二章

第9話 陰の世界を知らぬ者たちの戯れ

 僕は15歳になり、王都にあるミドガル魔剣士学園に入学した。大陸最高峰の魔剣士学園で、国内はもちろん国外からも将来有望な魔剣士たちが集うという。


 僕はそこでモブらしい中の下あたりの成績をキープしながら二カ月ほど過ごし、その間主人公格っぽいキャラに目星をつけた。


 その中の1人。


 アレクシア・ミドガル王女。一番の大物は彼女だった。


 ミドガル王女とか名前聞いただけでチンパンジーでも大物ってわかるぐらい大物だ。


 ちなみに彼女の上にはアイリス・ミドガル王女というさらに有名な超大物がいるらしいが、残念ながら学園をすでに卒業している。


 さて、このアレクシア王女に僕は特大のモブイベントを申し込むことにした。というより罰ゲームで負けてそうなった。


 うん、そうだ。実にモブらしいイベント『罰ゲームに負けて女子に告白』である。


 というわけで学園の校舎の屋上、僕はそこで一定の距離をおいてアレクシア王女と対峙した。


 白銀の髪は肩で切りそろえ、切れ長の赤い瞳がなんかえっと綺麗で、それから……めんどくさいわ、はいはい美人ですね、って感じのやたら整ったクール系の顔立ち。あいにく僕はアルファたちのおかげで美人に見飽きているのだ。やっぱ多少崩れて個性あったほうが人間いいよ。


 で、このアレクシアに挑む僕だが、当然無謀な挑戦者は僕だけじゃなかった。彼女が入学して二カ月、すでに百人を超えるアホたちが彼女に挑み、冷酷な一言で返り討ちにあっている。


『興味ないわ』


 そりゃね、王女ともあれば卒業したら政略結婚だし、子供の遊びには興味ありませんってところか。でも彼女に告白した貴族たちもそのあたりの事情は同じだ。大体は卒業してしばらくしたら政略結婚が待っている。だから学園にいるうちに色恋楽しもうってわけだ。


 まぁどちらにせよ、所詮は陰の世界を知らぬ者たちの戯れよ。


 しかし僕はその戯れにモブとして混じる使命がある。学園のアイドルに罰ゲームで告白してこっぴどく振られるまさにモブらしいイベント。このイベントをモブらしくこなすことで、僕は僕が考えた最高のモブになることができ、それは陰の実力者への道のりをまた一歩進むことを意味するのだ。


 今日この瞬間のために僕は夜なべして考えた。どうすれば、どう告白すれば……最もモブらしい告白になるのだろうか?


 言葉選びはもちろんのこと、活舌から音程、ビブラートの利かせ方まで夜通し研究し、ついに最強のモブ告白を習得し、僕は今日この決戦の場にいる。


 決戦。


 そう、モブにとってこれは一大決戦なのだ。


 陰の実力者には陰の実力者の戦いがあり、モブにはモブの戦いがある。


 ならば僕は今この瞬間、1人のモブとしてベストを尽くさねばならない。


 僕は決意を胸に前を向く。


 アレクシア王女……澄ました顔で立っているが、僕が今本気で剣を抜けば一瞬で君の首と胴が分かれることになる。君は所詮、その程度の人間なのだ。


 よって刮目せよ。


 これが世界で一番モブっぽい告白だ!


「ア、ア、ア……アレクシアおうにょ」


 ア、ア、アでスタッカートを刻み……でビブラート、アレクシアの音程は上下に揺れ、おうにょで迫真の活舌を披露。


「す、好きです……!」


 視線はアレクシア王女を避け地面を彷徨い、膝は小刻みに震わせる。


「ぼ、ぼ、僕と付き合ってくぁさぃ……?」


 セリフはあくまで普通、退屈なまでに王道を突き進みながら、発音、音程、活舌は明後日のほうにブレまくり、ラストは小さい語尾からの疑問形で自信のなさを極限アピール。


 完璧だ……!


 これこそが僕が目指したモブAの姿だ。


 満足、僕はもう満足だ!


「よろしく願いします」


「ん?」


 満足したからもう帰ろうとした僕の耳に幻聴が聞こえた。


「君、いまなんて?」


「ですから……よろしくお願いします」


「あ、はい」


 何かがおかしい。


「と、とりあえず一緒に帰ろうか」


 僕はそのままアレクシア王女と寮まで帰り、また明日とにこやかに別れて、自室に戻るとベッドに突っ伏し枕に頭を埋めて叫んだ。


「なんでラブコメ主人公ルート入ってんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」



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