ー 16話

ユーマがゲームを去って少しした後の出来事。


カランカラン

???「なぁ、ばあさん。頼むから俺にあの"書"を売るか譲るかしてくれよ?」

急いだ様子で本庶館に入ってきた"フードを深くかぶったプレイヤー(?)"は、大声を出しながらおばあさんに頼み込む。

NPC「何度来てもね、あんたみたいな素性の知れない子にあの本をやるくらいなら、他の子にあげるさね。」

そう言いながらおばあさんは、睨みつけてから本に目を落としてページをめくり読み始める。

???「ッチ、マジで頼むって本当にどんな依頼クエストでもやるし、なんなら別の本と交換でもいいからさ。」

プレイヤーは、荒々しい態度をとってはいるものの本当に焦って困っている様子を見せる。

NPC「はぁ~、何度も何度も言うけどさね。それが人に頼みごとをする態度かい?」

そう言いながら、おばあさんは再度睨みつけてから、

NPC「あんたのような得体のしれない人にやるよかね。そこら辺のガキに渡した方がよっぽど良い事をしてくれそうさね。」

そんな説教を垂れながらおばあさんは、そのプレイヤーを見てからギョッとする。

NPC「何さね。あたしがいじわるで言ってるように見えるさね?泣いたって渡しゃしないよ。」

おばあさんは、ちょっときつく言い過ぎたかな?と思いながらも、そんな事はないだろうと思って、そっぽを向いて本を読み始める。

プレイヤーは、何かぼそぼそと呟いた後に、

???「Agunef Telesia(アグネフ・テレシア) さんどうか、あの書をお譲り頂けないでしょうか?」

頭を下げて頼み込んだプレイヤーの、放ったその言葉におばあさんは、ギョッとして椅子から立ち上がりそのプレイヤーに駆け寄る。

アグネフ「どこでその名を聞いた!」

大声で怒鳴るおばあさんの声は、本庶館中に響き渡り、一瞬にして本庶館は迷宮と化す。

???「安心しろ。誰にもあんたの名を言った事はない。」

両手を挙げながら言うそのプレイヤーの言葉を聞くも、おばあさんは声を荒くしながら問い詰める。

アグネフ「どこで聞いたさね?答えろ!」

???「あんたから聞いた。そしてあんたが果たせなかった事も聞いた。」

その言葉を聞いて黙り込んだおばあさんは、椅子に戻って魔法を解く。

アグネフ「あたしゃなんて言ってたんだい?」

???「あの書は、決して"聖印"なんて呼ばれていい書じゃないって言ってた。」

アグネフ「その理由も聞いたのさね?」

???「あぁ、しっかり聞いた。でもあれが必要なんだ。"この先の顛末てんまつ"を変えるためには。」

その言葉を聞いたおばあさんは、ため息をつく。

アグネフ「どういうからくりさ知らないけどね。でもあんたが嘘をついてないようなのは分かったさね。」

そう言いながら杖を出して、一冊の本を奥の方から運んでくる。

???「からくりとかそういうのじゃない。本当にずっと"昔の"あんたから聞いてきたんだ。」

そう言ってからプレイヤーは、カウンターに置かれた本を手に取り、

???「もらっていくな?アグネフばあさん。」

と言って、本庶館を出ていった。


シュイン

ユーマ「ちょっと時間あるし、さっき調べたスキルの未完成を完成にできないかやってみるか。」

そう言いながら、ゲームにログインした俺は、広い場所がないか街を探索する。

ユーマ「さすがに、外に出るのは危険だしな。」

月が出て青く綺麗な空を眺めながら、初日の日の夜にウサギに襲われたのを思い出してゾッとする。

ユーマ「確か、月喰らいのウサギ(?)だっけか?よく生き残れたよな。」

ゲームにログインする前に見た動画サイトに上がっている月喰らいのウサギの戦闘映像を思い出してから、再度ゾッとする。

ユーマ「あんな素早い動きに攻撃力もまぁまぁあって、ウサギだから当たり判定も小さいんだもんなぁ。」

そんな事を考えていると、街を取り囲んでいる壁の近くで開けた場所を見つける。

ユーマ「ここで練習してみるか。」

俺は、ステータスを開いてから何が未完成だったかを確認する。

ユーマ「え~っと、体術と魔力操作ってやつか。」

ユーマ「スラッシュはなんで最初から使えるようになってるんだ?」

そんな事を思いながらも魔力操作をどう扱えばいいのか分からないのでまずはある程度予想が付く体術から取り掛かることにする。

ユーマ「体術ってことは、空手だとか柔道だとかの技を覚えればいいのかな?それとも単純に運動だけでいいのか?」

疑問に感じる事は多いのだがまずは、走り込みを開始する。

1時間くらい掲示板を見ながら走り込みをしていると、

???「ちょっとこんな時間にこんなところで何してるんだい?」

俺は、急に声を掛けられてびっくりしながらも声がした方を振り返る。

ユーマ「いやぁ、その体力作り的な感じで走り込みをしていました。」

プレイヤーが聞いたら、なんでゲーム内で脳筋プレイやってんだって思うだろうことを言っていたことに気が付いて俺は少し恥ずかしさを感じ苦笑いする。

???「そうかい、そうかい。それは良い心がけだな!」

とガッハッハと笑いながらやってきたのは、街の警備兵であるNPCだった。

俺は内心ホッとしながらも、

ユーマ「ここって使ったらまずい場所でしたか?」

と尋ねる。

NPC「いやぁそんな事ないさ。ただ最近は何かと物騒な事件も多いからね。」

NPC「この時期になると特に何故か冒険者が、悪さしだす頻度が増えるのさ。」

(それは、夏休みでプレイヤー人口が増加するからでしょうね。)

なんて無粋な事を言うのを避けてから、

ユーマ「そ、そうなんですね。お疲れ様です。」

と言って警備兵に敬礼する。

NPC「ガッハッハ、とにかく夜も遅いんだから気をつけなさい。」

NPC「体力作りも良いもんだが、若いんだからしっかり寝る事も大事だぞ。」

そう言って警備兵のおじさんは、去っていった。

(なんというか、優しい感じのおじさんだったな。)

と思いながらも、ステータスを確認するも今だ未完成のままの体術を見てから、少しがっかりして、やる気のなくなった俺は、

ユーマ「そういえば、さっき掲示板で見たけど、ポーションよりも包帯だとか塗り薬だとかの方がポーションより安価だし良いらしんだよな。」

と言い訳をし、買い物に出かける。


PlayerName:ユーマ

種族:人

職業:剣士

Level:4

Skill:Healing/体術(未完成)/Slash(斬撃)/Magic Control(魔力操作)(未完成)

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