第10話 デートの約束!?

 翌週、大型連休前最後の平日。明日から世間はGWに突入する。俺は明日、明後日の土日は休みだが、残念ながら来週の月曜からはGW中も授業数の関係やら何とかで平常通り授業が行われる。

 まあ、今年は家族で何処か行く予定もないし、遊びに行ってもどこもかしこも混んでいるだけなので、それなら大学に行ってのんびりする方が得策だろう。


 連休最初の土日に関しても、外に出る必要を感じていない俺は、今までため込んでいた漫画を一気読みしようと考えていたのだが、そんな希望は向かい側に座っている、とある美少女の一声によって打ち砕かれた。


「ねぇ、やおやお~明日遊びに行かない?」


 俺を誘ってきたのは、中学時代の同級生で同じ大学に通う、津賀愛奈つがあいなだ。


「はっ?」


 突然の誘いに、俺は固まった。

 俺と津賀は先週一緒に行くと決めたフットサルサークルの新歓に参加するため、時間までコミュニティースペースで時間を潰していたのだが、スマホをいじりながらふと津賀がそう言ってきたのだ。


「え?やおやお明日何か予定ある感じ?バイトとか?」

「いやっ、ないけど・・・」

「そっか!じゃあ、明日9時に横浜駅集合で」

「え、ちょっと待って?!もう行くこと決定なの?」

「うん!だって、何も予定ないんでしょ?それに、こんな美人な私と一緒にデートできるっていうのに、やおやお断るわけないでしょ?」


 当たり前のようにそう言ってのける津賀も津賀でどうかと思うが。中学時代、俺はその美人に一目ぼれしてしまうくらいタイプではあるので、何も言い返すことが出来ない。


「ちなみに何するんだ?」

「えっとね、これこれ!」


 話だけでも聞いてやろうと思い尋ねると、津賀はぱぁっと微笑みながら操作していたスマートフォンの画面を見せてきた。


「えっと・・・GWカップル限定マグカッププレゼント??」

「そうなの!明日から5日限定で先着50組限定のレア商品なんだけど、ほら?私今フリーじゃん?んで、今頼れる先輩とかもあまりいないからやおやおにお願いしたくて!」

「いやっ、今フリーとかはこの際どうでもいいんだが・・・」


 ちなみに、スマホの画面に表示されているマグカップは、犬をモチーフにした某人気キャラクターで、津賀も昔から根っからのファンであることは知っている。


 にしても、カップル限定って・・・津賀は俺なんかが彼氏と勘違いされていいのだろうか?


 いや、まてよ?

 相手はあの津賀愛奈だ。

 おそらく今までもこうして何度も男を使って、こういう限定品を手に入れてきたに違いない。彼女にとっては、俺はただその商品を手に入れる駒でしかない。勘違いするな俺!


「ダメ・・・かな??」


 ここで、津賀の必殺、『申し訳なさそうにしながら上目づかい攻撃』が炸裂する。

 いやっ、その仕草は反則だろ・・・


 こうやって津賀の美貌に騙されて、何人もの男どもがカモとして付き合わされてきたんだろうな・・・

 俺は一瞬で津賀の可愛さに撃沈し、顔を逸らしながら頬を指で掻く。


「ま、まぁ、明日は元々予定もないし、別にいいけど・・・」

「やった!ありがと、やおやお!」


 嬉しそうに笑う津賀の表情を見て、少しドキっとしながら、あぁ・・・こうやって自分も簡単に騙されてしまって不甲斐ないな…と落胆する反面、タイプの美少女と二人で出かけられると嬉しく思う自分がいるのだった。



 ◇



 津賀とのデート(笑)が翌日に決まり、今はフットサルサークルの新歓が行われている居酒屋内。


 もちろん津賀は多くの男の先輩からたかって寄られ、出来るだけ愛想よく色目を時々使っていつものように振舞っていた。

 俺はそんな姿をよそ目で見ながら、明日のことをずっと考えていた。


 あぁやって、他の男どもに愛想を振りまいている津賀が、明日は俺と二人でデートするんだよな。ふと考えれば、津賀とこう二人っきりで何処かに行ったりするのは初めてじゃないだろうか?


 中学時代は津賀とは仲の良い友達ではあったが、遊びに行くような関係性ではなかった。まあ今思えば、学校でよく話すクラスメイトという立ち位置だったような気がする。


 そんな津賀愛奈と明日、急遽二人で遊びに行くことになった。といっても、ただの駒としての扱いくらいにしか思われていないんだろうけど。こちらとしては、中学時代ずっと一目ぼれして、心に秘めていたものを持っていた女の子だ。駒扱いだと分かっていても、気持ちが高ぶってしまうのは仕方がない。


「やおやお~!」


 すると、津賀が男性陣の輪から抜け出して、俺の元へとやってきた。

 津賀を囲んでいた男性陣からの視線が痛い。


「ん?どうした?」

「やおやおはこの後どうする?そろそろお開きみたいだけど」


 辺りを確認すると、席を立ちあがりぞろぞろと帰り支度を始めていた。


「俺は帰ろっかなぁ、明日もあるし」


 俺がそう言うと、津賀は何か意識するわけでもなく、明るく笑った。


「そっか。それじゃあ、私も帰ろっかなぁ!」


 津賀は振り返り、ごめんね~と先ほどまでたかっていた男性陣に言いながら、帰り支度を始めた。

 俺もそれにつられるようにして帰り支度を始める。


「行こっか!」


 お互いに支度を済ませると、津賀はぴったりと俺の横について出口へと歩いていく。

 その間にも、後ろから冷たい視線が男性陣から突き刺さっている気がした。


 二人で仲良く居酒屋を出て素早く駅へと逃げるように歩いていく。

 こうしていると、まるで俺が津賀を落として持ち帰りしているのではないかと周りから勘違いされそうである。

 しかし、俺と津賀にそう言った感情は一切ない。店の前で面倒な奴らに絡まれる前にさっさと抜け出しただけだ。


 角を曲がり、新歓に参加していた人たちが見えなくなったところで、ふぅっと津賀が大きく息を吐いた。


「はぁ~・・・疲れた」

「お疲れさん」


 まああれだけ男にがっつかれて質問攻めされたら、流石の津賀も面目を保っているのが大変なのだろう。心なしか顔はげんなりとして疲弊しているように見えた。


「も~助け舟だしてくれたっていいじゃん!」

「いやいや、冗談よせよ・・・」


 あんなノリのいい系男子を全員的に回すような強靭なメンタルは生憎持ち合わせていない。


「意気地なし」


 津賀は不貞腐れながらバックでドンっと俺の背中を叩いた。


「っいってぇな!」

「バーカ」

「・・・」

「バーカ、バーカ、バーカ!」


 ムクっと頬を膨らませながら津賀は拗ねていた。そんな姿も可愛いと思えてしまう俺は、津賀に洗脳されてしまっている重度の病気にかかっているようだ。通称津賀病だな。


「はぁ・・・悪かったって」

「ホントに思ってる?」

「思ってるよ。助け舟出せなくて申し訳なかった」


 俺が諦めてそう言うと、津賀が俺の一歩前に出て振り返った。


「それじゃあ!明日はちゃんと私を守ってよ!?」


 津賀は、少し屈んで上目づかいで俺を指さしながらむくれっ面で言ってきた。

 その姿があまりにも可笑しかったので、思わず吹いてしまう。


「ぶっ…ははっ…!」

「なっ、なんで笑うの!?」

「悪い悪い」


 俺は笑うのをこらえて、優しい目で微笑みかける。


「うん、明日は津賀のこと守れるように頑張るよ」

「ふ、ふぅ~ん・・・ま、わかればよろしい///」


 納得したのか、津賀は再び踵を返して俺の一歩前を歩いて行ってしまう。

 俺はそんな津賀の後姿を微笑ましく眺めながら、駅への道を歩いてついていった。

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