第23話 異世界総合商社ミツゴシ商会!?

 夕方、授業が終わった僕は選抜大会のキャンセルを頼みにいった。


「失礼しました」


 僕は礼をして学生課から出る。


「で、どうだったよ?」


 外で待っていたヒョロとジャガが寄ってくる。


「トーナメントの組み合わせが決まってるから無理だってさ」


 僕は溜め息を吐く。


「まぁ元気出せって。いいとこ見せればモテモテだぜ?」


「そうですよ、ピンチはチャンスって言うじゃないですか」


 僕は首を振った。


「勝ち負けじゃなくて単純に出たくないんだよ」


「ったく、仕方ねぇな。俺がいい店紹介してやるから元気出せよ」


「い、いい店ですか?」


 鼻息荒くジャガが言う。


「おっと、そっちの店じゃねぇよ。最近話題のミツゴシ商会って所だ。何でも目新しい物を扱ってるらしくて、中でもチョコレートだかって菓子が甘くてクソ旨いらしいんだ」


「甘いお菓子ですか、いいですねぇ」


「バッカ、自分で食ってどうすんだよ」


 パシッ、とヒョロがジャガの頭を叩く。


「女にプレゼントするんだよ。女なんて甘いもんやっとけばちょろいもんさ」


「な、なるほど。さすがヒョロ君です、勉強になりますねぇ」


「だろだろ」


 と得意気なヒョロ。


「よっしゃ、行こうぜシド」


「行きましょう、シド君」


 目を輝かせる2人。


「わかった、行くよ」


 僕は溜め息と一緒に言った。


 この世界のチョコとやらにも少し興味がある。


 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇  




 ヒョロに連れられて王都のメインストリートにやって来た。夕方の通りは人が溢れていて、一等地にある店はどれも大繁盛だ。中でも群を抜いて人が多いのが、噂のミツゴシ商会だった。


「うわぁ、すごいですねぇ」


 そびえ立つ新築の豪華建築物。しかもセンスがよくどこかモダンな雰囲気さえある。なんというか、前世で一流ブランドのショップに訪れた時に感じたような場違い感がマックスだ。


 そして入口には長蛇の列。並んでいる客も全て貴族かその関係者。一目でわかる上客ばかりだ。最後尾にはプラカードを持った制服姿のお姉さんが立っている。現在80分待ちらしい。


「80分待ちだってよ」


 僕は言った。


「寮の門限には何とか間に合いそうですが」


 とジャガ。


「ここまで来たんだし並ぼうぜ」


 とヒョロ。


「でも最近は人斬りが出るって噂ですよ。あんまり遅くなるのは……」


「バーカ、こっちには魔剣士が3人もいるんだ。返り討ちにしてやるよ」


 ヒョロは腰の剣をポンポンと叩いた。


「そ、そうですね」


「ねぇ、人斬りって?」


 話を遮って僕は尋ねる。


「最近王都の夜には人斬りが出るらしいんですよ。何でもかなりの腕前で、ついに騎士団にも犠牲者が出たとか……」


 ジャガは声を潜めて言った。


「へー恐くて夜は出歩けないな」


 人斬りイベントとか絶対楽しい。ぜひ僕も参加したい。


「おーい、早く並ぼうぜ。門限過ぎちまうだろ」


 僕らはヒョロに急かされて、列の最後尾に並んだ。


「お、お、お姉さん。き、綺麗ですね、ご、ご、ご趣味は?」


 早速プラカードどを持つお姉さんに声をかけるヒョロだったが、百戦錬磨の微笑みで軽く流される。


 そしてなぜかお姉さんはニッコリ笑顔で僕を見つめた。


「お客様、失礼ですが少しお時間をいただけますか?」


 ダークブラウンの髪に同色の瞳、落ち着いた上品な顔立ちのかなりの美人だ。


 紺色のシンプルなミニワンピースに商会のロゴが入った制服を着ている。どこか前世のキャビンアテンダントを思い出す姿だ。


「え、僕?」


 自分を指差して言う。


「はい、すぐに済みますので。アンケートにご協力お願いします」


 アンケート、この世界では珍しいことをやっている。


「いいですけど……」


「ありがとうごさいます」


「ぉ、お、俺も協力します!」


「じ、自分もです!」


 ヒョロとジャガ、渾身のアピール。


「お一人様で結構ですので」


 僕はお姉さんに腕を組まれ、長い列の脇を通り抜けて店内に入る。


 最後に振り返ると、ヒョロとジャガが絶望の顔で僕を見ていた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 お姉さんの後に着いてやたら豪華な店内に入った。


 表面的な華やかさは抑え目で、かわりに細部までこだわり抜き落ち着いた雰囲気を出している。素人目にもセンスの良さがわかる、やはりモダンな雰囲気を感じた。


 売場を通り従業員用の扉まで案内されるが、ちらりと見た商品がヤバかった。


 人気のチョコは当然として、他にも珈琲やら化粧品やら石鹸やら、この世界で初めて見るものがあふれている。さらには服やアクセサリーや靴や下着までデザインが全て洗練されていて目新しくも美しい、この世界でこれがあったらそりゃ売れるでしょって僕ですら分かるものがずらりと並んでいるのだ。


 どう考えてもヤバい。


 この商会、近い将来必ず覇権を握る。僕はそう確信した。


 従業員用の扉を抜けて廊下を進むと豪華客船映画で見たような凄い階段が現れ、それを上るとレッドカーペットの広く明るい廊下が続き、そして突き当たりには優美な彫刻の掘られた光り輝く巨大な扉があった。


 扉の前に、美しい女性が2人立っていた。彼女たちは僕に礼をしてゆっくりと扉を開ける。


 その先は、巨大なホールのような空間だった。


 ギリシャ神殿のような円柱が並び、大理石の床は輝いている。


 そして、奥へと続くレッドカーペットの左右に美しい女性たちがずらりと並んでいた。


「へ?」


 僕が一歩室内に入った瞬間、彼女たちは一斉に跪いた。


「あの、アンケートは……?」


 部屋の最奥に、巨大な椅子があった。


 繊細な芸術品のようなその椅子には、天窓から茜色の夕日が降り注いでいた。


 そこにはまだ、誰も座っていない。


 椅子の隣に、藍色の髪の美しいエルフがいた。モデルのようなスタイルに、妖艶な黒いドレス姿の洗練された女性。


 僕は彼女の顔に見覚えがあった。


「永らくお待ちしておりました、主様」


 まるで女優のように跪く彼女は。


「ガンマ……」


 アルファ、ベータに続く3人目の古参メンバー。


 聡明な顔立ちと、理知的な青い瞳、こいつ絶対頭いい奴だって一目で分かる彼女こそ、シャドウガーデンの頭脳ガンマである。

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