第111話 思惑

 藤野と西城さんの話し合いを終え、俺たちはファミレスを後にして藤野と別れた。

 

 俺と西城さんは、観光を満喫していた津賀達撮影班と再び合流して、夜の高速道路をひた走り、都内へと戻っていた。


 車内は皆疲れてしまったのか、後部座席組は全員爆睡状態で、運転する人とカーステレオから流れてくるラジオ番組のJPOPが、車内に響き渡っているだけだ。


 俺は二列目の窓際の席で、ドア付近のところに肘をつき、車窓風景をぼおっと眺めていた。

 一定間隔で過ぎ去る高速道路上にある街頭の光を目で追いつつ、今日のファミレスでの出来事を思い出す。



 ◇



「その説得の時、俺も同席していいか?」


 俺が真っ直ぐな眼差しで二人に言いきると、心底驚いたような表情を浮かべる。


「えっ……でも羽山くんにこれ以上してもらうのは流石に……」

「いやっ、そうじゃないんだ」


 西城さんの言葉を遮るように手で制して、俺はふっと息を吐くように言葉を続けた。


「これは推測おくそくになるけど、多分うちの親父もこの件に絡んでる」

「えっ、どういうこと?」


 西城さんが驚いたような口調で問うてくる。が、藤野は落ち着いた様子で、何かを悟ったような表情で瞑目めいもくしている。


「俺は始め、親父から藤野から頼まれて、西城さんを見つめて欲しいと頼まれた。その時、俺の親父は福島へ出張に行っていた。だけどそれは虚言きょげんで、本当は藤野のお父さんに会いに行っていたんだろう。今回の婚約を辞めるようにと促すために」


 これはただの推測でしかない。しかし、藤野が何も言わずにただ黙って聞いていることから見て、大方見当外れではないのだろう。

 

 俺はさらに西城さんへ話を続けた。


「つまり、俺の家族もこの問題に既に足を突っ込んでるも同然ってこと。藤野のお父さんと西城さんの母親の再婚を止めようと動いていることに」

「……それじゃあ、羽山くんはそれで私たちを?」


 大体の状況を理解した西城さんが、ちらりと黙りこくったままの藤野へ視線を向ける。


 藤野が何も言わない代わりに、沈黙の意味を代わりにくみ取った。


「多分、あの人たちは穏便おんびんに事を済ませたいと思っている。だから、すべて事を済ませてから二人を顔合わせるつもりだった。二人に有無を言わせる前にな。でも、幸運なことに二人を巡り合わせる共通の人物がここにいた。それが俺ってわけだ」


 自分を指差して、高らかに言うと、今まで黙っていた藤野が、はぁっと息を吐いた。


「先に私たちが出会って、同じ意見だったとしたら、親としても説得したら考えざる負えないでしょ? だから、一刻も早くお姉ちゃんを見つける必要があった」


 西城さんに向ける藤野の瞳には、どこか決意のような意志が感じられた。

 藤野の視線を受け取って、西城さんは戸惑いを隠せない表情で視線を俺に向けてくる。


「羽山くんは……それでいいの?」


 何一つ、具体的なこと言わなかった。けれど、得てして西城さんが何を俺に対して問うているのか、今の俺には分かる。


「ここまで来て、最後まで付き合わないっていうのも、後味悪いしな。最後まで、協力させてもらうよ」


 そっぽを向きながら言いきると、視界の端で、西城さんの口元がほころぶのがちらりと窺えた。


「ありがと、羽山くん」


 そして、西城さんは嬉しさと感激が入り混じったような、にこっとした笑顔で、お礼を言ってきた。


 これで、三人の意志も固まり、後は計画を細かく練って、実行に移すだけ。

 時間は急ぐに越したことはないが、俺達も明日からまた大学が始まってしまうし、文化祭も近づいている。

 一旦、各々家に着いてから、改めて日程を調整する方向で話がまとまり、今こうして一度都内へと戻っていた。


 ふと横を見れば、西城さんが目を瞑って、ぐっすりと眠りについている。

 今日だけで、実家での撮影を行って、血の半分繋がった妹に出会い、親の離婚を止める手段を話し合うことになり、気が滅入ってしまうほどに疲れたに違いない。


 今の西城さんを少しでも手助けしてあげたい。

 西城さんの心を少しでも楽にさせてあげたい。

 ただの自己満足でしかないとしても、俺はその一身だけで動こうと、心に決めた。

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