第11話 妹の助言

「ただいま~」

「あ、おかえりお兄ちゃん。今日も女の子お持ち帰りできなかったんだね……」


 いやだから、お前は新歓が何かを完全に誤認識してるぞ弥生。そんな憐れむ目で見るな!

 だが残念だったな弥生、今日のお兄ちゃんは一味違う。思わず頬が上がり、変な笑い声が出てしまう。


「ふっふっふ、聞いて驚け弥生。俺は今日、デートの約束を取り付けてきたぞ」

「えぇ嘘!? あのお兄ちゃんが!?」

「どうだ、凄いだろ」


 少しはこれで弥生も俺のことを見返してくれただろう。


「凄いよお兄ちゃん! たった一日でデートの約束まで取り付けるなんて! それで、いつなのそのデートは!?」

「えっと、明日だけど」

「え……」


 すると、一瞬にして弥生の顔が冷たいものとなる。


「や、弥生さん?」

「あのねぇ、お兄ちゃん」

「は、はい……」


 弥生は目を細めてふぅっと溜息をついてから呟くように言った。


「全く女心が分かってないね」


 妹からの鋭い言葉を浴びて、ぐさっと俺の胸に突き刺さる。


「お兄ちゃん、なんでデートを出会った次の日にしちゃうわけ? そこはもう少し女の子だって準備があるわけよ。それに、お兄ちゃんだってろくにデートコース考えてないんでしょ?」

「いや、それには深い訳があってだな…」

「何?」


 ジト目で見つめてくる弥生。


「ま、デートにこぎつけたとか言って、お兄ちゃんのことだから言いくるめられて強引に誘われたとか言ったところでしょ」

「ぐっ、何故それを!?」

「はぁ…やっぱりか」

「計ったな!?」

「そんなことはいいから、どうしてそんなことになっちゃったのかちゃんと話してみな?」


 なんで上から目線なんだこいつは……若干イラっとしながらも、俺は事の次第を弥生に説明する。


「その・・・・・・弥生は津賀愛奈は知ってるか?」

「当たり前じゃん。愛奈先輩を知らない人なんていないよ! ミスコン3連覇の楠大最高傑作ともいえる生きる伝説だよ?」


 弥生は俺と同じ中高一貫校に進学しているので、何かと高等部の先輩とも校舎が一緒で関わり合いが深い。そのため、津賀クラスの美少女にでもなれば、学年問わず学内で知らない奴はいないだろう。ってかあいつ、そんな異名まで付けられてたのかよ……


「それで、津賀先輩がどうかしたの?」


 話の続きを促すように、弥生が興味深そうに聞いてくる。


「まあ、大学で久々に再会したんだけど、ひょんなことからデートすることになったんだよね~」


 俺が照れくさそうにそう言うと、弥生はさらにジト目で見つめてくる。あれ? 俺何か変なこと言っちゃった?

 弥生は呆れたようにはぁっと大きなため息をついてから鋭い目で睨みけて来た。


「バカじゃないの」

「なんで!?」


 妹の蔑むような鋭い言葉が、俺の胸にグサリと音を立てて突き刺さる。お兄ちゃんのライフはゼロに近い。


「普通に考えてみなよお兄ちゃん。あんな美貌を兼ね備えた津賀先輩がわざわざパッとしないお兄ちゃんをデートに誘うと思う?」

「いや、それは……」


 ないな。

 たとえ俺が、超美貌を兼ね備えた女子だったとしても、俺をデートにわざわざ誘おうなんて微塵も思わない。

 弥生は俺をビシっと指さして言い放つ。


「これは、デートと言うなのただのカモだよお兄ちゃん!」


 弥生は、俺に現実というものを、これでもかというほどに突き刺してきたのであった。

 だが、今から津賀に『ごめん、やっぱり明日いけなくなっちゃった』とLINEで送るのもなぜか気が引けた。明日特に予定の無い俺にとっては心苦しかった。


「俺はどうしたらいいんだ弥生ぃぃ」


 最後の希望の綱、弥生様にすがる思いで尋ねてみる。


「それは自分で考えなよお兄ちゃん……」


 弥生は心底呆れたような表情で、俺を見下すような視線を向けている。

 完全に弥生に見捨てられた瞬間だった。

 お兄ちゃんはひんしした。弥生は経験値を239貰った。って、なんでゲームの話になってるんだ。


「とにかく、明日行くことは決まっちゃたんだし、あの愛奈先輩なら何しでかすかわからないから、デートだけは付き合ってあげたら?」


 妹はあきれ顔ながらに、そうアドバイスをしてくれた。

 俺は言われるがままに首を縦に振った。


 やっぱり俺は津賀に騙されてしまう。そこら辺の男たちと同類だったってことかぁ……。


 弥生のせいで、高まっていた気持ちが一気に冷め、冷静に明日のことについて考えさせられる夜になりそうな予感がするのだった。


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