第20話 リセット
家に帰ると、いつものようにリビングで妹の弥生が出迎えてくれた。
「おかえりお兄ちゃんってどうしたの、そんなに暗い顔して?」
「……」
俺は無言でそのまま弥生の元へと近づいていく。
弥生はキョトンとしながら俺をじっと眺めている。
俺は弥生が寝っ転がっているソファーの前まで行き、そのまま弥生に覆いかぶさるように倒れ込み……
「弥生ぃぃぃ~!!」
「うわぁぁぁぁ! お兄ちゃん!?」
弥生が寝っ転がっているソファーにダイブした。
だが、弥生はその愛がこもったお兄ちゃんのダイブを間一髪でかわした。
くそ・・・・・・せっかく俺の愛ののしかかりを回避するとは。
「何すんのお兄ちゃん!!」
弥生は驚いたように顔を強張らせて怒気を強めて言ってきた。
「お兄ちゃんはもうだめだ弥生、しばらく立ち直れそうにない……」
俺がソファーに倒れてうつぶせになりながらつぶやくと、弥生は心底呆れたようなため息をついた。
「あのね、お兄ちゃん。他の男に狙ってた女の子お持ち帰りされただけでそんな人生の終わりみたいなテンションにならないの。また別の女の子お持ち帰りすればいいじゃん?」
「いや、だからなんでお前は俺が合コン帰りの設定になってるわけ?」
大学生毎日そんなお持ち帰り合コンしてるわけじゃないからね?
というか、逆に弥生が大学生になった時に、お兄ちゃん弥生が変な男に引っ掛かってついて行っちゃうんじゃないかって心配だよ。
弥生は俺の心配など見ず知らず、軽い感じで苦笑する。
「まあまあ、でも女の子関係なのは違いないんでしょ?」
「そ、それは……」
思わず口ごもってしまうと、今度は先ほどよりも少し同情のこもったため息を弥生は漏らした。
「あのね、お兄ちゃん。どんなにパッとしないお兄ちゃんでもね、第一印象だけで意外と女の子は食いついたりするもんなんだよ? テンション上げたりとか、面白いこと言ってみたりとか。そういうことだけでも実は好印象だったりするの。だから、お兄ちゃんに必要なのは失敗を恐れない積極性なんだよ!」
シャキーン!という効果音でも鳴りそうな感じで、弥生がどや顔で力説してくる。だけど、残念ながら今回はそういうのじゃないんだよな……
「あ~はいはい。よくわかったから。明日も早いんだから早く寝ろよ」
俺はソファーから起き上がって、弥生の頭をポンっと叩いてそのままリビングを後にした。
弥生はまだ話が終わってないとかなんとかぐずぐず言っていたが、無視してリビングの扉を閉めた。
階段を登り、自分の部屋へと向かう。
部屋の扉を開けて明かりをつけると、そのままベッドに倒れ込んだ。
体力的には疲れていないはずなのだが、精神的に参ってしまったのか鉛がついているように身体全体が重く、もうこのまま眠りについてしまいたかった。
浜屋莉乃は、俺が知っている浜屋莉乃から野方莉乃という名前に変貌と遂げて俺の前に再び現れた。
そして、高校時代の出来事はすべてリセットしてなかったことにして、改めて先輩後輩として交流をしようとまで言われてしまった。
俺の中にあった青春のほろ苦い1ページをすべて否定されたような気分だ。
宝のようにキラキラと輝いていたその懐かしささえ感じる青春そのものが、ガラスのようにパリンと音を立てて砕け散っていってしまったような感覚……
正直、過去の出来事を忘却させられることは、告白で振られる時よりもつらいことかもしれない。俺が今まで見てきた浜屋莉乃という存在をなかったことにしなくてはならないのだから。
しばらく浜屋莉乃との高校時代の思い出を懐かしむように思い出しては、悲しみに包まれながら目を拭う。そんなことを、俺は夜遅くまで何度も繰り返した。
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