第33話 朝の二人

 朝、目を覚ますと見慣れてきたいつもの天井が目に入った。

 しかし、身体を起こすと、そこには見慣れない光景が広がっていた。


 壁際に寄りかかって眠っている羽山くんと、うつぶせになってるこの人は・・・・・・愛奈ちゃん?


 どうして二人が私の家に上がり込んで眠っているのだろう。

 思い出そうとするが、頭がズキンズキンと痛む。それに、昨日のこともよく思い出せない。


「確か私・・・・・・昨日は、授業が終わった後映画製作サークルの確定会に行って・・・・・・あっ」


 断片的にだが、思い出した気がする。

 乾杯で飲んだのがお酒で、自分でもびっくりするほど弱くてすぐに泥酔してしまって、そのまま起きなくて羽山くんにおんぶされてた気が・・・・・・その時私、羽山くんの匂いを嗅いで一人で満喫していた気が!?

 それに、太ももの辺りをがっしり羽山くんに掴まれておぶられていた気が……


「//////」


 急に恥ずかしくなってきて、無意識のうちに掴まれていたであろう太ももの辺りを触ってしまう。


 ちょっと、だらしない身体つきとか思われたかな?? 大丈夫かな??


 そんなことを思いつつ、羽山くんの方を見る。

 羽山くんの後ろの方に窓があり、ガラスが濡れていた。どうやら雨が降っていたようだ。

 今は朝の静けさと共に、雲の間から空が明るくなり始めている。壁に掛けられている時計を見ると朝5時を回ろうとしていた。


 私は布団から出て、羽山くんを起こさないようにしてそっと羽山くんの元へと近づいていく。


 いけないことをしているわけではないのになぜか胸の鼓動がドクン、ドクンと大きくなっていくのが感じ取れる。

 もうちょっとだけ……羽山くんの寝顔を見ていたい。

 私はそんな衝動に駆られて、ゆっくりと羽山くんの寝ているそばでじぃっと観察した。

 その間も私の顔は暑くて、火照っているような感じがした。



 ◇



「……くん・・・・・・羽山くん」


 優しい女の子の声が俺を呼んでいるのが聞こえ、俺は重い瞼を開けた。


 目を開けて視界に見えたのは、頬を軽く染めたこちらの様子を伺っている可愛らしい美少女だった。朝からこんな可愛らしい女の子を見られるなんて、なんてついている日なんだろう。って、そうじゃなくて。


「あれ? 西城さん起きたんだ・・・・・・」

「おはよう。羽山くん///  その、昨日は・・・・・・」


 昨日・・・・・・はっ!?


 西城さんが何か言いかけていたが、俺はビクっと一気に目を覚ましてくるっと後ろにかかっている時計を見た。時刻は5時10分を回っていた。

 窓ガラス越しに見える空は、既に雨がやみ、草木の奥には明るい朝日が昇ろうとしていた。外では元気に雀が泣いている声も聞こえる。



 再び振り返ると、西城さんが驚いたような表情を浮かべていた。


「悪い、昨日西城さんを家まで送ったら、そこにいるアホが寝ちゃって……おぶって帰ろうとしたんだけど雨降ってきちゃって、雨宿りしてる間に気が付いたら寝ちゃってた」


 俺が端的に事の状況を説明すると、西城さんは優しい笑みを浮かべる。


「そうだったんだ。私は全然気にしてないから平気だよ。むしろ家まで届けてくれてこちらそこありがとうって感じだし。羽山くんは親御さんとか心配しない? 大丈夫?」

「あぁ、うちは基本的に放任主義だから大丈夫」


 妹には何か言われそうではあるけど。


「そっか、それならよかった」


 西城さんがほっとしたように胸を撫でおろす。


「そろそろ俺はあそこで寝てるやつと一緒にお暇するよ。おい、津賀起きろ」

「大丈夫だよ。寝かせておいて」

「いや、でも迷惑だろ?」

「ううん、全然。愛奈ちゃんも私を家まで届けてくれたんでしょ? それに、私いつも休日はいつも一人で過ごしているから、たまにはこうして他の人が一緒にいてくれると嬉しいし」


 西城さんは、どこか哀愁漂う顔でそう言った。


「そうか……」


 万年実家暮らしの俺には分からないが、一人暮らしの西城さんにとっては、一人という孤独に対して寂しく感じてしまうことのあるのだろう。


 津賀も西城さんも形は違えど孤独を経験している身。どこか、一緒に誰かといたいという気持ちが心のどこかに潜んでいるのだろう。


「わかった。それじゃあ、俺は先に失礼させてもらう」

「うん、わかった」


 西城さんはちょっと寂しい顔をした気もするが気のせいだろう。男がいたらちょっと肩身が狭だろうし、ここは女の子同士だけにさせてあげることにしよう。

 荷物を持って、玄関で靴を履いていると、西城さんは見送りに玄関前までついてきてくれた。


「忘れ物ない? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。もしあったら、また大学で渡してくれればいいし」

「そうだね」


 俺は最後につま先でトントンと蹴って靴を履いて、玄関の扉を開けて外廊下に出る。


「それじゃあ、また来週」

「うん」

「ありがとうね」

「こちらそこ、ありがとう」


 お互い手を振りあって、ドアが閉まって見えなくなるまでその笑顔を見逃さまいといったように最後まで見つめ合っていた。

 まるで、恋人のように・・・・・・

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