第18話 再会の時
高校の時好きになった女の子は、ニコニコとほほ笑みながら、先輩たちと一緒に教壇の前に立っていた。
何が起きているのか全く理解できなかった。
なぜ
何かの間違いではないか?
目をこすってからもう一度前を見るが、浜屋は変わらず笑みを浮かべながら立っている。
当の本人は、全く気にした様子もなくニコニコと笑顔を振りまきながら、向かい側に座っている新入生たちを一瞥していた。すると、ちょうど目線が俺のところに重なった。
お互い一瞬の沈黙の間があり、浜屋は何事もなかったかのように笑顔を取り戻して他の新入生へすぐに視線を逸らした。
しかし、その浜屋が見せた一瞬の動揺は、俺が知っている浜屋莉乃本人であるということの証明するには十分だった。浜屋莉乃は俺の存在を覚えてながらも、新歓の時は取り繕ってあたかも知らないような態度を取ったことになる。つまりは、浜屋莉乃にとって俺という存在が邪魔である、または思い出したくない存在であるということ。
この時点で、俺のメンタルはもう既にズタボロだった。
しかし、もう振られたのは昔の話。
いっそ、逆にここで全てを聞きだすくらいしつこく攻めて、いっそ嫌われるくらいになってしまえ!
気が付けば、そんな反骨精神が湧き上がっていた。
そんな決意ともとれる志を、胸の中で燃やしていると、教壇では軽く先輩たちの自己紹介が始まっていた。そして、浜屋莉乃の番が回ってくる。
一列に並んでいるところから一歩前に出て、ニコニコと可愛らしい笑顔を振りまいて挨拶を始めた。
「初めまして、莉乃です!経済学部の2年生で、19歳です。よろしくお願いします」
簡単なプロフィール的な自己紹介が済み、パチパチとまばらな拍手が起こる。
だが、俺だけは驚愕の事実に、口を開けて茫然とするしかなかった。
大学2年生で19歳……だと!?
他の人から見れば、『なんだ、普通の自己紹介じゃん』って思うだろう。だって、普通に高校を卒業してそのまま現役で大学に合格すれば、大学2年生で19歳というのは当たり前のことなのだから。
だが、俺は違った。なぜなら、浜屋莉乃は『高校の同級生』だからだ。つまり俺と同じ大学1年生で18歳のはずなのだ。浜屋の誕生日は確か9月。同い年であれば今は18歳のはずなのだ。
俺の頭は完全に混乱していた。だが、年齢が違うとなると浜屋莉乃の身に何かあったとしか考えられない。
浜屋莉乃……こいつは一体、何者なんだ?
先輩たちの自己紹介の後、新入生は4グループほどに分かれて、各グループに配布されたオリジナルシナリオを自分たちで一からキャスティング、演者、裏方から撮影までの役割分担をして実践してみようという内容だった。
残念ながら浜屋莉乃は、どこグループにも振り分けられず、教壇で幹部の人たちと仲良さそうに談笑している。
俺は全く今行っている『体験会』の内容が、全く頭に入らず、左から右に受け流しているだけの状態になっていた。
横目で浜屋の様子を伺って、浜屋が一人になるタイミングを見計らっていたから・・・・・・
衝撃的なことが多すぎて、今は『体験会』よりも浜屋莉乃に声を掛けて真相を確かめる方が俺の中では優先事項が上になっていた。
しばらく浜屋莉乃の様子を横目で観察していると、浜屋が荷物を持って教壇から離れ、教室の外へ出て行くのが見えた。俺はその瞬間を見逃さなかった。
「ごめん西城さん、ちょっとトイレ行ってくる」
そう西城さんに告げて、俺は荷物を持って説明していたグループの輪から抜け、浜屋莉乃の後を追う。
教室の扉を開けて、廊下へ出て辺りを見渡す。すると、教室の前のドアから反対方向へと歩いて行く浜屋の後姿を見つける。
俺は駆け足で浜屋の後を追いかけた。
そして、すぐ近くまで来たところで思い切って声を掛けた。
「あのっ……!」
声を掛けられた浜屋はクルっと振り返り俺を見つめる。
「はい、なんでしょうか?」
ここにきて、浜屋はまだ他人行儀を装っていた。
「浜屋…莉乃…だよな」
俺はとぼけても無駄だという目つきで浜屋を睨みつける。
浜屋莉乃は、首を傾げてキョトンとした顔でしばらく俺を見つめていたが、ふぅっと肩の力を落とすようにため息をつくと、どこか諦めたような凍てつく眼差しで俺を見つめてきた。
「久しぶり、羽山くん」
観念したように、浜屋莉乃が俺の名前を呼んで挨拶してきた。
ようやく、化けの皮がはがれた、本当の浜屋莉乃が俺の前に姿を現した瞬間だった。
俺はその浜屋の人を凍てつけるような鋭い目線に圧倒されながらも、ぐっとこらえて声を出す。
「ちょっと・・・…話したいことがあるんだけど、いいか?」
俺がそう尋ねると、浜屋莉乃は一度目を瞑ってから、今度は先ほどまでとは違う優しい目で俺に微笑みかけて・・・・・・
「うん、わかった」
と頷いた。
その浜屋莉乃の表情は、逃げ場を失いすべてを悟って諦めた、そんな表情にも見えたのであった。
だが、本当の勝負はここからであるということを俺は肝に銘じなくてはならない。
浜屋莉乃が、何者であるのかということを知るために・・・・・・
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