第11話 争いは外から見ている分には面白い!
「広いな……」
王都ブシン流1部の教室に入ってまず言わずにはいられなかった。
例えるならデカい体育館、当然更衣室、風呂、軽食場他色々完備で、扉はメイドさんが開けてくれる人力自動ドア使用だ。
ちなみに9部は雨の日も風の日も屋外である。扉がないからメイドさんいらずだ。
僕は絡まれないように素早く着替えて、隅っこでアレクシアを待った。
しばらくして、
「軽く身体をほぐしましょうか」
とブシン流の道着に着替えたアレクシアが登場。
女性用のそれは深いスリットの入ったスカート姿で、装飾のないチャイナドレスをイメージすると近いだろう。色は黒。ブシン流は色ごとに強さを分けていて、黒が最も上で、白が最も下だ。
当然僕は白、この教室でたった1人の白、目立ちまくる。
僕は敵意7割、好奇心3割の視線を無視して、軽い動的ストレッチを行った。
「面白いわね」
と、僕の動きを真似るアレクシア。
この世界でも運動前に身体をほぐすといいことは広く知られているが、ほぐし方はまだ確立されておらず皆独自のやり方でほぐしている。
スポーツガチでやっていながらストレッチを舐めてる奴は必ず身体を壊すからね。この世界は魔力で無理やりなんとかしていたりするけど、それでもパフォーマンスには影響する。
その辺アレクシアは割と意識高くていい。僕は戦闘という分野においてはとことん意識高いからね。西海岸で飲むいつもの味にも負けない自信がある。
そうこうしているうちに授業が始まった。
「今日から新しい仲間が入った」
と、顧問の先生に紹介される僕。
「シド・カゲノーです。よろしくお願いします」
そして仲間とは欠片も思われていない視線に曝される。
ああ、さすが1部。見渡せば重要人物がそこら中にいる。あそこのイケメンは公爵家の次男だし、あそこの美人は現役魔剣騎士団長の娘だし、そして顧問の先生はなんとこの国の剣術指南役だったりする。しかもまだ28歳という若さの金髪イケメンだ。
「みんな仲良くするように」
てな感じで稽古開始。
瞑想魔力制御からはじまって、素振やら基礎的な内容が続く。
いいよいいよ、基本は大事だ。9部なんてちょっと素振りしたらチャンバラするからね。やはり強い人は基本を大事にする。
周りのレベルも高いしお世辞抜きでいい環境だといえるだろう。
何よりも、この王都ブシン流とかいう剣術は非常に理にかなっている。練習に参加していて苦にならないって素晴らしいことだ。
「君は王都ブシン流が好きかい?」
と、金髪イケメンの顧問に話しかけられた。名前は確かゼノン・グリフィだったか。
「そう見えます?」
「ああ、楽しそうだ」
「そうかもしれませんね」
僕の答えにゼノン先生は爽やかに笑った。
「王都ブシン流は知っての通りブシン流から分裂して出来たまだ新しい流派だ。伝統のブシン流、革新の王都ブシン流、はじめは風当たりも強かったがアイリス王女のおかげで今やこの国でブシン流に次ぐ流派とまで言われるようになった」
「先生も、王都ブシン流を盛り上げた剣士の1人だと聞きますが」
「アイリス王女に比べれば微々たるものだがね。それでも私は王都ブシン流は自分が育ててきたと思っている。だから王都ブシン流を好きになってもらえたなら嬉しいんだ。すまない、練習の邪魔をしたね」
そう言ってゼノン先生は他の生徒を見に行った。僕も彼の気持ちがよくわかる。僕はアルファ達が僕の剣を振るのが好きだ。僕の剣は僕が作り上げてきたもので、それが他人に認められ振るわれるのは格別の喜びなのだ。
「何を話していたの?」
とアレクシアが聞いてくる。
「王都ブシン流について」
「ふぅん。次はマスだから組みましょうか」
マスというのは軽い実戦形式の稽古だ。
お互い攻撃は相手に当てずに、技や返し流れの確認をする感じ。
「実力違いすぎない?」
「大丈夫よ」
てな感じで木剣を構え打ち合う。
僕が剣を振り、アレクシアが捌く。
逆にアレクシアが仕掛け、僕が捌く。
攻撃は当てないし、動きも遅い、
魔力もあまり使わない。
周りでは魔力をガンガン使ってかなり激しい打ち合いをしている組もあるけど、アレクシアは意外にも僕に合わせてくれているようだ。
いや、僕に合わせていると言うよりも……これが普段通りなのかもしれない。マスはあくまで技の確認で、そこに速さや強さは必要ない。彼女は稽古の目的をよく見据えているのだ。
それはアレクシアの剣を見れば分かる。
姉のアイリス王女の実力は、誰もが褒め称え王国中に轟いている。天才、鬼才、今や王国最強とまで言われている。
対して妹のアレクシアについてはあまり評判は良くない。魔力はある、剣も素直、ただアイリス王女には大きく劣る。これが世間一般に言われているアレクシアの評価だ。
だけど、こうして対峙してみると、アレクシアの剣は普通にいい剣だった。
基本に忠実、基礎をしっかり、ただし地味。
うん、地味だ。でもその地味さは努力の結晶なのだ。無駄が排除され、研ぎ澄まされたその様は、一歩一歩基礎を積み上げてきた証拠なのだ。
デルタ、お前も見習えよ。
僕は僕にとって許し難い剣を振るう獣人の少女に心の中で語りかけた。
「いい剣ね」
アレクシアが言った。
「どうも」
「でも、嫌いな剣」
上げてから落とすスタイル。
「自分を見ているようだわ。終わりにしましょうか」
彼女はそう言って片付けに入る。授業が終わったようだ。
僕は大方の予想に反してこの授業を無事切り抜ける事が出来たようだ。素早く片付け、着替えて、全力ダッシュで帰宅……。
「待ちなさい」
出来なかった。
僕はアレクシアに首根っこ掴まれて連れて行かれた。
「それが、君の答えというわけかな」
そしてなぜか目前にはゼノン先生。
「ええ。私、彼と付き合うことに決めたから」
「いつまでもそうやって逃げられる訳じゃないよ」
と厳しい目でゼノン先生。
「大人の事情は子供には分かりませんの」
ホホホと、アレクシア。
僕はもうこの流れで大体察していた。僕がここに連れてこられた理由も、彼女が僕と付き合う事に決めた理由も。
頼む巻き込まないでくれと願いながら、僕は空気になって2人の主役級イベントを見守った。
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