第128話 全部どこかの愚か者のせい
『四つ葉』がミツゴシ商会によって消されてから、月丹はミツゴシ商会の調査を続けてきた。
ミツゴシの商会の裏にある組織とその規模に問題が無ければ、今度は月丹自らが仕掛けるつもりだった。単体での戦闘力ではまず引けを取らないであろう自信が、彼にはあったのだ。
「裏が何もない、だと?」
ガーターから報告を受けた月丹の声が低くなった。
「は、はい……」
ガーターの声はか細い。
「まさか本当にただの商会だったとでもいうつもりか。だが、これだけ調べて何も出てこないとなればそうとしか考えられんか……」
不自然な点はある。だがいくら調べても証拠は出てこない。
ならばミツゴシ商会はシロとして考えるほかないだろう。
「まぁいいだろう。ならば遠慮なく仕掛けよう。ミツゴシ商会を、潰す」
月丹の口角が吊り上がった。
ようやくこの商会戦争にも決着がつき、彼の目的は達成される。そうなるはずだった。
――しかし。
「あ、あの……」
ガーターが恐る恐る、口を開く。
「さ、最近、物価が上昇しておりまして……」
「物価の上昇は想定していたことだろう」
「いえ、想定より明らかに早いのです。それで、その、調べたところ……」
「何があった」
「偽札が発見されました」
「何?」
月丹の声は、それほど大きくなかったというのに室内に響いた。
「に、偽札です。大量の偽札が発見されたのです」
ギリッと月丹の奥歯が鳴った。
「大量、だと? どの程度だ」
「げ、現在調査中ですが、その、大量です」
「ふざけるなッ!! 大量の偽札をなぜ発見できなかったァ!!」
「ヒッ……お、お許しを!」
凄まじい月丹の剣幕にガーターが震えながら弁明する。
「に、偽札がほとんど本物と変わらない精度でして、その、おそらく少しずつ流通させて様子を見ていたのだろうと……」
「黙れッ!! 大量の偽札が流通している!? 偽札が何を引き起こすか理解しているのか!!」
信用の崩壊、そして取り付け騒ぎ。
月丹の脳裏に最悪のシナリオが描かれる。
「すぐに出所を突き止めろ!! もし見つけられなかったら、貴様の首、刈り取ってくれる!!」
「は、はい!」
「ミツゴシ商会は後回しだッ……!」
こうなってはもうミツゴシ商会に手を出している余裕はない。
そう考えた時、月丹はふと気づいた。
まさか偽札の出所はミツゴシ商会か……?
だがすぐに彼はその考えを否定する。
大商会連合の信用が崩壊すれば、自然とミツゴシ商会の信用も疑われる。
先に崩壊するのは大商会連合だが、ミツゴシ商会もじきに崩壊するだろう。
先に倒れるか、後に倒れるかの違いしかない。結局、共倒れになるのだ。
「偽札だとッ……大商会連合に手を出すどこの愚か者め。必ず八つ裂きにしてくれる……ッ!」
「ヒッ……!」
「すぐに、突き止めろ。いいな、すぐに、だ――わかったらさっさと動けぇぇぇええええええ!!」
「は、はぃ……!」
鬼のような月丹の形相に、ガーターは慌てて走り出した。
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