第122話 編集後の帰り道
作業を始めたのはいいものの、津賀は自分の映像を見ながら、頬を染めて『うわぁぁぁ、恥ずかしい』と、俺が初めて編集作業を始めた時と全く同じリアクションをしていて、中々作業が思うように進まない。
一方の浜屋は、自分の映像チェックは見慣れているのか、終始落ち着いた様子で画面を眺めて、場面ごとに合ったBGMの選曲のアドバイスを的確に示してくれる。
二人にの協力もありつつ、サウンド挿入作業か少しずつ進んでいく。
津賀も、途中からは自分の映像を見るのに慣れたのか、真剣な様子でサントラ挿入に協力してくれた。
俺と津賀の間に告白以来あった、気まずさのようなものは今日は感じられない。
もしかしたら、浜屋がいるから気を使って自然体でいるのかもしれないけれど、こうして俺と津賀の関係性は自然体へと戻って行くのであろう。
自分達で納得のいくBGMの挿入作業が終わったのは、大学の閉門時間ギリギリの時刻だった。
「お、終わった……」
「お疲れさま」
「うぅ……疲れたよ……」
三人ともげっそりした様子で、各々身体をぐったり壁やらPC前の机やらに置いていた。
「編集作業って、こんなに大変なんだね……なんかテレビ業界とかyoutuberの裏側を垣間見気がする」
「いやっ、俺達なんて文化祭に向けた映画1本だけだぞ。テレビ業界とかyoutuberとかこれ毎日やってんだから、すげぇよな」
「毎日……」
津賀は、さらにうぇっとげっそり顔になる。
「まあ、撮影するだけなら楽しいんだけどね。編集ってなると、倍はかかるからね」
浜屋の説明する声にも、少し疲れが見える。
「これで後は、明日細かいところチェックしてレンダリングだな。それで後は、ディスクに焼くだけだ!」
「ま、まだ明日もやることあるんだ……」
津賀が心底同情するような目で見つめてくる。
「まあ、見落としがないかの最終チェックだけだから、そんなに大した作業じゃねぇよ」
すると、ピンポンパンポンと放送が流れ、間もなく完全閉門時間ですとアナウンスが流れた。
「もうこんな時間なんだね」
「早いなぁ……」
「それじゃあ、さっさと保存して帰りますか!」
データを保存して、PCを切り、部室を後にする。
部室の鍵を管理人室で返して、俺達は駅へと歩き出す。
皆疲れているのか、話し出すものはおらず、皆ひたすらに足を駅まで懸命に動かしているだけのゾンビみたいになっている。
あっ、編集に集中しすぎて、親に連絡するの忘れてた。
ポケットの中からおもむろにスマートフォンを取り出すと――
「えっ……」
俺は画面を見て、目を瞬かせ、気がつけばその場に立ち止まっていた。
「どうしたの?」
その様子に気が付いた二人は、首を傾げてこちらを見つめてくる。
「悪い。俺、先帰るな! 編集手伝ってくれてありがと!」
「えっ、う、うん……」
俺は二人の感謝の意を述べて、二人を追い抜き、駆け足で駅へと向かった。
駅へと走りつつ、スマートフォンを操作して、とある人物へと電話をかける。
その人物は、2、3コールしたらすぐに出てくれた。
『もしもし?』
「あぁ、藤野か! 悪いんだけど、今すぐ外に出てこれるか?」
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