第22話 初恋の思い出(小学校時)
あれは10年も前になる。当時俺の小学校は、クラス替えが毎年ではなく、二年に一回行われる珍しい小学校で、俺が小学三年生に上がり初めてのクラス替えが行われたとき、後ろの席になったのが藤野春海だった。
当時から彼女は、学内でもとびぬけた可愛い女の子で、誰もがうらやむその美しい美貌にクラス中の男子が何かしらの好意を抱いていただろう。
もちろん俺も例外ではなかった。幼稚園の頃から知り合いではあったのだが、物心ついてからあったのはこれが初めてだった。
そして、そこから俺は藤野春海とことあるごとに積極的に話しかけて仲良くしていた。
だが、当時の俺はまだつき合うとかそういう恋愛じみた感じはなく、ただ単に一緒に遊びたいとか、一緒の行動班グループになりたいとか、後は好きな女の子に対してちょっかいをだす小学生特有のあれとか、そんな感じの感情だったと思う。
そんな中事件は起きた。
あれは小学3年生の冬だった。
当時友達として仲が良かった
鏡原くんは口が軽い奴だったようで、すぐさまからかわれ、なんとそのまま藤野春海に大声で伝えられてしまったのだ。
その時の藤野春海の困惑した表情は今でも俺の心の中に刻まれている。
「ごめん、私は羽山の事好きじゃないから」
そう言い捨てて、友達の
まあそんなことはさておき、俺はその時初めて失恋というものを経験したんだと思う、悲しみにうちしだかれ、何もやる気が起きずただただ動く屍のような感じになった。振られたときの悲しさというのを初めて経験した瞬間だった。
普通、告白して振られたらなんとなく気まずい雰囲気になってしまい、中々話しかけずらくなったりして、友達としていられなくなることも少なくない。しかし、藤野春海は次の日から何事もなかったように俺を友達として接してくれた。
最初の頃は、心の傷を癒し切れていなかったので辛かったが、徐々に気持ちとも向き合えるようになっていった。こうして、何事もなかったかのように俺と藤野春海は仲のいい友達に戻った。
それから、鏡原君が喧嘩別れして引っ越してしまったりなど、紆余曲折ありつつも4年生の最終日。
春休みが終われば、またクラス替えがある。藤野春海とももしかしたら最後かもしれない。そんなことを思っていた時だ。
「羽山!」
ちょんちょんと背中を叩かれ、振り返ると藤野春海は一枚の紙を渡してきた。
「家に帰ったら読んで?」
そう言われて手渡されたのは、可愛らしいブタのキャラクターのシールが付いた手紙。これが、俺にとって人生で初めて女の子からもらった手紙だった。
家に帰って、シールを剥がして手紙を開くと、そこに書かれてる内容は今でも鮮明に覚えている。
やっほー! 突然手紙なんて書いてごめん。びっくりした??
ほら、羽山とは結構仲良かったからさ、書いておこうかなって!
まあ、もう4年生も終わりじゃん? なんていうの? だから、5年生もがんばろー的な? これからも友達として4649←よろしく!
それじゃ! 春海
短くて内容もあまりまとまっていないような手紙だったが、この時、『これからも友達としてよろしく』と書かれていた言葉が当時の俺にはとてもうれしくてたまらなかった。
たとえクラスが別になったとしても、この手紙を見ればなんか安心して藤野春海と今後も一緒に友達していける。そんな感じがしたのだ。
結果としては、5年生のクラス替えで俺と藤野春海はまた同じクラスになった。出席番号も順並びで席も後ろ。
まあ、俺はこのころから中学受験に向けて学習塾に通い始めたので、藤野春海と放課後に遊ぶ時間は減っていってしまったけれど、塾が休みの時は公園で遊んだり、彼女の家に行って遊んだりしてすべてが楽しい思い出だった。
そして、六年生になり、僕は県内の私立中学校に無事に合格した。藤野春海はそのまま地元の中学校に進学するため、別々の中学に進むことが決まった。
しかし、彼女はその当時既に彼氏が出来ていた。クラスにいたサッカー部の
彼と遊ぶ機会がほとんどだったし、早くも藤野春海は反抗期に入っていたので、交流する機会は減ってしまったのだが、唯一彼女と話すことが出来る機会があった。それが、卒業式の練習だ。
小学校は、卒業式の予行演習を運動会と同じような約1カ月もかけて何度も練習する。俺と藤野春海が所属していたクラスは学級崩壊していたので、卒業式の練習も適当に流している人が多かった。そのため、俺も藤野春海と隣に座っていたので、暇な時間いろんな話をしたのを覚えている。
多くは、俺が受験した中学校の話とか、彼氏の山上君の話とか……
今思えば、ただののろけ話しか聞くことが出来ないのによくそんなこと聞いていたなぁと思うのだが、彼女が嬉しそうに話してくれるその笑顔を見るだけで、俺は幸せな気持ちになれたのだ。その一分一秒を見逃さまいとでもするように……
そして、迎えた卒業式本番。最初は本番という感じがせずになんとなく流れていってしまったが、旅立ちの歌を歌い始め、丁度一番のサビに入ったころだっただろうか。隣から『ヤバイ、ヤバイ』という声と共に鼻をすする音が聞こえてきた。
振り向くと、そこには目を真っ赤にして涙を流している藤野春海の姿があった。
「えっ、どうしたの!? 大丈夫?」
「ヤバイ・・・…泣けてきたっ」
それが、俺が見た藤野春海の最初で最後の涙ぐんでいる姿だった。
どうしたものかとあたふたしていると、藤野春海は泣いているのが恥ずかしかったのか、俺の肩に顔を置いてきた。
「ちょっと…!?///」
親御さん後ろで見てるし、なんなら彼氏の山上くんこっとガン見してるし……!
恥ずかしさと恐怖感を感じながらも、今思えばこれが唯一藤野春海を自分が独占した瞬間だったのかもしれない。
俺は号泣している藤野春海を慰めるように、藤野春海の頭をぽんぽんと優しく撫でてあげた。
卒業式を終えて最後の帰りの会が終わり、クラスでは写真撮影や卒業アルバムの白紙のページに寄せ書きタイムが始まっていた。
しばらくは男子同士で掻き合って、時々仲のいい女子に書いてもらうという感じで時間が続いていた。
ひと段落したところで席に戻ると、藤野がニコニコと言ってきた。
「羽山! 書いて!」
「うん! 藤野も書いてよ!」
お互いに卒業アルバムを交換して、色ペンを取り出して寄せ書きを書いていく。
俺は藤野春海に何を書いたのか正直覚えていない。だが、一つだけ覚えているとするならば、藤野春海に密かに心の中で再び抱いていたその気持ちを、最後まで伝えることのないまま小学校を卒業したということだけだ。
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