六章
第89話 門番Aっていいよね!
武神祭はクレア姉さんが優勝した。
ローズ会長の乱入で一時はどうなることかと思ったけど、アドリブで見せ場を作れて良かったなぁ。
もう完全に場の空気もってかれてたんだけど「あれ、これいけるんじゃね?」からの一瞬の閃きで全部僕が持ってくパターン。
決まったね。
世界は常に動いていて、人々も何かを思いながら生きている。僕の舞台は台本通りに動かない。これからも柔軟な思考を大切に、どんな状況にも対応できるアドリブ力を育てていこう。
そんなわけで、武神祭が終わると王都は日常に戻った。
オリアナ王国のゴタゴタで一部は慌ただしかったらしいけど、一般貴族である僕には関係なく、そして学園も関係なく普通に二学期が始まった。
オリアナ王国はなんとか派となんとか派に分かれてバチバチやってるらしい。年内には内乱突入するんじゃないかともっぱらの噂だ。内乱になったらぜひぜひ乱入したい、超楽しみにしている。
ローズ会長が欠けた学園はいつも通りだった。
かわいそうだけど、そんなもんだよね。あの事件は痴情のもつれだとか、王位継承争いだとか、ローズ会長はボロクソ言われているけれど真相ははっきりしない。理由はどうであれ僕は彼女の生き方を応援しているから、どこかで元気に暮らしていてほしい。
姉さんは優勝してからしばらくは忙しかったみたいだけど、秋休みの前には落ち着いて学園にも復帰した。
一躍時の人だ。
そして暇になった姉さんが毎日うるさいから、僕は仕方なく祝勝会をするはめになった。
というわけで現在、ミツゴシ商会グループのレストランで僕と姉さんはディナー中。
期間限定超激安貧民コースで予約したはずなのに、明らかに豪華絢爛なのは何でだろうね。
「まさかアンタにこんな甲斐性があるなんて思わなかったわ。お城のパーティーでもこんな料理出てこなかったのに……」
煌びやかな料理を見て姉さんが言った。
しかもここ個室で超VIPルームだからね。
ひょっとして別の人と間違えられてるんじゃないかと思ってトイレに行くときに店員さんに確認したんだけど間違いないみたいだ。
ミツゴシ商会のグループだからガンマの友達サービスとかかな?
後から法外な値段請求されないか僕はヒヤヒヤだ。
「実はミツゴシ商会の会長って僕の友達なんだよね」
「嘘つき」
「いやほんとだって。だからサービスしてくれたんだよきっと」
「冗談ならもっと面白くて分かりやすいことを言いなさい。心配しなくても疑ってないわ。アンタが私のために頑張ってくれたんだってちゃんと分かってるから」
姉さんはニッコリ微笑んだ。
こんなご機嫌な姉さんは久しく見ていない。僕はまぁ何でもいいやと思った。
「ミツゴシレストランの料理って大好き。新しくて美味しいものばかり。あ、私ローストビーフって初めて食べるの」
「へー」
そんな感じで僕らは二人で食事を楽しんだ。
「アンネローゼは敗退、アイリス様は途中棄権、ジミナとかいうわけわかんない奴は失格、私の優勝なんて運が良かっただけよ」
「そうだね」
「否定しなさい」
「そんなことないよ、優勝は姉さんの実力さ!」
「そう、もちろん私の実力よ。だけど世間はそう思わない」
「ま、そりゃそうだよね」
「やり直し」
「姉さんの実力を認めないなんて、世間の奴らはなんて見る目がないんだッ!」
「仕方ないわ。群集なんてそんなものよ。けど私は見くびられて黙っているような女じゃない」
「姉さんはお淑やかになったほうがいいよね」
「そろそろ怒るわよ」
「愚民どもめ! 姉さんの実力と美しさを理解させてやるッ!」
「もちろんそのつもりよ。だから協力しなさい」
「やだ」
「やだは無し。これはアンタのためでもあるんだから」
「僕のため?」
「そう。アンタ卒業したら将来どうするつもり? 中途半端な成績じゃろくな職に就けないわよ」
「どうするつもりって言われても……」
そういえば卒業後の事ってあんまり考えてなかったな。家は姉さんが継ぐし、僕は何かしら職に就くことになるんだろうけど。
騎士団とか華々しい仕事は違うかな。
もっとモブっぽい仕事……そうだ。
「僕は門番Aになるよ」
主人公とかに通行料払わなきゃ遠さねぇぜとか言う役。
「門番A? Aってなによ?」
「普通の、って意味かな?」
「アンタねぇ門番なんて貴族がする仕事じゃないわ。そもそも二交代でほとんど休みがない激務薄給よ」
「あーそうなんだ……」
休みが無いのは嫌だな。陰の実力者活動に支障が出るし。
「牢屋の番人とかは?」
「もっと酷い。人間のクズがやる仕事よ」
「クズって……。まぁ将来のことは将来決めればいいよ。僕はやりたいことができるなら仕事なんて何でもいいんだ」
「なによやりたいことって」
「秘密。僕は本当に大切なことは誰にも言わないようにしているんだ」
「はいはい、何もやりたいことはないのね。でたらめ言って問題を先送りにするのは止めなさい」
「なんでそうなるかな」
「自分の行動を振り返って考えれば分かるんじゃない?」
「ま、いいや」
「よくない。アンタの将来の話よ。秋休みは予定を空けときなさい。私の言うとおりやってれば騎士団にねじ込んであげるから」
「何するつもりさ」
「ふふっ。真祖の吸血鬼『血の女王』の討伐が始まるの。アンタは私の後ろにいればいいからね」
姉さんは不敵に笑った。
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