第121話 ミツゴシの違和感
「『四つ葉』が戻らない……だと?」
月丹はその報告を聞いて、腕を組み考え込んだ。
ミツゴシ商会の襲撃に向かわせた『四つ葉』が戻らない。
それはつまり、襲撃の失敗を意味する。
『一葉』『二葉』『三葉』いずれも腕のいい魔剣士だった。月丹から見れば物足りない実力だったが、それでも一般的には凄腕と呼ばれる部類に入るだろう。
その彼らが戻らない。
しかもガーターの話によれば、彼らと同時に向かわせた私兵団の者たちも、誰一人戻ってこないという。
ただの一人も、戻ってこないのだ。
任務に失敗した際の連絡要員は必ず後方に配置している。その連絡要員すら戻ってこない、そんなことが本当にあり得るのだろうか。
腕のいい護衛を雇ったのだろうと予想はしていた。必ず複数の凄腕がいなければ、この結果にはならない。
だが、具体的な護衛の名前は一切出てきていないのだ。
――違和感。
月丹はミツゴシ商会に得体のしれない何かを感じた。
一度覚えた疑惑は、また新たな疑惑を呼んでくる。
彼らの商品の技術力、そして発想力は、どれも革新的だ。その分野は多岐に渡り、率直に言ってただの商会に生み出せる物とはとても思えない。
その発想、その技術、そしてそれらを柔軟に取り入れる能力、その出所はいったいどこなのか。
まだできて数年の新しい商会に、こんなことができるとは到底思えない。
何かがある。
ミツゴシ商会の裏側に、巨大な何かが潜んでいる。
月丹は怒りと同時に、冷たい何かを感じていた。
「月丹様、その……大商会連合の中からもミツゴシ商会が崩れないことに不満の声が出て来ています」
「黙らせろ」
「は、はい……」
「いや、待て……不満の出所がどこか探れ」
「不満の出所、ですか?」
「裏があるかもしれん。それから……ミツゴシ商会を徹底的に調べろ」
「ミツゴシ商会を、ですか。しかしそれはもう調べたはずですが……」
「もう一度調べろ。必ず、何か裏があるはずだ」
「は、はい……調べます」
一礼して退出するガーターを、月丹は見えない目で見送った。
そして、目の傷を指で触れて呟く。
「必ず……潰す」
商会の裏に何が潜んでいるかはわからない。
だが、次に動くのは『大狼』と呼ばれる月丹だ。
しかし、それが何であろうと、全てを潰し全てを奪う。
彼はいつだってそうしてきたのだ。
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