第117話 ごーるでんれとりばー

 いやー、よくわかんないけど偽札作戦は凄くいいらしい。否定されたときはダメかと思ったんだけど、押してみるものだね。ユキメにも太鼓判をもらったし、あとは偽札ができるのを待つばかりだ。


 それまでは少し暇になるけれど、偽札が完成したら忙しくなる。


 僕の仕事は主に偽札の出所を探る連中の始末だ。


 敵のエージェントを陰ながらスタイリッシュに排除する、スーパーエリートエージェントに相応しい仕事で楽しみしかない。


 ふふふ、どうやって始末してくれよう。


 シャドウバレ対策のために刀は使えない。つまりそれは刀にこだわる必要もなくなったということで、今回は新鮮なバトルができそうだ。


 そんなことを考えながら深夜の王都を歩いていると、遠くの方に見覚えのある犬耳を見つけた。


「デルタ……?」


 僕が小さく呟いた瞬間、その犬耳がピクリと動く。


 振り向いた彼女は、まぎれもなくデルタだった。


「……ボス」


 彼女の唇がそう動く。


 そして次の瞬間、四足ダッシュで僕の目前に現れた。


 ああ、無駄に速い。普通の人には目で追えないだろう。


「ボ――!」


「今はボスじゃない」


「あぅ……シド! 会いたかった!」


 ブンブンと尻尾を振り回す。


 その満面の笑みが、次の瞬間固まる。


「シド……狐の臭いがする……」


 忘れていた、デルタは無駄に鼻がいいのだ。


「き、狐狩りをしていたんだ」


「狐狩り、デルタもする!」


 デルタの顔がパッと明るくなる。


「残念、狐はもう狩ってしまった」


「あぅ……じゃあ狐狩りまた今度」


「うん、今度しよう。あ、マーキングは止めろ」


 僕は身体を擦りつけようとするデルタを腕で押しのけた。


「でもシド、狐臭い」


「いいんだ」


「嫌」


 グイグイ来るデルタをマッスルで押し返し、僕は話題を変える。


「デルタは何で王都にいるんだい?」


「あぅ……シド、やっぱり力強い」


「デルタは何で王都にいるんだい?」


「ん? 何で?」


「デルタは何で王都にいるんだい?」


「デルタは、えっと、今日は早起きして、お肉をたくさん食べて、久しぶりに王都に来たの」


「デルタは何で王都にいるんだい?」


「えっと、デルタは、狩りをしていたの」


「王都で?」


「外で、楽しかった! たくさんたくさん狩ったの! シドも一緒に狩る?」


「なぜ狩りをしていたの?」


「シドも一緒に狩ろう!」


「なぜ狩りをしていたの?」


「アルファ様がそうしろって! シドも一緒に狩ろう!」


「そっか、アルファがそう言ったんだ」


「うん、シドも一緒に狩ろう!」


「何を狩っていたの?」


「盗賊ッ! シドも一緒に狩ろう!」


「盗賊狩りかぁ!」


「シドも盗賊狩り好き!」


「うん、僕も盗賊狩りは好きだ」


「一緒に狩ろう!」


「しばらく暇だし、一緒に狩るかぁ」


「やったぁ!!」


 デルタは僕の手を引っ張って、ずるずる引きずろうとする。


「待て待て、今すぐは無理! 寮に一回帰らなきゃだし」


「嫌!」


「デルタも用事があって王都に来たんでしょ?」


「ようじ?」


「アルファに呼ばれてたりしない?」


「アルファ様ッ!?」


「忘れてた?」


「呼ばれてた、怒られる?」


「どうだろう。早く行った方がいいよ」


「でも盗賊狩り……」


 デルタがしょんぼりと僕を見る。


「しばらく暇だから明日にしよう。先に用事をすませといで」


「分かった! シド、待ってて!!」


「寮で待ってるよ。こっそり来るんだよ」


「こっそり行く!」


 デルタは四足ダッシュの凄まじいスピードで王都の街並みに消えていった。


 見られたら絶対目立つけど、普通の人にはまず見えないし、まぁいいか。


 なんか前世で飼っていたゴールデンレトリバーを思い出して、僕はこっそりため息を吐いた。

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