二人の方をチラっと見ると、真剣な眼差しで俺の返答を待っている。
この場で完全アウェイとなってしまった俺は、視線を机に逸らしながら答える。
「ま、まあ・・・・・・そう思いますよ。はい・・・・・・」
「ほらぁ~彼も照れながらそう言ってるよ! 自信持ちなって!」
照れてない! ほんとだよ??
「へ、へぇ~。やおやおは私のこと可愛いって思ってくれてたんだぁ~///」
「あ、ありがとう///」
俺よりも二人の方が顔を真っ赤にして照れていた。
津賀に関しては肌が日焼けしているので赤くなってるのかどうかは分からないけど。西城さんは間違いなく顔を真っ赤にしてモジモジと身体をさせている。
「あぁ、ごめんね、自己紹介がまだだったね、私は2年の野方莉乃、莉乃先輩って気さくに呼んでね」
「1年の津賀愛奈です、よろしくお願いします!」
「さ、西城美月です……」
そして、浜屋の視線は流れて再び俺の方へ。
あ、そうか、はじめましての体で行くなら、俺も自己紹介しないとね。
「えっと、羽山弥起です」
「羽山くんに、美月ちゃんに、愛奈ちゃん……よしっ! 覚えた!」
それぞれに指さしながら、名前を言って覚えたと言わんばかりに浜屋は満足げに微笑んだ。
まさか、同じサークルに中学・高校・そして、今片思い中の女の子がこうして勢ぞろいするとは・・・・・・これは夢なのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
この時、俺は楽しい大学生活が本格的に幕を上げた気がしていたのだが……
「えへへ・・・・・・ねぇ、やおやお~おかわり~」
「羽山くぅ~ん……ムニャムニャ・・・・・・」
「あはは~人気者だねぇ羽山くん」
確定会が始まってから早一時間ほど。津賀はいい感じに酔っぱらっており、ふらふらと身体が揺れている。
西城さんに関してはお酒が弱いらしく、既に壁に寄りかかって眠ってしまっていた。
その様子をニコニコとして眺めている浜屋莉乃。
なんだこの状況・・・・・・
どうやら全員に配られたドリンクがサイダーではなくサワーだったらしく、いい感じに皆が酔っぱらっている。
未成年に飲ますのダメ!絶対!
「ってか、莉乃先輩。さっきから、うちのやおやおに随分と色目使ってますけど、誘ってるんですかぁ~」
「そんなわけないじゃない愛奈ちゃん。私は初対面からそんなに男の人を誘惑するような軽い女じゃないわ」
「んなこといって~。そう言って裏では男をたぶらかしまくってるんでしょ~知ってますよ私」
お前が言えることじゃないけどな。
ってか、なんだこのありがた迷惑な展開。
中学で一目ぼれした女の子と、高校で好きだった女の子がバチバチしてる図は・・・・・・
「大体ね、たとえ私が羽山くんのことをどう思ってたってあなたには関係ないでしょ~」
「関係あります~! やおやおは私の大事な人です!」
「へぇ~こんなビッチ臭い人が大事な人なの羽山くん?」
浜屋の矛先が俺の方へと向けられる。
顔は笑っているが、目が全然笑ってないので怖いです浜屋さん。
「やおやおと私は唯一無二の存在だよね? ね、やおやお!」
酔っぱらった津賀がそう尋ねて詰め寄ってくる。二人とも、威圧感がぱねぇっす。
ていうかさっきから、津賀は大事な人とか唯一無二の存在とか言ってるけど、それは友達としてっていうことでいいんだよね? そうだよね?
「羽山くん~?」
「やおやお~・・・・・・」
「あ、あははは・・・・・・」
早くこの場から逃げ出したい。
「羽山くぅ~ん」
「おわ・・・・・・っと。びっくりしたぁ……」
そんな二人の間に割って入ってきたのは、泥酔していた西城さんだ。
突然ムクっと起き上がったかと思うと、俺の肩に身体を預けてきて、そのまま再び眠ってしまう。
ちょっと西城さん、今この状況で一番まずいことしてくれちゃってるんですけど!?
西城さんのふわりとした髪の毛のいい匂いがして、身体も温かくて柔らかて・・・・・・じゃなくて!
「へぇ~羽山くんは美月ちゃんがお気に入りなんだぁ~」
「やおやおぉぉぉぉ!?!?」
「ち、違うんだって、これは西城さんが勝手に・・・・・・」
「言い訳無用!」
「言い訳無用!」
なんでそういう時は息ピッタリなわけ!?
すると、それがご不満だったのか、再び二人はお互いに睨み合ってバチバチ火花を散らす。
「こうなったら、どっちが羽山くんに相応しいか白黒はっきりさせてやるわ。ついでにどっちがビッチであるかもねぇ」
「いいわ~望むところよぉ!」
あっ、やべぇ。こいつら二人変なスイッチ入っちゃった。
その後、津賀と浜屋の論争は止まることなく、確定会が終わるまで二人の醜い争いは続くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。