第71話 偶然遭遇

 階段を上りきり、目的地の場所へ到達した。ここは、福島でも有名なお城の天守閣の最上階。


 俺達は手をつないだまま、夕焼けに染まる城下町の姿を眺めていた。町並みは美しく、天守閣からこの光景を毎日眺めていた藩主は、どう感じていたのだろうか?


 恐らく、今心に抱いている感動を同じように感じていたのではないか。

 そう考えると、昔の藩主たちと共感できる部分があり、少し昔を味わえるような気分にさせられた。


「綺麗だね」

「あぁ……そうだな……」


 ぽつりとお互いにそんな感動を漏らして、じぃっと夕日に照らされている街の景色を眺めていた。


「ねぇ、やおやお」


 すると、ふいに津賀が俺に声を掛けてきた。


「ん? どうした?」


 俺が津賀へ顔を向けると、津賀は街並みの景色を眺めたまま口を開く。


「またこうやって、やおやおと二人で旅行とか出来るかな?」


 改めてそう聞かれて、俺はニコっと微笑んで即答した。


「出来るだろ。こうやってまた津賀に連れていかれる気がするよ」

「そうだね……」


 だが、その津賀の返事は、どこか感情が伴っていないように思えた。まるで、もう二人でこうして一緒に行くことがないのではないかと暗に含めているように……。


「よしっ! それじゃ、戻ろっか!」


 津賀は景色に満足したのか、ぱっと明るい表情を俺に向けてきた。

 そして、俺の返事を聞く前に、その繋いでいた手を離して、そのまま一人階段を下りて行ってしまう。


 俺はそんな津賀の後姿に何処か物寂しさを感じつつ、後を追っていった。



 ◇



 城を後にして帰り道、既に日が落ち、空は藍色に染まっている。

 城下町の道をスタスタと津賀が俺の一歩前を歩き、俺が後ろを歩いていた。すると、津賀が突然立ち止まって振り返る。


「コンビニ寄って行っていい?」


 津賀が指さした先には、何処にでもあるコンビニエンスストアがあった。


「あぁ……構わないけど……」


 そう返事を返すと、津賀はコンビニへと向かって歩き出す。俺はその後を後ろから追っていく。


 コンビニへと到着して入口へと足を踏み入れる。一人の女性がコンビニから出て行くのを譲ってから、二人して店内へと入った。


「羽山くん!?」


 その直後だ、ふいに後ろから名前を呼ばれ振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 なんとそこにいたのは、コンビニのレジ袋を手に提げて、驚いたようにこちらを見つめている西城さんの姿だった。


「さ、西城さん!?」


 戸惑いを隠せない二人。


「どうしたの?」


 すると、入り口から動かない俺を見て、津賀が戻ってきた。


「愛奈ちゃん?」


 西城さんが驚きを隠せないと言ったような声を上げると、それを見て津賀がびっくりした声を上げる。


「あれぇ!? 美月ち!? なんでこんなところにいるの!?」

「私は……帰省して戻って来てるんだけど……」


 そう言えば西城さんの実家が福島だとは聞いていたけど、まさかこの街だったとは予想外だ。しかも、街中でもこんなピンポイントで出会うなんて……


「二人は……どうしてこんなところに?」


 恐る恐る尋ねてくる西城さんに、津賀が明るく答える。


「私たちは免許合宿で来てたんだ! 明日向こうに戻る予定なの」

「そっか……免許合宿か」


 そう呟きながら、マジマジと俺たちを見つめる西城さん。


「ん? どうかした美月ち?」

「いや、なんでもない! それじゃあ、また夏合宿でね、二人とも!」


 そう言い残して、西城さんは逃げるようにスタスタと立ち去ってしまう。

 俺は見逃さなかった。西城さんが踵を返すときに見せた、その絶望に満ちたような悲しい表情を……

 しかし、俺はそんな西城さんの後姿を、暗闇に消えて見えなくなるまで見送ることしか出来なかった。


「どうしたの、やおやお?」


 夜闇に消えた西城さんの去った方向をぼんやりと眺めていると、津賀が声を掛けてきた。


「あっ、いやっ、なんでもないよ」


 俺はそう適当に返事を返して、店内の奥へと足を進めた。


 俺と西城さんとの関係性は変わってしまった。にもかかわらず、俺と津賀がこうして二人でいる光景を見た西城さんが最後に見せたた表情が、何か俺に対する嫉妬や妬みだと考えてしまう自分が、とてもバカバカしく思えてしまった。

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