ー 51話

ガタン(天秤が傾く音)

ひゅ~(風を切る音)


「う.....うぅ......お願い......死なないで.........。」


空を飛んであの忌々しい教会から抜け出し、森の方へやって来たアイリスは、傷だらけで血だらけの彼女を抱いたまま森の奥深くまでやって来た。ここまで来れば追手は来ないだろう。


ドン(衝撃音)


「ッウ.......あ!?」

「ごめんね!痛かったよね?ごめんなさい...........。」


慣れない飛行のせいでゆらゆらと揺れながら飛んでいたからか、一瞬目を瞑ってしまった時に、思いっきり木に体当たりをしてしまい身体をぶつけてしまった私は、彼女を思いっきりぎゅっと強く抱いたまま木の下に落下してしまった。


「ひゅー.............ひゅー..............。(虫の息)」


先ほどよりも彼女の声がとても小さく感じられ、体温もすでに冷え切ってしまっているように感じる。私は、彼女に何度も何度も謝りながら、ぎゅっと抱きしめて残りの体力を振り絞って彼女を抱いて立ち上がると、そのまま暗い森の中を足早に進んで行く。


「こっちだよ~。こっち~。」


不意に何処からか私達を呼ぶ声がする。

幻聴かもしれないし、私達を狙って追いかけて来た聖騎士かも知れないと思った私は、声のする方とは逆方向に向かうおうとすると、


「彼女~危険だよ~。お薬あるよ~治せるよ~。」


と言う言葉を聞き立ち止まると、幻聴でも、嘘でも構わなかった私は、どうしても彼女を助けて欲しくて、声のする方へ向かってしまう。

(もし追手だったら私が切り刻んで彼女を助ければいい。)

(でも.....本当だったら、私はどうでもいいから彼女を助けて.....。)

そんな事を考えながら足早に深い深い森の中を抜けて声のする方へ向かう。

だんだんと私達を呼ぶ声が大きくなっていく。


「きゃはは~、きゃっきゃ~。」


声のした方向にやって来ると、小さな村があり妖精が私達を出迎えてくれた。


「そのこ~大丈夫?」

「いたずら~せいこう?」

「こっちで~治す~。」


ぐるぐると頭上や周りを飛び回りながら、妖精達はきゃっきゃと笑いながら私達を引っ張り案内しようとする。


「お願い.....彼女を......フリージアを治して!」


涙を流しながら力が尽きて倒れ込んだ私に、妖精達は困惑しながら辺りをぐるぐると回る。


「いたずらダメ?」

「この子~死んじゃう?」

「痛い痛い?」


小さな妖精達は、そのままぐるっと1回転した後に、困惑しながら辺りを見回して、泣いている私の涙の雫を手に取ると、


「泣かないで~。」

「いたずらごめ~ん。」

「治るよ~痛い痛い~。」


と言いながら、私の汚い服の裾を引っ張りながらこっちに来て~と言って一生懸命案内する。

重い脚を上げながら、ゆっくりと立ち上がり、体力が底を尽いても彼女をしっかりと抱いたまま妖精達について行く。


カランカラン(鈴の音)バタン(扉を開ける音)


「あら?いらっしゃい。お客様なんて珍しいわね。」


大きな妖精が奥の部屋からやって来て私達を見るなりぎょっとした顔をすると、急いで奥の部屋に行き、何かを持ってきてくれる。


「貴方!そんなに怪我をして.....早く治療しないと!」


と私を見て慌てながら言う彼女に、


「私は、いいから.....お願い私の友達を.....フリージアを助けて!」


と言って優しく抱いていた血まみれの彼女を見せる。

異臭を放ち血まみれで生きているかすら怪しい彼女を前に出され、大きな妖精は困惑しながら、彼女を見る。

周りにいる小さな妖精達は、不安そうにしながら、


「治るよね?」

「痛い痛いだよ?」

「お薬~。」


と言いながら、大きな妖精をまじまじと見つめ、お願いする。


「貴方達がやったの?」


と言う大きな妖精の問いかけに、小さな妖精達は否定する。


「違うよ~。」

「いたずらする前から~。

「怪我痛い痛い~。」

「いたずら~道案内~ここ教える~。」


と慌てながら説明し、私達じゃないんだよ~と否定しながら飛び回る。


「これは.......。」


彼女を見つめながら、申し訳なさそうな不安そうな顔で考え込んだ大きな妖精に、


「お願い.......私の事はどうでもいいから.....彼女だけでも助けて........。」


とお願いして座り込む。

既に手遅れと言っても良い状態でやってきた彼女と、傷だらけでやせ細り暴力の跡があちこちで破けた服の隙間から見える彼女。


「これ......生きてるの?」


腕と足は、モンスターや他の種族のモノに継ぎ接ぎにされており、血まみれで打撲や骨折の後が身体中いたるところにある。息は辛うじて耳を当てれば少しだけ聞こえてくるが、こんな状態で生きていることが奇跡に近いし、治すのはとてもじゃないが難しい。


「完璧に治すのは不可能よ......。」


大きな妖精のその言葉を聞き、唇を噛みしめて泣きだしてしまった私に小さな妖精達が肩と背中をよしよししながら、大きな妖精を睨み。


「どうして~。」

「いじわる~。」

「いっつも治せない傷治してくれる~。」


と次々と文句を言う。


「分かった、分かったから......頑張って見るつもりでは、いるけど期待しないでよ?」


と困った顔をしながら周りの妖精達を落ち着かせて患者を診てから、奥の部屋から様々な道具を取って来る。


「もう一度聞くけど、完璧に治すのは無理よ?それでも良いのね?」


と疲れ果てて気を失いそうな私に、大きな妖精が確認する。

それでも私は彼女にどうにか生きて欲しくて........。


「お願い、何でもする.....から、彼女を生かして.......。」


と言って気を失ってしまった。気を失う瞬間、大きな妖精が私に向かって頷き、分かったわと言ったような気がした。


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ヒカリ(?)「はぁ.......はぁ.......。あの聖騎士達もしつこいわね。」


路地裏を駆け抜けて、スラム街のような場所に出た私は、酒場に入って一息つく。


ヒカリ(?)「神聖を謳ってる聖騎士は、こんなスラム街のような場所までは来ないでしょ......。」


と席につき一息ついていると、ガラの悪い輩がぞろぞろとやって来て私を見るなり、


「見慣れねぇ顔だな。」

「何処から来やがった?」

「いぃねぇ、嬢ちゃん高く売れそうだなぁ。」


と下品な事を言いながら近寄って来る。


ヒカリ(?)「ほんと....これ厄介極まりないわ。この勇者だとかいうもの......。(小さな声)」

「ア"んだってぇ?聞こえねぇなぁ。」

「嬢ちゃん、こんなとこに来たのが運の尽きだぜ?」

「顔も可愛いんじゃねぇかぁ?」


と言って手を差し伸べ私のフードを取ろうとした馬鹿なチンピラの腕を掴んで捻る。


「いでででででで!」

「てっめぇ仲間になにしやがんだ!」


ガラの悪いチンピラ達は、ナイフを取り出し私に向けて突き出してくる。

私はそれを難無く躱し、店主に向かって質問する。


ヒカリ(?)「ねぇ店主さん......ここ汚しちゃうけどいいかしら?」

店主「............はぁ。壊したら御代は頂くよ。」


と言って呆れ顔の店主は溜め息を付いてやれやれと言う風にそっぽを向いたまま濡れたジョッギを布切れで拭いている。


「なにわけわかんねぇこと言ってんだ!」

「なめてんのかぁ!」


と言いながらナイフを向けて突っ込んできたチンピラ達はあっという間にヒカリに制圧されてしまう。


「ごらぁてめぇ....うちのもんにてぇ出しやがって......。」

ドン(テービルにジョッギを置く音)


奥の方から酔っ払った状態の大男が現れ、私を睨みつけながら、拳をベキボキっと鳴らし殴りかかって来る。


ヒカリ(?)「どうしてこう.....ガラの悪い輩って毎回こう........。私に突っかかって来て面倒くさい事をさせるのかしら.......。」


と溜め息を付きながら突き出された拳を掴み、そのまま大男を反対側に投げ飛ばし気絶させる。

ドン(衝撃音)ガラガラ(壊れた音)

机と椅子が大男の下敷きになり破損してしまい、店主はそれを見てやれやれという顔をして御代をよこせと手を差し出す。


ヒカリ(?)「あの人から取りなさいよ。」


と言い気絶した輩を指差すが、店主は首を横に振って拒否する。


店主「あのなぁ、嬢ちゃん。人間を売り飛ばして金にするような連中が、修理費なんていうお金を持ってるわけがないだろ?どうせ今回も酒代くらいしか持ってきてやしねぇよ。」


と言って溜め息を付き、良いからさっき約束した修理費を出せと催促するので、仕方なく修理費を置いて席に座る。


店主「まいど.....。酒は?」

ヒカリ(?)「いらないわ。」

店主「訳アリかい?」

ヒカリ(?)「まぁそうね.....。だから少しの間匿ってもらってもいいかしら?」


と言ってカウンターの上にお金をばら撒く、


店主「分かってるじゃねぇか嬢ちゃん......。」


と言いそのまま無言でジョッギを拭きながら窓の外で何かを探している聖騎士達を見つける。


店主「へぇ.....お前さんどっかのお偉いさん見てねぇだな。」

ヒカリ(?)「詮索しないでもらっていいかしら?」

店主「わりぃわりぃ。」


と言い手を上げながら悪かったと言うが、店主の顔はニヤニヤしながら、残りのジョッギを洗い終えて、奥の部屋に行ってしまった。


ヒカリ(?)「ほんと....厄介だわこの勇者とかいう称号。(小声)」


勇者の称号が付いてからというもの聖騎士から追われるわ、今まで姿や声を変えていたアーティファクトの機能が失われるわで散々な目に会っている。

そのため、最近は街中を歩くのも一苦労だし、レベル上げもままならない。


店主「やぁ....嬢ちゃん良かったな。」


奥の部屋から戻ってきた店主は、私を見ながら不気味な笑顔をこちらに向け、訳の分からない事を言ってくる。


ヒカリ(?)「どういうことよ?」

店主「まぁさっき多めに金払ってもらったから情報料って事で教えてやるが、どうやらあの聖騎士さん達は、お偉いさんの捜索を辞めて一旦、全員が神殿に帰るらしい。」


と言いながら、肘をカウンターの上にのせ、私に説明してくれる。


ヒカリ(?)「それってどういうことよ?」

店主「なんだ、知りたいのか?」


と言い目を細めて笑う店主は、トントンとカウンターを指で叩いて情報料と言い、金をせびる。


ヒカリ(?)「はぁ.....ほんと...商売上手ね。(呆れ声)」

店主「それほどでも。」


と言いニヤッと笑った店主は、どうして聖騎士が捜索を諦めたのかを説明してくれる。


店主「どうやら教会で何かあったらしい。」

ヒカリ(?)「何かって何よ?」

店主「さぁ、どうせろくなことじゃねぇ。」

店主「ただ、そのろくでもねぇ事で神官が何人も死に守護騎士まで何人か死んじまったらしい。」

ヒカリ(?)「はぁ?何言ってるのか分かってんの?」

店主「あぁ、俺も半信半疑なんだがよぉ、守護騎士が死んだのは間違いないらしい。」

店主「それも1人や2人じゃねぇ、数十人規模でだ。」


と言って指を前に出して説明する。


ヒカリ(?)「そんなのありえないわ。あの守護騎士のレベルがどれだけあるか知ってるの?」

店主「わぁってるよ。だから半信半疑だって言っただろ?」


と言い、店主は手で空中をあおぎやれやれどうなってんだという呆れた顔をする。


店主「まぁ、その守護騎士が死んで、教会も滅茶苦茶、そんで何があったのかを隠すためとその守護騎士をぶっ殺したやつを探すか、お偉いさんの警護をするためだかは、よく知らんが聖騎士全員に召集命令がかかったらしい。」


と言って、良かったなぁお偉いさんと言ってニタァっと笑う。


店主「まぁあんたの事は、誰にも言ってねぇから安心しろよ。」

店主「ここで時間潰すなり、さっさとここから離れるなりしろ。」


と言ってまた奥の部屋に行ってしまった。


ヒカリ(?)「どうなってるのよ?」


以前の回帰と展開が違い過ぎて良く分からない私は、一旦この話が嘘と仮定して暫くの間、私は酒場で匿ってもらう事にした。


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」

「今回は、ヒカリさんの登場です。」

「どうやら姿や声を変えるアーティファクトの機能が失われてしまったようですね。」

「そのためガラの悪いチンピラに絡まれたり、聖騎士に追われたり......。」

「とっても大変そうです。」

「本日のサクッと解説は、お休みです。」

「質問や解説してほしいものがある人はいつでも、どんなのでも歓迎です!」

(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))

「それでは、ばいば~い。」

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