第13話 デートの代償

 津賀とのデートの翌日。


 俺はスマートフォンの着信で起こされた。

 眠気がまだ覚めぬ中。スマホを手に取り、何とか目を開けて画面を見る。

 着信は、『船津』からだった。俺は着信ボタンを押して、スマートフォンを耳に押し当てた。


「もしもし??」

「よぉ、やお! って、もしかして寝起き?」

「今テメェの着信がモーニングコールだよ」


 嫌味がましく言ってやると、悪気はないと言わんばかりに船津は話をつづけた。


「今から啓人とスポーチャ行こって話になってんだけど、やおも来るっしょ?」

「えぇ・・・・・・」


 嫌悪感丸出しの声で船津に返事を返し、チラっと部屋の時計を見た。

 時刻は朝の9時を回ったところだ。


 スポーチャとは、複合エンターテインメント施設、通称『ラウワン』に入っているスポーツアミューズメント施設のことだ。サッカーやバスケの球技やロデオやローラースケートの室内競技、はたまたコミックコーナーなどもある身体を動かして時に休んでと、ラウワンの様々な物を楽しむことが出来るところなのだが、正直今は乗り気でない。


 なぜなら、昨日の筋肉痛が悲鳴を上げていたからだ。


 昨日、朝から津賀とスルーピータウンのカップル限定マグカップを手に入れた後、俺が提案した映画を見に行った。そのあとは近くのファミレスに入り、映画の余韻に浸りながら感想を言い合ったりして。そこから久しぶりに観光地の方を歩いてみたり、海辺の公園や赤レンガなどをぶらぶらと周り、最後は横浜駅に戻ってご飯屋さんで夕食を共に食べて、津賀の最寄り駅まで送って帰るという、まるで恋人のようなデートを楽しんでしまった。

 しかも、帰り際に・・・


「また、遊ぼうね!やおやお!」


 と屈託のない笑顔でそう言われてしまった。津賀がどこまで本気で言っているのかは分からなかったが、俺は普通に楽しかったのでまた誘われたら、デートしちゃうんだろうな・・・・・・と思いつつ、俺は現実へと話を戻す。


 まあとにかくだ、昨日のデートで受験勉強で訛っていた俺の身体は既に悲鳴を上げ、そこら中が凝り固まって筋肉痛だ。そこに、よりにもよってスポーチャとは・・・・・・流石に友達の誘いでも行く気が失せた。


「ごめん、今日は流石に休みたいな・・・・・・」


 俺は、申し訳なさそうにやんわりと断った。


「そっか、それは残念だ・・・・・・せっかく西城さんも来るって言ってるのになぁ~」


 何!? 西城さんが来るだと・・・!?

 そうとなれば話が別だ。

 俺は一気に目が冴え、自室のベッドから飛び起きた。


「なんでそれを先に言わないんだよお前は!」

「いやぁ~やっぱり隠し玉は最後まで残しておかなきゃっしょ!」


 こいつ、俺をはめやがったな・・・・・・

 とにかく、西城さんがくるのであれば、俺も断る理由がなかった。


「わかった。何時にどこに行けばいい?」


 と手っ取り早く時間と場所を聞いてから、船津との通話を切った。

 西城さんとスポーチャかぁ……楽しみだなぁ~

 俺は完全に浮かれモードになり、待ち合わせの時間まで待ちきれないといった感じで、準備を始めるのだった。


 リビングに降りると、午前中からベッドに寝っ転がり、スマートフォン片手に動画配信サイトの動画をケラケラと笑いながら見ているグータラな妹が横たわっていた。


「あ、お兄ちゃんおはよう。昨日は随分とお楽しみだったねえ~」


 動画がおもしろかったのか、ニヤニヤして俺を見ている。

 なわけないよな、からかってるだけだわ。


「べ、別に・・・・・・そんな楽しくは・・・・・・」

「そんなこと言って~、顔がにやけてるよ、お兄ちゃん?」

「何!?」


 思わず咄嗟に口元を隠すと、確信めいた表情の弥生。


「ふぅ~ん…まあ、お兄ちゃんが楽しかったなら弥生はなによりだよ。」


 そう言って、感心したように両頬に手を当ててニヤニヤと見つめてくる。


「よかったねぇ~お兄ちゃん」

「う、うるせぇ/// 俺は出かけるからな!」


 俺は逃げるようにリビングを後にしようとする。



「え!? 一日じゃ飽き足らず2日連続で!? お兄ちゃん肉食ぅぅぅ~」

「ちげぇよ!今日は違う人!」

「ま、まさかお兄ちゃん!? いつの間にそんなプレイボーイに!?」

「アホ、今日はクラスの男友達だ」


 まあ女の子もいるけど。


「へぇ~行ってらっしゃーい」


 男友達と言った瞬間、弥生は興味をなくし、スマホに視線を戻して適当に俺をあしらってしまう。


「おい・・・・・・」


 ホントこいつは、俺の色恋沙汰にしか興味がねぇのな・・・・・・

 ため息をつきながら、俺はリビングを後にして、家を出て待ち合わせ場所へと向かった。



 ◇



 お昼前。

 俺達は棒某テレビ局があるお台場の駅改札前で、最後の一人が来るのを待っていた。

 既に待ち合わせ時刻よりも15分は過ぎている。


「なぁ、本当に来るんだよな?」

「うん、もうすぐ着くって今さっき連絡があったから……」


 そう言いながら、俺と船津は横でカツカツと靴を鳴らして、イライラオーラを全開にしている乙中の様子を伺う。

 その横で、アハハと苦笑いを浮かべている西城さんが居心地悪そうにしていた。


 そうこうしているうちに、電車が到着したらしく、地下ホームから電車を降りた人達がぞろぞろと改札口へと向かってきていた。その中に、見知った顔がようやく現れた。


「ごめんなさい、遅れました!」


 駆け足でこちらに向かいながら、手を合わせて橋岡は謝ってきた。


「遅い、いつまで待たせるつもり?」


 最初にそう言い放ったのは、乙中だった。腕を組んで機嫌悪そうに橋岡を睨みつけて突き放すような口調だった。


「ほ、本当にごめんなさい……」


 乙中さんからの言葉が効いたらしく、橋岡はしゅんっと項垂れた。

 乙中は冷酷な視線を橋岡に向けていたが、ぷぃっと踵を返して先に歩いて行ってしまう。


「わ、私たちも行こうか!」

「お、おう・・・・・・」


 西城さんに促されて、俺たちも乙中の後を追うようにしてスポーチャへと歩き出す。


 項垂れている橋岡も、何とか体勢を保ってついてきた。まあ、スポーチャに到着したことには復活してるだろう。


 乙中さん、マジ恐いっす……

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