第70話 仲直り
無事に仮免学科試験を合格して、実技の修了検定も一発で合格。
そこからも俺たちの関係性に変化はなく、仮免許期間もあっという間に過ぎていき、効果測定を終え、最後の実技試験の卒業検定真っ最中。乗車を終えて、試験の結果待ちだった。
すると、津賀も卒業検定試験を終えて、教習所へと帰ってきた。
俺を見つけると、津賀は隣に腰かける。
「やおやおどうだった?」
「あぁ……何とか?」
大丈夫だ、ラッキーなことに苦手な縦列駐車じゃなくて、後退の試験だったし、危なげない走りをしたと思う。
津賀も不安なのか、それ以上言葉は発さない。
俺達は、仮免学科試験の前日の夜以降、そんな事務的なうわべだけの会話が続いていた。どこか、お互いの様子を探り合うような、むしゃくしゃするような会話。
あの時、何故津賀は突然あんなことを言ってきたのだろうか?
一時の感情で流された? 人肌が恋しくなった? それともまた他に理由があるのか?
そんなことを頭の中でぐるぐると考えていた。
すると、教官が待合室から出てきた。
俺の姿を見つけると、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。
その教官のニコニコとした表情を見た時、俺は確信した。
◇
俺と津賀はホテルに帰り、ふぅっと息をついた。
「終わったな」
「やっとだね……」
長いようで短かった免許合宿もあっという間に終わりを告げた。
最後はすごい緊張したけれど、無事にお互いノンストップで合格できてよかった。
「これで後は明日帰るだけ!」
終わったことの達成感からか、今日の津賀はいくらか機嫌がいいようだ。
「ねぇ、やおやお」
すると、津賀が俺の方を見つめて口を開く。
「二人で外出しない?」
時刻は夕方16時を回り、既に日は傾き始めている。
合宿は終わり、今日宿泊して明日の朝関東へと戻る。
今俺たちに縛られているものは何もないのだ。
だが、俺は少し躊躇していた。ここ一週間、津賀と取り繕う会話ばかりしてきたので、その提案に乗っていいのかわからなかったから。
しかし、津賀は俺の考えていることを理解しているように言葉をつづけた。
「やっぱり、今のまま別れるのいやじゃん? だから、仲直りの意味も込めて……どうかな?」
いつもの上目遣いではなく、恥じらいながらしおらしい態度で尋ねてくる津賀。
その姿が珍しく、彼女の本心であると思った俺は、首を縦に振った。
◇
「ふぅ~やっぱりこっちは夏場でも夕方になると涼しいね~」
両手を上に伸ばしながら、津賀が呑気にそんなことを言ってくる。
「あぁ……そうだな」
俺はそんなそっけない返事を返すことしか出来ない。
すると津賀は、地面へ視線を落としながら尋ねてきた。
「やおやおはさ、この免許合宿、やっぱり迷惑だったかな?」
不安そうな声を出す津賀に、俺は思わず視線を向けてしまう。
津賀は地面に向けていた顔を上げて、苦笑の笑みを浮かべていた。
そうか……津賀は前提として俺と一緒に免許合宿に行くことを楽しみにしていたんだな。そんなことにも今まで気が付けなかった自分が恥ずかしい。
だから、俺は必死に否定するように首を横に振る。
「そんなことない……津賀とこうして一緒に来れて、俺もうれしかった」
「そっか……」
だが、津賀の言葉に覇気はない。
「……」
「……」
再び俺たちの元に生まれてしまう沈黙。
時々通り過ぎる車の音と、俺達の足音だけが辺りに木霊する。
しかし、一瞬物音がしなくなった瞬間、津賀はがっと俺の腕に手を回してきた。
その行動に、思わず身体を強張らせてしまう。
津賀は俺を見上げて、照れくさそうににひっと笑った。
これが、彼女なりの仲直りのスキンシップなのだろう。ここに俺達の関係性を知っている者は誰もいない。だから、取ってきた行動かもしれない。そういうことであるならば、俺もそれを甘んじて受け入れる必要がある。
俺は津賀のその温かくて柔らかい小さな手をぎゅっと掴んだ。津賀も同じようきゅっと掴み返してくる。
「えへへ……なんか恥ずかしい」
「お前が言うか」
俺だって恥ずかしい。こんなにドキドキさせられたのは久しぶりだ。
「行こうか」
「おう」
俺達は手を取り合って、目的地へと歩みを進めていった。
津賀の頬は、夕陽に当てられてか、その褐色色の肌が朱に染まっているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。