第66話 カップルプラン!?
翌日、俺は約束通り朝9時に東京駅新幹線口改札に到着した。
そこには、褐色色に焼けた肌を存分に見せつけた肩出しスタイルの黒のカットソーに身を包み、ジーンズ生地のホットパンツをはいて、そのスラっとした長い脚を出した状態でピンクのトランクを足元に置いている津賀愛奈が、ニコニコと手を振って俺を出迎えてきた。
「おはよ~やおやお!」
「……」
挨拶も返さずに無言の圧力。ただじぃっと津賀を睨みつける。
「ど、どうしたのかなやおやお……目が怖いよ?」
「俺の夏休みを返せ」
「突然何!?」
「何じゃないわ! なんでお前と一緒に免許合宿行く羽目になってんだよ!?」
「へっ……だって、やおやおが予定決まったら教えてくれって言ったんじゃん!」
当たり前のようにそう言ってのける津賀。
確かに、あの時は色々と乙中の件とかでバタバタしてて、津賀の話をちゃんと聞いてなかった俺が悪いかもしれないけど……
「免許合宿だとは知らなかったんだよ!」
「あはは……ごめんってばぁ……」
俺は盛大なため息を吐いた。
「もういい、とっととホーム行くぞ」
俺は荷物を持って、新幹線ホームへと向かった。
こうなったら、免許ちゃっちゃか取って、のんびりした夏休みを取り戻してやる。
◇
新幹線で津賀ははしゃいでいた。
今から国家試験勉強をしに行くとは思えないほどに……
「へぇ~東北の方ってこんなに山深いんだねぇ!」
新幹線の窓ガラスから東北の青々とした山々を眺めている津賀。
そんな姿を横目に、俺は津賀からもらったパンフレットを覗き見る。
「免許合宿ねぇ……」
各自動車学校が、合宿と題して様々なプランで免許合宿を提供しているそうで、大体2週間ほどみっちりと教習所に通い詰めて卒業検定試験合格に向けて学科と実技を組み合わせながら授業を行うらしい。まあ、ただ机に張り付いて問題を解く受験勉強とは違い、車は運転という実技試験があるところが、唯一の救いだろう。
うちは父親が毎日仕事で車を運転しているので、俺が車を使うことは出来ない。
休日ならば使うことも出来るだろうが、その機会も限られているだろうし、車で遊びに行く機会自体が訪れる気がしないので、免許の重要性をあまり感じていなかった。
でもまあ、免許持ってるだけで、今後役に立つことはあるのかもしれない。
ほら、就職して地方とかに転勤になった時とか絶対車必要じゃん?
ってか、ペーパードライバーをいきなり地方に飛ばして運転させるとかヤダなにそれどこのブラック企業?
そんなことを当た名の中で思い描いていると、視界に一本の棒状の何かが映り込む。隣に顔を向けると、俺の方を向いて津賀が一本ポッキーを差し出してきていた。
「やおやお食べる?」
「お、おう、サンキュー」
津賀の手からポッキー一本を受け取った。
そして、ポキっと歯で折って食べる。
津賀も幸せそうな表情でポッキーを食べている。
「随分と気楽だな」
「へっ? そうかな?」
津賀がキョトンとした表情で尋ねてくる。
「だって、今から免許取りに行くわけだし、旅行じゃないんだぞ?」
「でも、免許くらいちょちょいと勉強すれば簡単に取れるっしょ! 半分旅行みたいなものじゃない?」
舐めてる。完全に自動車免許の資格取得をお舐めになっている。
そう言う余裕しゃくしゃくな表情の津賀に少しばかり小言を言っておく。
「先に卒検終わったら、俺は帰るからな」
◇
東北新幹線で約1時間半、そこから在来線に乗り込んで1時間ほど電車に揺れて、ようやく目的地の街へと到着した。
ここは、福島県のとある古き良き城下町。
そこからバスに乗り込んで教習所へと向かった。
「あっ、ここだ!」
バスの車窓から教習所が見えてきた。今日からここで寮生活をして卒業検定試験まで箱詰めの生活を送るのだろう。
やだ、どこの夏休み合格必勝学習塾?
バスを降りて、荷物を担いで教習所の中へと入る。
二人でカウンター向かい、手続きをする。
すると、名前を確認したスタッフが尋ねてきた。
「本日からカップルプランご利用の津賀様と羽山様ですね。お待ちしておりました」
「へっ……?」
聞き慣れない単語に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「どうしたのやおやお?」
それを聞いて、不思議そうに俺を見つめる津賀。
「どうしたのじゃないだろ。なんだよカップルプランって」
「えっ? そのままの意味だけど?」
キョトンと首を傾げて全く詫びれる様子のない津賀。
え? 何カップルプランって、そんなのあるの初耳なんだけど。
俺が困惑していると、津賀がむっと頬を膨らませる。
「だって、男女別にすると、別の場所に宿泊だし、自由時間一緒に遊べないじゃん」
いや、そもそも遊びに来たわけじゃないんだけどね?
ってかちょっと待て、ということは俺と津賀……
「ちょっと待て……ってことは俺と同じ部屋ってことか!?」
「うん。そうだけど」
「いやいや、普通に考えてまずいだろ」
「そうかな? だって、分からない所とかあったら教え合えるし、色々都合よくない?」
「それは教習所の中でもできるだろ……」
なるほど、津賀が『彼女です!』って言って家に電話してたのはそう言う理由があったのか……
弥生はふざけ半分で言ってたから問題ないとして、うちの両親信じてないだろうな?
「それに……」
すると、津賀は今度は恥じらうように身をよじり、上目づかいで俺を見つめてくる。
「やおやおと一緒にいたかったの……ダメかな?」
「っ……」
そんな顔で言われたら、NOとは言えないだろうが……
俺は渋々と言った感じで大きなため息を吐いて声を出した。
「まあ、今回は俺もちゃんと話を聞いてなかったのが悪いし、仕方ないから許してやるよ」
そう言うと、津賀はぱぁっと表情を明るくした。
「ありがと、やおやお」
その笑顔は、今まで見た津賀の笑顔の中で、一番裏のない純粋な笑顔だったかもしれない。
それを見て俺は、ドクンと胸騒ぎがしたのは、言うまでもないことだった。
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