第17話 体験会に現れた美少女
あっという間に時は過ぎて、『体験会』当日を迎えた。
俺と西城さんは授業を終えて『体験会』の会場となっている教室へと向かっていた。
直前の授業は一年生全員必修の授業だったのだが、浜屋の姿は見た感じいなかった。
まあ、大学生なんて授業の出欠なんて正直あまり加味しているものなんてほとんどない。テストでいい点数が取れればそれだけで単位を貰える授業だってたくさんある。浜屋もそういったテスト前だけ参加すればいいという考えをもって、効率よく授業をサボっているのだろうか?
とにかくだ、授業に出ていなくても、『体験会』には参加するかもしれないし、可能性は捨てないでおこう。
だが、俺はここに来て怖気づいていた。
な、何緊張してんだ俺?!たかが、『体験会』に行くだけじゃないか。でも、浜屋莉乃がいたらどうしよう……いざ浜屋莉乃に声を掛けるにしても、なんと声をかけていいのか分からなくなってきた。
思い出させるのは、あのときの言葉。
「どちら様でしょうか?」
いやいや、ここで怖気付いちゃダメだ!
俺は、浜屋莉乃のことをもっと知ろうと決めたのだから!!
そんなことを考えているうちに、『体験会』が行われる教室に到着した。
大学公認のサークルは、教室の予約をすれば空き教室を借りることができるようで、今日の『体験会』も割り当てられた教室で行うことになっていた。入口から中を覗き込むと、100人くらい収容できる教室の半分ほどの席が既に新入生と思われる人で埋まっていた。
「こんにちは、体験会参加の方ですか?」
すると、教室の中から入口に向かってニコニコと笑みを浮かべて先輩と思われる女性の方が俺たちに尋ねてきた。
「あ、はい。そうです」
「どうぞ、好きな席に座って!」
先輩に促されて、俺と西城さんは恐る恐る教室の中の様子を覗きながら入った。
中にはグループで固まっている人達、一人で座ってスマホを弄っている人、緊張して背筋を伸ばして辺りをキョロキョロと見ている人などそれぞれが各々の待ち時間を持て余している。
俺と西城さんは、手前の方に空いていた2人がけの席に座った。
「結構人多いね」
「うん……」
お互いに緊張しているのか、なんとなく教室内をキョロキョロを見渡してしまう。
すると、後ろの方にこの場にいるはずのない、見知った顔が友達と仲良く話していた。
その知り合いはは、俺の視線に気がついたのかは分からないが、すっと黒い髪を揺らしながら振り返る。まるでドラマのワンシーンかのような彼女の無駄のない動きと美しさに、思わず見とれてしまいそうだ。
彼女は俺を見つけると驚いたような顔をして、友達に何やら断りを入れて椅子を立ち上がり、俺の方へと歩いてくる。
「やおやおじゃん、偶然! どうしたのこんな所に来て?」
俺の事を『やおやお』と呼ぶ人物はこの大学に一人しかいない。中学時代の同級生、津賀愛奈だ。
「それはこっちのセリフだ。なんで津賀こそこんな所にいるんだよ」
「私は友達に誘われて『体験会』に参加しにきた! それで、そっちは……」
津賀は俺の隣に座っている西城さんを覗き込むように窺う。
西城さんは恥ずかしそうにしながらぺこりとお辞儀をして、俺の耳へ顔を近づける。
「羽山くん、この人って……」
「あぁ、中学の同級生の津賀愛奈。ほら、この前すれ違ったでしょ?」
「あーぁ、あの時の」
「初めまして、津賀愛奈っていいます! やおやおとは中学の同級生なんだ!」
「は、初めまして、西城美月です……」
「へぇ〜、西城さんかぁ〜」
津賀は含みのある笑みを浮かべて、西城さんをじぃっと観察する。
西城さんは、津賀の視線に恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いてしまう。
観察し終えた津賀は、顎に人差し指を当てて何か考えた後、ちょいちょいと俺を手招きした。こっちに来いという意味らしい。
「悪い、ちょっと行ってくる」
西城さんに一言謝ってから席を立って、津賀に連れられて教室の壁側にある柱の裏側に向かうと、隠れるようにして津賀が俺の耳に顔を近づける。
すると、どん!っといきなり背中を思い切り叩かれてよろけた。
「あっぶね!」
「ちょっと、ちょっと! やおやおやるじゃーん」
津賀はニヤニヤとした顔をして小声で語りかけてくる。
「何が?」
「何がって。あんなに可愛い女の子捕まえて、1ヶ月ちょっとで彼女にするなんて、やおやおも隅に置けないって話!」
なるほど・・・・・・どうやら津賀は、俺と西城さんが付き合っていると勘違いしているらしい。
「違うって、今はただの友達」
「『今は』なんだね」
ぐっ、津賀の奴、鋭いところ着いてきやがって。
ぐうの音も出ずに口ごもっていると、津賀は柱から西城さんの方をじぃっと見つめる。
「なるほどね〜」
そして、何何か一人で納得したような表情を浮かべた後、ばっと俺の方に向き直った。
「やおやおガンバ!」
ニヤニヤしながら先程よりも強い力でバシンと背中を叩かれる。
教室中にその鈍い音が鳴り響き一斉に座っていた人達が俺達の方を見つめた。
「だから、思い切り叩くのやめてくれ」
「アハハ……ごめんごめん!」
教室中の視線が一気に向けられたことに流石の津賀も恥ずかしかったのか、誤魔化すように薄ら笑いを浮かべている。
その時、教壇のところで立っていた先輩が、新入生たちにそろそろ始めますという声を上げた。
「それじゃ、やおやおまたね〜」
その合図と共に、津賀はひらひらと手を振りながら自分が座る席へと戻って行った。
俺も続くように、西城さんも元へと戻る。
「大丈夫?なんか凄い音が聞こえたけど」
先程の鈍い音が西城さんにも届いていたようで、心配そうに聞いてきてくれる。
「あ、うん。大丈夫……」
俺は背中を軽く擦りながら、椅子に腰かけた。
まだちょっとヒリヒリとした痛みが残っていたが、時期に収まってくるだろう。
そうこうしているうちに、いつの間にか教室の外でスタンバイしていたらしい先輩たちがぞろぞろと教室内へと入ってきた。
そして、俺はその中に信じられない光景が目にする。先輩たちの列の中にひときわ目立つキラキラとしたオーラを放つ異色な別次元の美少女。そう、浜屋莉乃が現れたのだ。
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