ー 19話
「キュッキュ」
森の中は鬱蒼としていて、まだ昼間なのに暗く感じる。何の動物の声か分からない変な声が所々から聞こえて来て、ゲーム内のBGMも暗い雰囲気の曲に変わったような気がする。
リュウ「フン♪フン♪フフン♪」
リュウは、鼻歌混じりに槍で草木を掻き分けてどんどん奥の方へと進んで行く。
ユーマ「ちょい、静かにしろって。何か来たらどうすんだよ。(小声)」
リュウ「そんときは、俺を置いて先に行け!(小声)」
決め台詞が決まった!と言わんばかりのドヤ顔をして、
ユーマ「はいはい。んじゃ遠慮なく逃げさせて頂きますね。(小声)」
リュウ「えぇ!ひっでぇなぁ。」
ユーマ「ちょ、うるせぇよ。(小声)」
リュウ「わりぃわりぃ(小声)」
口元を抑えるふりをして、リュウはシーっと口元に指を立てる。
(いや、お前がさっきからずっとうるさいんだが。)
と、思うがツッコムのも面倒なので俺は黙ってリュウの後に続く。
「キュキュッ」
時々聞こえる鳥の鳴き声なのかよく分からないキュッと言う音が森の中で響いているが、特に何かと遭遇することなく俺たちは、入ったところから結構な距離を進んだように感じる。
ユーマ「道は分かってるんだよな?(小声)」
不意に感じた疑問をリュウに問いかける。と言うのも俺たちは初めてたかだか数日のプレイヤーであり、森の中を攻略する無謀なプレイヤーもそれを配信するプレイヤーも数が少ないわけで、今入っている森はほぼ未開の地となんら変わらないのである。
その言葉を聞いてリュウが立ち止まった。
リュウ「いや、そんなん知らんけど?(小声)」
ユーマ「は?」
あり得ない返事が返ってきた事で、小声で喋るのを忘れた俺はリュウにもう一度聞き返す。
ユーマ「いや、道は?」
リュウ「いや、だから知らんけど?(小声)」
知るわけないじゃんという顔をしながらやれやれという風に左右に首を振る。
ユーマ「はあああああああああああああ!?(大声)」
この時ばかりは、こいつを信用してついてきた事に後悔した。
リュウ「ッチョ、シー。シー。」
口元に指を立てて静かにしろというジェスチャーをするリュウを見ながら、
(いや、全部お前のせいな。)
と言うのを感じながらも、俺はもしもの事があったら絶対こいつを置いてでも逃げてやると考える。
「キュイ。」
俺が大声で叫んだ後、足元で何か聞いたことのある声が聞こえてくる。
俺が下を見下ろすとそいつはいた。
ユーマ「出た.....(小声)」
リュウ「ん?」
振り返ったリュウが、俺の足元にいるやつを見て槍を構える。
ユーマ「えーっと、お久しぶり?ですねぇ。」
俺は、訳の分からん事を言いながらそいつから忍び足で離れようとした瞬間、そいつの目が黄色から赤色に変わる。
ユーマ「ちょ、おま、昼にもいんのかよ!」
明らかに夜にしか湧かないような名前の癖して、森の中に現れたのは、
Monster:MoonEaterRabbit (月喰らいのウサギ)
「キュィィィィイ」
思いっきり足元を攻撃された俺は、赤いエフェクトをまき散らしその場に倒れ込む。
攻撃された俺の視界右上にアイコンが浮かび上がってくる。
ユーマ「骨折と、スタン食らった。」
右足の感覚が消え、長時間正座して痺れた時のような感覚が攻撃された右足に残る。
リュウ「こいつは、俺に任せた!お前は急いで回復しろ!」
リュウ「ブーストスピア!!!(大声)」
リュウ「スタブスピア!!!(大声)」
と言ってスキルを発動したリュウは、ブンブンとウサギを槍で攻撃しようとするのだが、槍が長いせいで近くにいるウサギになかなか当たらない。しかも当たり判定が小さいせいでなおさら攻撃が当てにくくなっている。
ブンブン振り回すリュウが、ウサギを引き付けている間に、インベントリーから包帯を取り出しポーションを飲む。
ユーマ「ブーストスラッシュ。(小声)」
小声でスキルを唱えて、静かに後ろから忍び寄ってウサギに思いっきり攻撃する。
ユーマ「スラッシュ。」
「キュィイ!」
背中を斬られたウサギは、怒って俺の方にターゲットを移し、体当たりをして来る。
間一髪でそれを躱した俺は、ウサギに向かって再度スラッシュを唱えて攻撃する。
ユーマ「スラッシュ。」
ウサギもそれを間一髪で避けて草むらの方に消えて行った。
リュウ「これって、まずいのでは?」
ガサガサと辺りの草むらが動き出し、俺たちは身動きが出来ない状態になってしまう。
ユーマ「まっずいなぁ。」
ガサガサという音が止み、一応今のうちに何かあった時用のポーションをインベントリーから取り出したリュウの後ろから、タイミングを見計らったようにウサギがポーション目掛けて突進し、リュウの腕を噛みそのまま草むらの中に入って行った。
リュウ「痛ってぇ!(大声)」
ポーションが地面に落ちて割れてしまい、ポーションが1個使い物にならなくなってしまった。
ユーマ「帰り道は分かるか?(小声)」
リュウ「今の戦闘で完全にどっちから来たか忘れた。(小声)」
赤いエフェクトをまき散らしながら喋っているリュウの腕は、出血ダメージを負い徐々にHPが減っているのが分かる。
ユーマ「帰り道さえ分かればな、初日の時よりもレベルが上がっているしダッシュで逃げればどうにかなりそうではあるんだが......」
あの日の夜、なんとか逃げきれた事を思い出しながら、俺は帰り道どっちだったかな?と考え込む。
※ウサギの方がスピードは、速いです。
リュウ「取り敢えず、草むら攻撃してみないか?」
当てずっぽうで攻撃してみて、あいつを倒せないかと無謀な提案をして来るのだが、実際今はそれが一番最適解のように感じる。
リュウ「ブーストスピア。(小声)」
ユーマ「ブーストスラッシュ。(小声)」
俺たちは、少しでも攻撃力が高くなるようにスキルを唱えて辺りの草むらを攻撃する。
ガサガサ....ガサガサ.......ガサガサガサガサ
後ろからガサガサと凄い勢いで何かが迫ってくるのを感じた俺は、大声でスキルを叫んで振り返りそのままの遠心力で剣を真横に薙ぎ払う。
ユーマ「スラッシュ!!!(大声)」
ウサギの足先に偶然ヒットするも、そのまま肩を噛まれてしまう。これがヒットしなければ俺は首を噛まれて初めてこのゲームで死亡していただろう。
リュウが倒れたウサギを透かさず攻撃し、なんとか討伐することが出来た。
リュウ「いやぁ、ビギナーズキリング強すぎだろ。(小声)」
ユーマ「だから反対したじゃん。まだ森は無理だって。(小声)」
ユーマ「というかどうするよ。(小声)」
リュウ「何が?(小声)」
ユーマ「帰り道もそうだし、早くここを移動しないとさっき大声でスキル名叫んだりしたから、他の敵が来るんじゃねぇか?(小声)」
リュウ「あぁ、確かに。(小声)」
俺たちは、取り敢えずどっちがどっちか分からないまま速足で森の中を進んで行き、岩陰に隠れて回復する。
ユーマ「あと少しでHPなくなるところだったし、回復薬も足りないんじゃないか?(小声)」
リュウ「それもそうなんだけど、もし夜までにこの森を抜けれなかったら俺たち終わりじゃね?(小声)」
※ゲーム内でのログアウトはいつでもどんな場所でも可能で、周りからも見えない状態になりますが、戦闘可能エリアや、一部無法地帯エリアでのログアウトの際には、アバターはプレイヤーから認知されない透明な状態となり、プレイヤーからプレイヤーに対する当たり判定はございませんが、見えないけどその場にいる判定となります。NPCやモンスターからはその場にプレイヤーがいる判定で時間が進められるため、戦闘可能エリアでのログアウトの場合は、プレイヤーの攻撃以外で死ぬ恐れがあります。
ユーマ「というか、来た時こんな岩なんてあったか?(小声)」
リュウ「知らないけど、あったようななかったような気もする。何て言ったって木と草とそれから岩しか見てないし、辺りも木のせいで暗いから。(小声)」
すまんという顔で、手を合わせて謝ってくるリュウを見ながら溜め息をついて俺は、回復したらどうなるかわかんないけど先に進むかと提案する。
リュウ「了解。(小声)」
どちらも回復が終わった時にリュウがア!と言って反応する。
ユーマ「どうしたんだよ?(小声)」
リュウ「木の上登れないかな?(小声)」
ユーマ「ナイスアイデア!やってみようぜ。(小声)」
リュウのその提案にこのゲームを始めてから初めて感心をしながら、リュウが木の上に到着するのを待つ。
リュウ「おぉ、見えたぞ~!」
小声でしゃべってるつもりなのだろうが、木の上からリュウの大きい声が聞こえてくる。
急いで降りて来たリュウがこっちだと言って指をさして急いで森を抜けに行くのだが、一瞬で森の外まで着いてしまった。
ユーマ「すぐ真横じゃねぇか。」
リュウ「上で確認して気づいたんだがな、俺たち森の奥に入ったと思っていたのに、森の入り口沿い辺りをずっと歩いてただけだった。」
俺たちは、森に入ってから1時間30分ほどの間ずっと入り口付近でギャーギャ騒いでいて、しかも森の奥じゃないからそんなに強くないモンスターと戦ってきてボロボロになったという事実に唖然とする。
ユーマ「まぁそりゃそうだよな。初心者が初めにスポーンする街で、しかも夜にでも出てくるようなモンスターが相当強い森の中のモンスターなわけがないよな。」
(今考えればあいつで良かったのかもな。)
と思いながら空を見上げる。
リュウ「つまり、俺たちは森の中で激戦をしてきたわけではなく、森の入り口で雑魚を倒して逃げて来た敗北者ってわけだ!」
同じく空を見上げなら溜め息を付いたリュウは、
リュウ「俺、頑張ってレベル上げしたんだけどなぁ。(小声)」
と聞こえないくらい小さい声でボソッと言って落ち込んでいる。
ユーマ「まぁ、命あってなんぼよ。ペナルティとか食らいたくないし。」
リュウ「そっかぁ。」
と言いながら元気を取り戻したリュウは、もっかい行く?と冗談で言ってきたので、アホかと言って、草原に座り込む。
ユーマ「まぁ、最前線は諦めようぜ?俺たちじゃ無理だよ。」
リュウ「見たかったなぁ....。新大陸。」
俺たちは、少し残念に思いながらも、レベル上げを頑張るかと張り切り、夕食の時間までレベル上げを行った。
PlayerName:ユーマ
種族:人
職業:剣士
Level:6 → 8
Skill:Healing/体術(未完成)/Slash(斬撃)/Magic Control(魔力操作)(未完成)/Boost Slash (斬撃上昇)/Hideing (身を潜める)(未完成)
称号:プレイヤー
PlayerName:リュウ
種族:竜人
職業:槍士
Level:11 → 12
Skill:.../Dragon Heart (竜の心臓)/Dragon Howling (竜の咆哮)(未完成)/Stab Spear(突槍)/Boots Spear (突上昇)
称号:プレイヤー
<効果をネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「皆さんに、この小説をより楽しく読んで頂ければなと思い、このコーナーを作りました!」
「前回書いたスキル解説と一緒の感じで、今回は私が解説させて頂きます。」
「どうぞこれからもよろしくお願いします。」
「それでは、今回解説しますのは、スタンや骨折などのデバフについてです。」
「書架に飾るでは、これからも様々なデバフが登場しますが、今回ユーマさんがウサギさんから食らったスタンと骨折について今回は解説させていただきます!」
「スタンとは、"成長の書"でも書かれている通り、ゲーム内で戦闘不能や気絶をしてしまった時に起こる行動不能状態の事を指します。ただ、このゲーム内でのスタンは、長時間正座した時に感じる足のビリビリっとしたような痺れ!あれを誰しも1度はなった事があるんじゃないでしょうか?あれがゲーム内で再現されており、プレイヤーは動けない状態になってしまうのです。気絶の時は、また違った感じで動けなくなるので注意ですよ!」
「つまりはだ.....痛くてこんなの動けないよ~な状態ってだけで、無理矢理動いてしまうことは実際は可能であるっていう事なのです!」
「ただ、想像しただけでもゾッとしますね。あんなの無理に動こうとしてしまえば、痛みでよろめいて倒れてしまうだけですよ......。」
「次に、骨折です。ゲーム内であるため骨折状態でも無理に動くことは可能ではありますが、無理に動けば動くほどビリビリっと痛みを感じ、HPが骨折の度合いによって急激に減少していきます。また、それでも無理に動き続ければ、欠損と言う風な判定となり完全に動かせなくなってしまいます。」
「急いで安全な場所に避難し適切な治療を行って下さい。( ノД`)」
「と、言うのもゲーム内ではグルグルと包帯を巻くだけで良い簡易的な治療方法なんですけどね!」
「現実にもあったらな~。な~んって、現実にそういう便利な治療器具が出来たとしても怪我は嫌ですけどね......。」
「ユーマさんは、今回包帯を巻いてポーションを飲んだため、少しの時間で回復することができました。もちろん骨折自体は治っていないため骨折のアイコンは出たままになってはいますが、軽く動かせる程度まで回復し、なんとかウサギさんの背後まで忍び寄り攻撃した!というのが話の流れなのです。」
「以上で今回の解説を終わります!」
※ユーマさんと、リュウさん....毎回のようにデバフを食らっているように感じる方も多いかもしれませんが、このゲーム内では敵とのレベル差がありすぎるか、よっぽどの当たり所が悪くないと起きないような判定となっております。決して書かれているゲームが難しいというものではありません。
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