ー 55話

(ふふ......なんて愚かな"人の子"なんでしょう。)


皇太子殿下は、紳士な立ち振る舞いを見せながらも笑顔を振りまき、時々私の方を見ては頬を赤らめて城内を説明しながら案内する。聖女はそんな皇太子の様子に顔には出さないが、内心呆れ果てていた。

この皇太子の様子を見るに、さぞかし家族に大切に大切に、それはそれは良い事だけを見て、聞いて育ってきたのだろう。

欲しい"モノ"は何でも手に入る地位にいながら、この平和ボケした皇太子には、人を殺すことも命令する事も出来るわけがなく。今の世の中の情勢にも、全く無関心で.........と言うよりは、知ろうとする事すら放棄してしまっているのだろう。

いつまでもいつまでもこの平和が続くと信じてやまないその"優しい心無知なあなた"に、現実というモノを教えてあげたい。


聖女は少し立ち止まって、ある妙案を思いつく。


皇太子「どうかしましたか?聖女様。」


聖女が歩みを止め、俯いてしまっているのに気が付いた皇太子は、聖女様に話しかける。


聖女「すみません。皇太子様、少し......歩くのに疲れてしまいまして。」


俯いた顔を少し上げ、ニコっと微笑んだ聖女様を見た皇太子は、頬を赤らめて一瞬だけそっぽを向き、


皇太子「き、気が利かずにすみません。聖女様をご案内できる嬉しさのあまりに、失念しておりました。城内は広いですし、聖女様は長旅でお疲れでしょう.....聖女様、すぐに客室へご案内いたします。」


と言って聖女様の方へ見て、微笑み手を差し伸べてお辞儀をする。


聖女「せっかく城内を、皇太子殿下自らご案内して頂いていましたのに.........本当に申し訳ございません。」


と申し訳なさそうな顔をしながら謝罪する聖女様に、皇太子は私の方こそ気が利かず、城内のご案内はいつでも出来ますので、また別の機会とさせて頂きます。と言い聖女様の差し出した手を取って客室へ案内する。

客室へ向かっている途中に、さっきの妙案を実行するために、とある質問をする。


聖女「皇太子殿下、不躾な質問になってしまいますが、時に婚約の話の方は進んでいますか?」


その質問を聞いた皇太子は、微笑みながら婚約者についての話を次々にしてくれる。

自分の婚約者は、可愛いだの。

今の自分は幸せだの。

今度、私にもご紹介したいだの。

皇太子殿下は、本当に嬉しそうにくだらない事を沢山教えてくれた。

(本当だったのね....皇太子が婚約者を溺愛しているっていう噂は....。)


聖女「それはそれは、そのご令嬢もさぞかし幸せな事でしょう。」


皇太子はその言葉を聞き、少しだけ俯いてから、


皇太子「親同士が決めた婚約であるため、彼女が負担に思ったり、私の事を嫌っていなければいいのだが.......。」


そう言って、一瞬だけ不安そうな顔をする。

そんなくだらない話を聞いているうちに、皇太子に案内された客室へ到着した。


皇太子「聖女様、こちらが客室です。どうぞ、ご自由にお使いください。」

皇太子「こちらの召使いメイド達が、いろいろと聖女様のお世話を任せていますので、何かご不便がございましたら、お申しつけ下さい。」


私に向かってニコっと微笑んだ皇太子は、メイドの方へ振り返り、


皇太子「それじゃぁ、頼んだぞ。」

メイド「畏まりました。皇太子殿下。」


と、メイドの肩を叩いてそのまま部屋を出て何処かへ行ってしまった。


聖女「ふふ、皇太子殿下は、婚約者であるご令嬢の事を本当に溺愛していらっしゃるのですね。」


メイドに向かって、そう微笑み再度確認する。


メイド「えぇ、毎回令嬢が城内へ訪問されるたびに、皇太子殿下が、素敵なプレゼントを用意されるほどなのですよ。」


とメイドが嬉しそうに教えてくれる。

(どうやら、本当に令嬢の事を溺愛しているようね。)

(周りに隙を与えないようにするために、仲睦まじい様子を見せる演技するという事は、貴族や身分の高い人がするよくある話なのだが、メイドまでそんな話をするのだから本当の話のようだ。)


聖女「あの.....。」

メイド「あ....申し訳ございません。聖女様、高貴な方に自己紹介させて頂きます。私の名前はファミリスです。どうぞお好きなように及び頂ければと思います。」

聖女「それじゃぁ、ファミリスさん。」

メイド「そ、それはいけません。聖女様...."さん"だなんて、呼び捨てで構いませんので、よろしければ、"おい"でも"あの"でも構いませんので、どうかそのように私に"さん"だなんてお使いにならないで下さい。」

(この子......王宮のメイドにしては、しっかり教育されているのね......。)


一瞬黙り込んだ聖女様は、申し訳なさそうな顔に切り替えてから、


聖女「そ....それじゃぁ、ファミリスと呼ばせて頂くわね?」


と言って困った顔をしながら、小さく微笑む。


メイド「はい。ありがとうございます聖女様。」


と言い、一礼したメイドは、聖女の微笑みを見て真っ赤な顔になる。


聖女「それでね。ファミリス?」

メイド「は、はい。」

聖女「お水を持っていただいてもいいかしら?」

聖女「先ほど城内を沢山回って疲れたの。」

メイド「は、はい!今すぐに...も、持ってきます!」


顔を真っ赤にしたメイドは、急いで客室を出て、水を取りに行ってしまった。


パンパン(手を叩く音)

黒い服「ッハ。我ら一同聖女様の元に馳せ参じました。」

聖女「貴方たち、先ほどの話は全部聞いていたわよね?」

黒い服「ッハ。」

聖女「それじゃぁ私の求めている情報....わかるわよね?」

黒い服「はい、かのご令嬢についての情報ですね?」

聖女「分かってるじゃない?」

聖女「それと、いつでもその令嬢を私の前に持ってこられるようにしておいてもらえる?」

黒い服「生死のほどは?」

聖女「必ず生きたまま捕らえてもらえる?」

聖女「ただし、私が合図するまでは、何もしないでね?」

黒い服「ッハ!」

黒い服「それでは、行ってまいります。」

聖女「頼んだわよ?」


黒い服を着た人達が一瞬にして消え、その瞬間メイドがやって来る。


メイド「お待たせいたしました。聖女様。」

メイド「それより、先ほど声が聞こえたような気がしたのですが......?誰かいらっしゃいましたか?」

聖女「あら、驚かせてごめんなさいね。私が独り言を喋っていただけなのよ。」


ニコっと微笑む聖女様を見たメイドは、一瞬だけ背中に冷たいものが走ったような気がして振り返る。


聖女「どうしたの?」

メイド「い、いえ。」

メイド「あ、今すぐお茶をお入れしますね。」


持ってきたティーカップにお茶を入れ、聖女様に渡す。


聖女「ありがとう。」

メイド「えへへ。」


聖女様に感謝を言われて、緩んでしまったメイドがニコニコとしながら、聖女様を見つめる。


聖女「そんなに、見つめられても何も出ないわよ?」

メイド「あ、いえ.....すみません。聖女様が素敵だなって......。」

聖女「ふふ、ありがとう。」


ニコっと微笑んで窓の外を見つめた聖女は、自分の顔がガラスに反射して映り、自身が今どんな顔をしているのかを知る。


聖女「こうじゃないわね......。(小声)」

メイド「何か言いましたか?」

聖女「いいえ、何でもないわ。」


窓の外は、先ほどまでとても晴れていたのに。

誰かの不幸を知らせるかのように、ぽつぽつと小粒の雨が降り出すのであった。


Name:表示不可

種族:人

職業:聖女

Level:表示不可

Skill:......./神聖[神聖に関する技能統合]/聖なる威圧

称号:...../聖女


Name:表示不可

種族:人

職業:皇太子殿下

Level:表示不可

Skill:表示不可

称号:...../皇太子


Name:ファミリス

種族:人

職業:メイド

Level:表示不可

Skill:表示不可

称号:平民/王宮メイド


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」

「何やら聖女様が妙案を思いついた模様。」

「いったいどのような事を思いついたのでしょうか?」

「ちょっと不吉ですね。」

「それでは、本日もサクッと解説をやっていきましょう。」

「本日のサクッと解説は、もしもこうだった場合のお話です。」

「まず、もし皇太子に婚約者がいなかった場合ですが、聖女様に猛烈にアピールしまくっていた事でしょう。」

「その場合は、皇太子を利用して多額の寄付金を手に入れた後に、何もなかったという風に場を納めて終了します。」

「これが一番平和的な、世界線だったかもしれません......。」

「もし皇太子が婚約者を愛していなかった場合、その場合は皇太子が婚約者を愛していないという噂が広がっていき、その事に対して教会側が手を差し伸べ、教会と王国で協力体制を作ります。」

「ただしこの場合は、一方的に協会側が有利の言葉だけの協力体制ですけどね。」

「次に、あのメイドについてですが、もしこのまま"さん"を付けさせたままであった場合、聖女によって利用され、悲惨な末路を辿り終了します。」

「ちなみに、今回のようにしっかり訂正した場合であったとしても、どのみちあまり良い方には進まない"かも"知れません......。」

「以上で今回のサクッと解説を終了します。」

「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」

「いつでも、どんなのでも歓迎です!」

(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))

「さようなら~。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る