第110話 二人の心の内
運命の再会を果たした腹違いの姉妹が、落ち着きを取り戻したところで、俺達は問題の本題へと話を切り替えた。
「それで、お互い両親の再婚について、それぞれどう思っているのか知りたいって言ってたけど、実際のところどうなんだ?」
俺が切り出していいのか分からなかったが、二人は俺の問いに対してうーんと思案しながら考え込む。
しばらくして、先に口を開いたのは藤野だった。
「私は、小さい頃にお母さんを病気で亡くしてるから、お父さんにはここまで育ててくれた感謝や恩がある。でも、私を生んだ当時に不倫相手がいて、しかもその相手と子供を作ってしまったお父さんに失望もしてる。だから、今回その人と再婚を考えてるって言われたのが衝撃的だし驚いた。色々感情が入り混じって入るけど、一つ言えるとしたら、私としては、今回の再婚を阻止したいと思ってる」
藤野がはっきりとそう自分の否定的な意見を口に出すと、今度は西城さんが言葉を紡いだ。
「私は、お父さんとお母さんの間に生まれた子じゃないって知ったこと事態が、今年の夏前ごろの出来事だった。その時に、春海ちゃんの存在がいることも知ったの。昔一度だけ顔を合わせていたのに覚えてなくてごめんね。それで、今回唐突に母が私のお父さんと離婚して、その私の本当の父親と再婚するって言い出したの。私たち家族は大混乱だし、難しい問題だとも思ったけど、私も、この事態は明らかに間違っていると思うから、出来るだけ温厚に納めたいと思ってるかな」
西城さんも、今思っている自分の胸の内を、言葉で必死に表現してくれた。
二人の意見をくみ取って、俺は結論を導き出す。
「まあ、どちらも、再婚には反対だってことでいいな?」
俺が尋ねると、二人とも同時に頷いた。
それにしても、客観的な立場から見ても、酷い話である。
自分の子供や他人をこれだけ巻き込んでおいて、他の人の気持ちなんて知ったことなしに物事を進めようとしている。ホント、醜くて今すぐに殴りに行って説教してやりたくなる。
「ホント、人って身勝手だよな……」
思わず、そんな感想が漏れ出てしまう。
「他人のことなんて考えずに、自分の欲求通りに行動して、それでその相手を知らないうちに傷つける。たとえそれが、家族だとしても……いやっ、むしろ家族だからそこ、近い存在程、傷つけるのかもしれないな」
家族というのは、一番近い他人と言うけれども、これだけ身勝手だと、家族も他人も関係ない。
自分勝手さが、相手を傷つけていることに変わりない。自制心という言葉がある。
俺は今回、その自制心を抑えずに家庭の事情に勇気を振り絞って踏み込んだ。一方では、自制心を抑えないで、後先考えずに自分のために再婚を決めた。
ホント、何が正しくて何が間違っているのか、分からなくなってくる。
ただ、一つ言えることは……
「これから、二人は再婚を阻止するために、どうアクションを起こす?」
もちろん、藤野春海の父親が不倫をしていた時点で、社会的に向こう側が正義ではないという心盾はある。しかし、起こってしまった後、再婚や離婚、その先の未来に関しては、どちらが正しくて、間違っているのか、それは分からない。
だから、二人がここで阻止するためのアクションを起こして再婚を阻止できたとしても、明るい未来が待っているとは限らないのだ。
でも、彼女たちがそれを望むのであれば、俺はそれを助けてあげようと思う。
一度好きになった女の子たちには、少しでも幸せになって欲しいから、出来るだけ悲しい想いをして欲しくないから、そばにいて助けてあげる。それが、ただの自己満足だとしても、俺は彼女たちの見方でいようと誓った。
二人はしばらく黙考していたが、西城さんがおもむろに重い口を開いた。
「……お母さんを説得しようと思う」
「説得っても、どうやって?」
「私の気持ちを正直に伝えるの。『私は、お母さんに離婚して他の男の人と再婚してほしくない』って。それを春海ちゃんにもしてもらう」
「えっ、私も!?」
「お父さんに正直な気持ちを伝えて欲しい。自分勝手な両親だとしても、自分の子供の意見を全部投げ捨ててまで駆け落ちするなんてことはないと思うから」
確かに、どんなに自分勝手な性格をしていると言えど、相手は血のつながった肉親であることに変わりはない。
説得力は一番あるだろうし、再婚を阻止する手段としては一番妥当は判断だろう。
「なぁ二人とも……」
「何?」
「羽山くん」
途中で話に割って入った俺に視線を向けて、キョトンと軽く首を傾げる二人。
その仕草を見て、やっぱり血がつながった姉妹だなということを実感しつつ、俺はもう一歩踏み込んでみることにした。
「その説得の時、俺も同席していいか?」
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