第16話 カレーデート!?
授業を終えて放課後。
今俺と西城さんは、授業終わりの夕方の食堂で乙中の向かい側に並んで座っている。
二人とも先ほどの不機嫌な様子ではなく、落ち着いた感じではあったので安心したが、西城さんはどこか落ち着かない様子で、むしろ乙中の方が終始リラックスしているような感じに見える。
「それで、相談があるって聞いたんだけど……」
俺が本題を切り出すと、乙中が思い出したように話し出す。
「そうそう。あんたってカレー好きだよね?」
「カ、カレー??」
「好きだよね? そうだよね?」
乙中の口調には、半ば強制的に好きって言えというような威圧さえ感じられる。
まあ、カレーが好きな方なので正直に答える。
「まあ、普通に好きだけど……」
「よかった~。実はね、どうしてもいきたい喫茶店があって、そこで提供してるカレーが凄い絶品って噂なんだけど、一人じゃ心細いから一緒についてきてくれないかな?」
「えっ、俺と!?」
「うん、それと美月も一緒に来てくれると私的にはとても助かるかも~」
「う、うん…私も行っていいなら喜んでいくよ!」
どうにも二人の言動が怪しい気が……訝しんだ表情で乙中を見つめていると、その視線に気が付いた乙中が俺の手をガシっと掴んでくる。
「あ~もう我慢できないな~今から行きたい」
「えっ!? 今から!?」
「美月も今すぐ行きたいよね、そうだよね?」
「う、うん!今すぐカレー食べたいかな、なんて……」
えへへと笑いながら期待の目で見つめてくる西城さん。
まあ、西城さんは大のカレー好きだし、目を輝かせるのも分かる。
それに、西城さんが嬉しそうにカレーを食べる姿は見ていて微笑ましいし、こっちとしても幸せな気持ちになれるので、俺の心は行く方へと気持ちが傾いていた。
「まあ、今日はなんも予定もないし、そんなに行きたいならいいけど」
「ホントに!? ありがと!」
最初に歓喜の声を上げたのは西城さんだった。
「やったー」
続けて乙中の全然うれしそうじゃない棒読みの声が聞こえてくる。
これって、相談というか、ただ単に西城さんが行きたいお店だっただけじゃ……
だが、ここまで二人が頑張って演技したことを口に出すようなことはしない。
ここは、騙されてついていきますか。
◇
俺たち三人は、大学近くにあるとあるお店の前に到着した。
パッと見、普通の住宅にも見えてしまう店構えだが、窓から店内をチラっと覗いた感じ、ちらほらとお客さんらしき人が見えていた。
店の名前は、喫茶店『カラフル』。喫茶店でカレーというのが合わない気もするが、本当にこのお店に絶品カレーが置いてあるのだろうか?
だが、横を振り向くとお店の看板を眺め西城さんが目を輝かせていた。
「は、入ろうか・・・・・・」
「うん!」
俺が西城さんにそう言って、店内へ入ろうとした時だった。
「あ、ごめんちょっと電話」
そう言って、乙中がスマホを片手に電話に出ながら背を向けて誰かと話し始めてしまう
俺たちは乙中の電話を待つことにした。
「うん、わかった。それじゃ」
電話を切った乙中が申し訳なさそうな顔をしてこちらに戻ってきた。
「ごめん、彼氏から電話が来て、今から会えないかって」
「これまた急だな……」
「まあ、大体いつもこんなもん」
乙中の彼氏は、他大学でバリバリの運動部で活動している。そのため、ほとんど休みがなく、月に一度か二度しか会えないそうだ。
「というわけでごめん二人とも、私はとぉぉぉっても残念だけど、このお店入れそうにないから、二人で楽しんできて」
「うん、わかった! 美央ちゃんも楽しんできてね」
すると、乙中は西城さんを手招きして、こそこそと何かを話している。
話し終えると、お互いに顔を戻して、ウインクでアイコンタクトを送っている。
俺が首を傾げていると、乙中がこちらを向いて今度は俺に対してウインクをして見せる。
え、何? 俺にもウインク? どういうこと??
「それじゃ、私はこれで」
俺の頭が混乱している中、乙中はそう言い残してさっさと駅へと歩いて行ってしまった。
取り残された俺と西城さんはどちらからとでもなく目が合った。
突然好きな女の子と二人きりにさせられると、何を話せばいいのやら……
「とりあえず入ろうか」
「うん、そうだね」
そう頷き合って、俺と西城さんは喫茶店の中へと足を踏み入れた。
そして俺は今、二人がけのテーブルで向かい合うようにして座り、幸せそうにカレーを頬張る西城さんの姿に見とれていた。
嬉しそうに頬を緩ませて食べている西城さんを見ていると、なんだか一日の疲れを一気に吹っ飛ばしてくれる効果がありそう。ってか、実際にもう疲れなど全く感じていないから本当にリフレッシュ効果があるのかもしれない。
俺が見とれていると、ふと西城さんが俺の方に視線を向けてくる。
「どうしたの? 羽山くん?」
「あっ、いや! なんでもない!」
誤魔化すように、スプーンでカレーをすくい上げて口の中に頬張る。
「にしてもここのカレー本当においしいね!」
「確かに、ちょっと予想外だったかも」
カレーは、予想を超えるほどの美味だった。
喫茶店のカレーだと思って少々舐めていたが、これは専門店と張り合っても忖度ないほどにとてもまろやかでコクがあるカレーだった。
「羽山くんを誘えてよかったよ~」
「誘ってきたのは乙中だけどな」
「はっ!?」
しまった! というように西城さんは口元を手で覆い隠す。
「別にいいよ。途中で気づいてたし。誘ってくれてありがとうね」
「う、うん……羽山くんと一緒に来たかったからさ///」
恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言ってくれる西城さん。
「お、おう・・・///」
二人の間にちょっと甘酸っぱいような雰囲気が生まれる。
これって、そういうことなのか?!
いやでも、西城さんはそういう意味で言ってるとも限らないし……
「今度さ・・・・・・」
「へ?」
「今度また行きたいお店があったらさ、一緒に付き合ってくれる?」
上目づかいで尋ねてくる西城さん。その仕草がまた可愛らしくて、俺は胸がキュンと締め付けられるような感覚に陥る。
「べ、別に俺でよければいつでも・・・・・・」
「そっか……ありがと///」
なんだこれ!?
なんだこの甘い雰囲気は・・・・・・
いや、俺にとっては願ったりかなったりの展開なんだけど……
ちらっと西城さんの方を向くと、俯きながらもチラチラと西城さんもこちらを気にするように見つめてくる。
「っ!?///」
俺はその可愛さに心の中で悶絶しつつ、誤魔化すようにスプーンでまたカレーをすくって口の中へ放り込んだ。
それから、お互いに無言であっという間にカレー平らげてしまい、今は食後のお口直しのラッシーを飲みながら至福のひとときを過ごしていた。
「あのさ、羽山くん」
「ん、何?」
すると、西城さんが姿勢を正して真剣な顔で俺を見つめてきた。
「羽山くんってさ、今好きな人とか……いたりする?」
「えっ……」
俺の頭は完全に混乱した。
こういう場合、どう答えればいいんだ?
『うん、今目の前に』とかキザっぽく答えたら気持ち悪がられるだろうし……
『うん、誰だと思う?』とかワザとっぽく聞いてみるのもありか?いやいや、そんなキャラじゃないしな……
「羽山くん??」
何も答えない俺が不思議だったのか、キョトンと首を傾げている。
「ごめん、ごめん! 急にどうしてそんなこと?」
「え!?いや、そのぉ…///」
そう問い返されて、西城さんは俯いて口ごもってしまう。
「あっ、いや。言いたくないならいいんだ!」
慌てて西城さんにフォローする。
いかん! 一番間違った選択肢を選んでしまった気がする!
「私こそ急に変なこと聞いてごめん…!・・」
それっきり、二人の間に気まずい雰囲気が漂ってしまった。
しばらく何か話さなければと焦っていたが、沈黙を破ったのも西城さんの方からだった。
「そう言えば、羽山くんは明後日の映画製作サークルの『体験会』は行く?」
「へ!? あ、あぁ……行くつもりだけど」
「そっか、それじゃあ授業終わったら一緒に行こ」
「いいよ」
「楽しみだなぁ~。どんな感じでやるんだろうね!」
西城さんは『体験会』がどういうものなのか、自分なりに想像して期待を膨らませている。
俺も映像制作がどのように行われているのかは、多少興味があるので気になるところではあるが、それよりも俺の中では新歓の時に出会った、浜屋莉乃のことで頭に思い浮かぶ。
そこで授業に浜屋がいたなということもついでに思いだした。
その『体験会』とやらに、浜屋莉乃が来るという保証はない。だが、新歓での先輩たちとの異様なまでの仲の良さや溶け込み具合から考えて、おそらく『体験会』にも現れるのではないかと予想していた。
というか、そんな予感がしているのだ。俺の予感はこういう時はよく当たる。
浜屋のことについて、今までのことについて・・・・・・探るチャンスはもうあまりないかもしれない。改めて明後日の『体験会』、気合を入れ直して備える必要があると再認識するいい機会になった。
明後日の体験会、俺は俺ですることをさせてもらう。
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