第81話 特別席でブレックファーストなう

 いやーよかった。


 かなーりよかったね。


 剣も魅せることを意識した美しさを重視したし。僕は陰の実力者になるために、一時期とにかくスタイリッシュな剣を追求した時期があったんだよね。優美すぎて現在のシャドウの剣とは違うけど、あの頃の努力が実を結んでよかった。


 アンネローゼのおかげで武神祭の目的の7割ぐらいは達成できたんじゃないかな。後はどうやって締めるかだけど、いろんなパターンがあるし難しいところだ。


 シンプルにいくなら優勝なんだけど、トーナメント表を見た感じだと次のアイリス戦が一番の山場なんだよね。アイリスを倒して姿を消すのも結構あり。謎の実力者っぽさ出るじゃん。


 誰もが認める強者を倒し「目的は達した……」とか言って忽然と姿を消す感じ。


 いいよね。


 僕がアイリスを倒して姿を消せば姉さんが優勝できるかもだし。


 他には悪落ちパターンも熱い。


 アイリス戦の途中で「オレは暗殺組織からの刺客……貴様の命、貰い受けるッ!」って感じでいきなりルール無視のガチバトルパターン。自然に退場できるのもポイント高い。


 あーでも優勝して終わるのがやっぱ一番やり切った感あるよね。


 他にもまだまだ熱いルートは沢山あるし、よく考えて決めなきゃね。


 そんなことを考えながら特別室に戻ったら、知らないおっさんが僕の席に座っていて、僕はそっ閉じした。


 姉さんの試合はもう終わってるしいいでしょ。


 その日は早めに寮に帰ってイメトレして翌日。


 僕は特別席に座ってサービスのモーニング珈琲を飲んでいた。珈琲はまだミツゴシ商会しかつくれないらしい。すごいね。


「うまい」


 ちなみに僕はミルクと砂糖たっぷり派だ。


 特別席、はじめは嫌だったけど慣れたら便利でいい。メイドさんに頼めば大抵のものはタダで持ってきてくれるし今だけセレブ感味わえるね。


 しばらく会場の雰囲気を味わっているとアイリス王女登場。


「おはようございます」


「はよーございます」


「珈琲ですか。最近流行ってますよね。香りは好きですが苦いのが苦手で……」


「ミルクと砂糖たっぷり入れてコーヒー牛乳にすればいいよ」


「コーヒー牛乳ですか……?」


 そしてメイドさんを呼んで試すアイリス王女。行動力あるよね。


「あ、おいしいです……」


「でしょ。どんな珈琲でも全部同じ味になる魔法の技です」


 そんな感じでトーストと卵も頼んでオシャレにブレックファースト。 


 もしSNSがあったら王族と特別席でブレックファーストなうドヤ顔写真付きでアップすれば完璧だ。


 朝食を終えると続々とセレブたちが入室してくる。


 そしてセレブたちの世間話というか社交がはじまる。男爵家の僕は当然会話の中に入れずに取り残される。いいよ、入る気ないし。だから気を利かせて話を振ってくるのは止めてくださいアイリス様。


 微妙に居心地の悪い中で、本戦2日目がはじまりそうな時間になった。


 セレブたちも席に着いて少し落ち着いた空気の中、特別室の扉が開いた。


 振り返るとそこに、色褪せたローブ姿の女性がいた。


 相変わらずローブで顔は見えないが、彼女は確かベアトリクスだ。


 彼女は僕に気づき小さく手を振って、僕は頷いて微笑んだ。また会ったね、て感じで。


 しかし特別席のセレブたちの目は厳しい。


 小汚いローブのこいつはなんだよさっさとつまみ出せや的な思念が聞こえるようだ。これが無言の圧力か。


「お客様、失礼ですが……」


 メイドさんが彼女に声をかけた、その時。


「いいのです。その方は私が招待しました。どうぞこちらへ」


 アイリスがベアトリクスに声をかけた。


 ベアトリクスはアイリスの隣に座る。アイリスを挟んで僕の反対側だ。ちなみにそこはアレクシアの席だったらしい。


「アイリス様、その方は……」


「武神ベアトリクス様です」


 セレブの問いにアイリスが答えると、彼らはどよめいた。


「彼女が、あの……」


「武神と呼ばれた……」


「伝説の剣聖……」


 おお、なんかかっこいい。僕も「奴が伝説のシャドウ……」とか言われてみたい。


「ベアトリクス様がこうして表舞台に出られるのは久しいですね」


「うん。人を探している」


 セレブの問いに彼女は頷いて答える。


「私とよく似た顔の姪だ」


 同じ過ちは犯さないとばかりに彼女は顔のローブをとる。


「おお、これは美しい……」


「この顔、見覚えないか? この国で最近よく似た顔のエルフを見た人がいるらしい」


「ほう、この国ですか……。ベアトリクス様ほど美しいエルフであれば一度見たら忘れませんが」


「見覚え、ないか?」


「残念ですが……」


 セレブたちは一様に首を横に振った。


「そうか……」


 彼女は残念そうにローブを被った。


「ごめんなさい。皆顔の広い方ばかりですので、ここで聞けばわかると思ったのですが」


 アイリスがベアトリクスに謝った。


「いい。エルフだから時間は沢山ある」


「ところで、ベアトリクス様は武神祭の試合は見ましたか?」


「あんまり見てない」


「そうですか。わかる範囲でいいので、注目の選手とかお聞かせ願いませんか?」


「注目の選手……うーん」


 彼女は会場を見回しながら少し考えて。


「シド」


 と僕を指さした。


「えっと、ベアトリクス様……?」


「シドに注目している。きっと強くなる」


「いや、なりませんから」


 僕は秒で否定した。


 周囲からの視線が痛い。


「この少年が強くなる……?」


「ボクの後輩ですが、素質はあまり……」


「一応クレアさんの弟なんですが、センスがないというか……」


「ベアトリクス様がそうおっしゃられるなら、間違いないでしょう」


 アイリス様の一言で微妙な空気はとりあえず収まった。


 しかし、セレブ達のベアトリクスを見る目はどこか懐疑的だ。


 こいつ本物か?


 と視線で会話している感じ。


 彼らの目には彼女が小汚い浮浪者のように見えているのだろう。


 僕の目から見ると彼女はいい意味で自然体なのだ。


 姿も、性格も、肩書も、そして強さも、何も飾っていないから、みんな彼女の実力に気付かない。


「では、試合の中で気になったことがあればお聞かせ願えますかな?」


「わかった」


 アイリス様の手前、とりあえずベアトリクスを立てる感じにはなったようだ。


 こうして微妙な空気の中で、武神祭本戦2日目は始まった。

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