第15話 浜屋莉乃再び
翌日、俺は眠気と戦いながら授業を受けていた。
両隣に目を移すと、机に突っ伏して橋岡と船津が爆睡していた。
昨日は、あれから室内でのゲームや軽い運動程度のスポーツを中心に5人で仲良く楽しんだ。西城さんも次第に笑顔が増えていき、最後には満足した表情を浮かべていたので何よりだ。
肘をついて顔を手に乗せ、起きているの寝ているのか分からない状態になってきたとき、ツンツンと後ろから肩をかれ意識が呼び戻される。
後ろを振り返ると、腕を伸ばしてすっと西城さんが紙きれを渡してきた。受け取る際にウインクまでしてきた。その仕草が可愛らしくて思わず見とれてしまいそうになるが、なんとか理性を保ち、顔を前に戻して折りたたまれた紙きれを開いた。
『今日の夜、時間あるかな?美央が相談あるんだって』
そう書かれている文面を見てから、俺は再び後ろを振り返り今度は乙中を見つめる。
乙中は手を合わせて申し訳ないというようなジェスチャーをしている。
夜は特に予定もないし、断る理由もなかったので、俺は『いいよ』と返事を書いて再び西城さんへ返した。
にしても、乙中からお願いされるとは、珍しいこともあるんだな……
そんなことを思って教壇に立っている講師の話を聞いていると、突然ドンッ!っと大きな音がした。
教室中の人がその音がした方へと視線を向ける。
そこには、教室の後ろのドアが荒っぽく開かれ、息を切らしながら一人の女性が教室に入ってきたところだった。
他の人は、それ以上興味を示すことはなく前を向いてしまうが、俺は目を離すことが出来なかった。なぜなら、現れたその女性が浜屋莉乃だったから。
浜屋は教室中からの視線を受けて恥ずかしそうにペコリとお辞儀をしてから、今度は丁寧に扉を閉めて空いている席を探す。そして、後ろの方に空いていた二人掛けの机に静かに着席する。
駅から走ってきたのだろう。ハンカチで顔を仰いで涼しい風を送っている。
浜屋莉乃一つ一つの仕草に趣があり、俺は釘付けになってしまっていた。
ってか、アイツ同じ学部だったのか。今まで全然知らなかったぞ。
あの新歓以降、浜屋から音沙汰はなく、悶々とした日々が続いていた。
LINEのアカウントは高校時代に交換しているので知っている。だが、新歓の時に『どちら様ですか?』とまで突き放されておいて、再びLINEで『やっぱりさっきの浜屋だよね?』と聞くのも気が引けたので、浜屋の方から何かアクションを起こしてくるかと待っていたのだが。結局連絡は一切来なかった。
もしかしたら、本当は浜屋莉乃ではない別の人物なのか?
いやでも、新歓で一緒にいた先輩らしき人に『莉乃』って呼ばれてたし・・・・・・間違いなく本人だろう。
とすると、本当に俺のことを覚えていない。または彼女にとって思い出したくない記憶になってしまっているのどちらかであろう。
問題なのは後者だ。思い出したくない記憶であれば間違いなく彼女にとっては嫌な歴史。いわゆる黒歴史ということになる。
そうすると、俺の存在自体が嫌われている可能性がある。となると、俺がサークルに入ったとしても全く相手にされずに無視され続けるなんてこともあるかもしれない。彼女にとっては俺の存在はストレスにしかならないのだ。
そして、俺にはもう一つ心につっかかっていることがあった。それは、浜屋莉乃があのサークルの先輩たちと異様に仲がいいということ。
浜屋は間違いなく新一年生であるはずなのに、何故あんなにも先輩たちと仲良さそうに話していたのか。高校時代の浜屋を知っている身からすれば、最初の方は人見知りして、中々笑顔を見せないのが浜屋のはずなのに・・・・・・
まるで、浜屋が先輩であるかのようにあのサークルに馴染みすぎていたのだ。
俺がそんなことを考えている間にも、浜屋はバッグの中から授業のレジュメと筆記用具を取りだして、ウェーブのかかった茶髪の髪をふわぁっと手でかき上げて授業を真剣な表情で聞く体勢を整えていた。
その時だ、腕をむぎゅっと誰かにつねられ、激しい衝撃が走る。
「痛い痛い痛い……」
つねられた腕の先を目線でたどると、西城さんが頬を膨らませ、何やら不満げな表情を浮かべている。
俺がどうしたの?と目線で問うと、ぷいっと西城さんは目を逸らしてしまう。
えぇ?何?どういうこと?
俺何か悪いことした??
訳が分からず、困惑していると乙中の『バーカ』というボソっとした声が耳に届いた。
乙中へ視線を向けると、自分で考えなさいとでもいうように俺を視野に入れることなく、前の講師を見つめたまま表情を崩さない。
果たして、俺は一体何をしでかしてしまったのだろうか?
浜屋莉乃のことなど頭から吹き飛び、今は西城さんが機嫌を損ねている原因がなんなのか、こりゃ授業が終わるまで頭を捻って考える羽目になりそうだな。
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