第115話 世界が僕に囁いている
休日。
僕はヒョロとジャガの三人で久しぶりにモブショッピングへ向かった。
とはいえ、特に買いたい物もなかった僕は日用品を適当に籠に入れて会計へ持っていく。
「5000ゼニーお預かりいたします。お釣りは紙幣でよろしいですか?」
「あ、はい」
返答の前にとりあえず『あ』を付けておくのが鉄板のモブポイント。
しかし最近紙幣も使われるようになったよね。基本的に貨幣経済だったんだけど、王都では紙幣がかなり浸透してきた。
かさばらないし便利でいいんだけど、使えない店もあるし嫌がる人もいるから断わりを入れるのが一応のマナーだ。
お釣りを受け取って会計を済ました僕は店を出て何気なく紙幣を見た。
「あれ……?」
1000ゼニー札を見てふと気づく、なんかデザイン違くね?
「どうしたんですか、シド君?」
突然立ち止まった僕を、ジャガが問いかける。
「1000ゼニー札ってこんなデザインだっけ?」
「何言ってるんですか。これは発行されたばかりの大商会連合の新札ですよ。というか何で買い物に来たかわかってなかったんですか」
「どゆこと?」
「今日は大商会連合の新紙幣発行バーゲンじゃないですか」
「ああ、そうそう、そうだったね」
そうだっけ?
「しっかりしてくださいよシド君」
そうか、新紙幣を出回らせるためにバーゲンで釣っているんだ。
ん?
大商会連合の新紙幣がこれってことは、前から使っているの紙幣はいったい何なんだ。
ふと気になって財布から前の紙幣を取り出してよく見てみると、そこには衝撃の事実が。
「なんじゃこりゃ!!」
思わず叫んだ。
「ちょ、どうしたんですかシド君!?」
「おいおい、どうしたんだシド?」
「なんで『ミツゴシ銀行』って書いてあるの!?」
1000ゼニー札の端にしっかりと『ミツゴシ銀行』と書かれていたのだ。ミツゴシ銀行ってなんだ!? 銀行もやっているのか!?
「そりゃミツゴシ銀行のお札だからだろ」
「紙幣を最初にやり始めたのミツゴシ銀行じゃないですか。ミツゴシ商会グループで使うと割引があったりおまけがあったりしたでしょ?」
「あ、そういえば……」
紙幣は最初なぜかミツゴシ商会グループでしか使えなかったのだ。しかも使うと割引があったりして不思議だったんだけどそういうことだな。
僕にナイショで銀行までやっていたのか。
ナイショ?
あれ、そういえば昔、そんな話をしたような……。
あれは数年前、僕が適当に前世の知識を語るとみんな「さすがシャドウ様!」と持ち上げてくれるから調子に乗って色々話していたんだけど、そのときに銀行とか信用創造の話をした気がする。
信用創造は前世のMHK二時間ドキュメンタリーの知識をうろ覚えで存分に語ってやったのだ。
途中からみんな目がヤバくなって僕のうろ覚え知識も怪しくなったから「後は自分たちで考えろ」と言って切り上げたんだけど、絶対に銀行やりましょうとかみんなで話し合ってた気がする。
あれマジだったの?
いやいや、さすがにやりすぎでしょ。彼女たちに自重という言葉は無いのだろうか。
大商会が怒るのも無理はない、というか絶対にそれが原因でミツゴシ商会包囲網とかされてるよね。
「だから大商会連合も紙幣を発行したわけか……」
このままじゃミツゴシ銀行の一人勝ちだからなぁ。ふふふ、そういうことだったのか。
問題は大商会連合が信用創造の危険性をどれだけ理解しているかだな。
僕の明晰な頭脳は大商会連合対ミツゴシ商会の図式を明確にしてしまったのだ。
僕はシンプルながら緻密でセンスのいいミツゴシ銀行の紙幣と、派手で豪華ながらざっくりとしたデザインの大商会連合の紙幣を見比べてふと気づく。
あれ、これって……。
ミツゴシ銀行の紙幣には通し番号と透かしがある。
大商会連合のお札には通し番号はあるけれど透かしがない。しかもデザインもそこまで細かくない。
これ、偽札つくれるんじゃね?
僕一人では無理だ。しかし僕には裏社会に強い頼りになる相棒がいるのだ。
「ふふふ……」
「突然笑い出しましたよ……」
「ついに頭が……」
ああ、見える、見えるぞ。
僕には『世界の商を支配する陰の大組織のボス』へのウィニングロードが見える!
さぁ、まずは久しぶりに知識すごいアピールからだ。
ユキメに信用創造とかの知識をドヤ顔で披露したところで偽札プランへ移行しようじゃないか。
「ヒョロ、ジャガ、僕はもうすぐ『世界』を手に入れる……」
「シド君、かわいそうに……」
「あ、もうだめだわ……」
さぁ、思い出せ僕の頭脳!
頼りにしている、MHK二時間ドキュメンタリー!!
世界が僕に『世界の商を支配する陰の大組織のボス』になれと囁いているッ!!
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