第103話 電話
浜屋からの提案から始まり、そのまま少し休憩を取った後、撮影はぶっ通しで行われ、夜遅くまで続いた。
その間に、弱音を吐く者もいなかったので、撮影は順調に進んでいき、気が付けばこのコテージで撮影しなければならない部分をほとんど撮り終えてしまった。
よって、明日はほとんど撮影する場面がなくなってしまったので、丸一日余裕が出来た。
そこで、明日は、先輩たちが用意してくれていたサプライズとやらを実行することになった。
「やったぁ! 明日は遊べるぞ!!」
そう言って津賀は喜んでいたが、なんか裏がありそうな気がしているのは、俺だけか?
そんなことを思いながらも、俺は撮影が終わった後、コテージの寝室で一人ベッドの上でくつろいでスマホを操作していると、ふいにスマートフォンの画面が切り替わる。
電話がかかってきて、相手は藤野からだった。
俺は寝室から共有スペースになっているコテージのダイニングへと向かってから、通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あっ、もしもし羽山? 久しぶり』
「おぉ、久しぶり。元気にしてたか?」
『うーん。まあまあかな』
電話越しから聞こえる藤野の口調は、少々苦いようなものに思えた。
恐らく、勉強疲れでもしているのだろう。もしくは、父親から聞いた件で少し思う所があるのかもしれない。
そんなことを考えていると、電話越しから藤野が尋ねてきた。
『それでね、羽山。あの事なんだけど……』
「あの事?」
俺が首を傾げると、藤野が言いづらそうにしながら言ってくる。
『お父さんから聞いてない?』
「あぁ、そのことね」
お父さんという単語が出てきたおかげで、何のことか理解した。
『その、近況を教えて欲しいなぁって……』
だが、ここで今、藤野に俺は何と伝えればいいのか分からなかった。
正直にお姉さんを見つけることが出来たといえるけども、それで藤野がどう思うのか分からない。まずは藤野の意思を確認しておきたかった。
「その前に一つ聞いておきたい事があるんだけど……」
『ん、何?』
俺は少し間を置いてから、意を決して口を開いた。
「藤野はさ、このお姉さんを探して、どうしたいわけ?」
覚悟を決めて尋ねると、藤野は少し声音を下げて言ってくる。
『それを羽山が知って、何になるっていうの?』
一瞬ひるみかけたが、何とかぐっと耐えてから、言葉を紡いだ。
「理由によっては、言わないという選択肢もあるからだ。向こうにとって幸せになれないなら、意味ないからな」
『……そっか』
納得したように電話越しで藤野が頷くと、何かを受け入れたかのように言葉を発した。
『わかった。教えてあげる』
「ありがとう……」
俺がそう答えると、しばしの沈黙の後、藤野が声を出した。
『私の父がね、再婚するらしいの』
「あぁ……」
どうやら、藤野も父親からある程度のことを聞いているようだ。それを手短にわかるように説明してくる。
『その相手がね、私のお姉ちゃんを生んだ人らしくてね。その……お姉ちゃんはどう思っているのかなって、確かめたいの』
その意思のこもった声音に、嘘は感じられなかった。
「そうか……」
俺はそう厳かに頷いてから、ふっと柔らかい声音に切り替えた。
「なら、話は早いな」
『えっ?』
突然、俺の声が柔和になったことで、何が何だが状況が読み込めていない藤野に対して、俺は言い放った。
「藤野、お前まだこっちにいるか?」
『え? いやっ、まだ福島にいるけど……』
「あぁ、悪い。それでいいんだ。なら明後日、俺が指定する場所に来てくれないか?」
『へ!? どうしたの急に?』
話について行けず、困り果てている藤野に対して、俺は確かな確信のある声で言い放った。
「お前を、お姉ちゃんに会わせてやる」
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