聖悟の書
聖悟の書
カランカンカンカン(瓶の転がる音)
パリン(割れる音)
床に酒瓶が落ち、ガラスの破片が飛び散る。
カール「ヒック......。ハァうまくいかねぇもんだなぁ。」
カール「そうは思わないか?嬢ちゃん......。」
牢屋の中にいる女性を見つめながら、溜め息を付く。
「ごめんなさい......ごめんなさい.......ごめんなさい。(小声)」
カール「ヒック、お前さんはいっつもそれだなぁ。」
ジャラジャラジャラ(鎖の音)
奥の部屋に行ったカールは、鎖に繋がれた人物をひこずりながら戻って来た。
「..................。」
カール「なぁ.....お嬢ちゃんと一緒に来た奴なんて、もうとっくに虫の息だぜ?ヒック。」
鎖で手首を繋がれて、カールにひこずられながらやって来た人物は、牢屋の中にいる女性を見て少しだけ笑いかけ力尽き俯いてしまう。
カール「なぁ、元気出せよなぁ?つまんねぇだろ?ヒック。」
手首に繋がれている人物がぶつぶつとカールに向かって何かを呟いている。
「あ.....ぁ........あ........あ..............ぁ..............。(小声)」
カール「あんだってぇ?」
聞き返したカールに向かって、先ほどよりも大きな声で、
「コろシテヤる.......。(小声)」
ジャラジャラジャラ(鎖の音)
バタン(倒れる音)
鎖を思いっきり引っ張り、反対方向の壁に投げ飛ばしたカールは、
カール「何が殺すだこのクソ生意気な。」
ドン(蹴る音)
ドン(蹴る音)
何度も何度も彼女を蹴り飛ばす。
カール「実験体の分際で生意気言ってんじゃねぇぞ。」
ドン(蹴る音)
牢屋の中にいた女性は、涙を流しながらその光景を見て震えている。
「ごめんなさい..........ごめんなさい........。(小声)」
トコトコ(誰かが歩いてくる音)
リック「楽しそうだなぁ。カール.....。」
嫌そうな顔をしながらやってきたリックは、カールが蹴っている"物"を見たあとそっぽを向き、牢屋の中にいる人物に目をやる。
リック「なんだ.....、こいつまだ生きてたのか。」
カール「あ?あぁ....そいつか?ずっと心が壊れちまったままでよぉ。」
カール「治してからぶっ壊してやろうかと思ってさ。」
カール「じゃねぇとつまんねぇだろ?」
と不敵な笑みを浮かべる。
リック「はぁ.....。お前の趣旨趣向と一緒にしないでもらいたいねぇ。」
カール「はぁ、てめぇも男だろ?分かってねぇなぁ。」
と言って鎖を投げ捨てて椅子に腰を掛ける。
リック「あいつは、どっかに縛っとくか牢屋に入れとくかしなくていいのか?」
と先ほど蹴られていた"物"を指差しながらため息を付く。
カール「あれが、俺にかなうわけがないだろ?」
カール「それに、もう虫の息だ。ひゃっひゃっひゃ。」
と豪快に笑って酒を飲む。
カール「そんでぇ?今日は何しに来たんだよ。」
と睨みつけるカールに、リックは今日ここにやって来た理由を説明する。
リック「先ほど、聖騎士達に招集かかってね......。勇者を探す任務を与えられたんだ。」
リック「そんでまぁ、どうせ遠くまで行くなら実験体が足りているかどうかも聞いてこいとの話でね。」
と頭を掻きながら、牢屋の方を見る。
カール「足りねぇなぁ。全然足りねぇ。」
カール「出来れば、若い女がいいなぁ。」
とニタァと笑う。
リック「善処しよう......ただ、期待はするな。」
と言ってリックは、席を立つ。
カール「おいおい、待てって。」
と言うカールを無視してリックが上に上がろうとすると、
カール「はぁ、てめぇがここを好いてないのは、知ってるけどよぉ。」
カール「まぁいいや、いつも通り、人で頼むな。獣と竜とあと土は、いらねぇ。」
カール「森は、まぁ.....使えるかもだからいたら持ってこい。」
と言って溜め息を付き酒を飲みだす。
拳を強く握りしめたリックは、振り返ることなく、
リック「善処する......。」
とだけ言って上に戻って行った。
ジャラジャラ(鎖の音)
カール「てめぇ、俺が気付かねぇとでも思ってんのか?ア"ァ"?」
振り返ったカールが足元の鎖を掴み、振り上げて投げ飛ばす。
ドン(衝撃音)
「ッヒ.......ごめんなさい.......ごめんなさい。」
牢屋の中にいる女性は、震えながら目を瞑る。
カール「透明化なんて使ったってよぉ、すぐばれんのにアホだな。」
と言いながら鎖を掴んだ瞬間、いつの間にか手首の辺りが切られていたことに気が付く。
カール「てめぇ......。ヒック。」
カール「すごいじゃないか。俺に傷をつけるなんて。」
と喜ぶカールは、鎖に繋がれた"物"を蹴り飛ばしながら、拍手する。
カール「これでやったのかこれ?」
と、割れたガラス瓶の破片を取り上げて不気味な笑みを浮かべる。
カール「ひゃっひゃっひゃ。お前まだまだ使えそうだなぁ。」
カール「ヒック、良かったなぁ、お嬢ちゃん。」
と言って牢屋の中にいる女性に笑いかけたカールは、鎖に繋がれている"物"の髪を引っ張りながら奥の部屋に消えてしまった。
去り際に、私に向かって微笑みかけられた彼女の最後の笑顔を........。
私は決して忘れることは無いだろう。
バタン(扉が閉まる音)
「ア"ァ"ア"ア"ァ"ア"ァ"。」
何度も何度も部屋中に響き渡る悲鳴が何日も何日も続いた。
涙を流しながらただただ震えて目を瞑っている事しか出来なかった私は、私という存在にとてもとても後悔し怨んでいた。
あの日、ここに2人で連れて来られて、最初は私のせいにして責め立てていた彼女も、次第に私を気にかけてくれるようになった。
ただただひたすらに謝り続けて泣いていた私がとても滑稽に見えて.......可哀そうに思えて.....それだけだったのかもしれないけど、私はそれがとても嬉しかった。
彼女は怯える私にいろんな話と、希望を持たせてくれた。
いつか絶対にお父様が助けに来て下さるって。
そうじゃなくても、私があの悪魔を倒してあげるって。
そうして彼女は、私を引っ張りこの忌まわしい場所から抜け出そうと、連れ出してくれた。
牢屋を出て角を曲がり、いろいろな悪臭がする場所を抜けた。
真っ赤な何かがこびりついた部屋、真っ黒に焦げた何かの部屋、鎖に繋がれもがいている物体。牢屋の中で骨のようにやせ細っている人。
また角を曲がり細い通路に出た。
水の流れる音がした。
二人でひたすらに走って........そうして、水の流れる場所までたどり着いた。
そこには、鉄の柵があった。
彼女は、その場に座り込み無言のままの私を抱きしめて泣いていた。
私も自然と涙が零れた。
これが........。
これが..................。
カール「ひゃっひゃっひゃ、お二人さんにサプラーイズ!」
拍手をしながら不気味な笑顔で笑う白衣を着た人物は、2人に向かって笑いかける。
私はただただ無言のまま泣いているしかなかった。
カール「あぁ、残念でしたねぇ貴族のお嬢ちゃん、あ!今は貴族じゃなかったか。」
カール「だって今は、人間以下の実験の動物ですもんねぇ。ひゃっひゃっひゃ。」
カール「あぁあぁ、昨日1人であのまま逃げていれば助かっていたかもしれないのに。」
と鉄の柵を指差しながら、二人に笑いかける。
カール「そんなにその平民が大切だったんですか?」
と言って私を指差しながら笑う。
「黙りなさい!」
カール「おぉコワイコワイ。」
カール「そんな睨まないで下さいよ。」
と言いカールは、大笑いする。
カール「はぁ、まぁどうでもいいんだけど、それならまぁその平民から実験するか!」
と言って溜め息を付いたカールは、私の腕を引っ張り彼女から私を引き離す。
「その子を離しなさい!」
「その子は、私が無理矢理連れ出したんだから、関係ないでしょ!」
「やるなら私にしなさい!」
そんな言葉が聞こえてくる。
(どうして?)
無言のままただただ泣いているしかなかった私は、彼女がそのまま何処かへ連れ去られているときも黙って見ているしかなかった。
こんなのが?
おかしい..........。
私の存在が、彼女を邪魔してしまった。
私の存在が、彼女の未来を潰してしまった。
ただただ無力な私が、憎い。
何もできない自分が......大っ嫌い。
今日も私は牢屋の中で彼女の悲鳴を聞いているしかない。
無力なままの私は、目を瞑り黙って聞いている事しかできない。
ドクン(心臓の音)
ジャラジャラ(鎖の音)
「ア"ァ"ア"ア"ァ"ア"ァ"。」(彼女の悲鳴)
こんなのが?
??神聖??
「ねぇ?本当にそれでいいの?」
バキ(何かが折れる音)
ポキボキ(骨が軋む音)
(これが正しい事だと言うのなら、私は間違っている事をしたい。)
誰も想像すらしていなかった。
"新たな種の誕生である。"
ガシャン!ガシャン!(揺れて物が倒れる音)
カール「なんだ!この激しい揺れは?」
カール「おい!そこの騎士、牢屋の実験体が無事か確認してこい!」
騎士「ッハ!」
ブシャァァァ(血しぶきの音)
カール「おい。」
振り返ったカールは、騎士の頭が飛んでいくのを見てぎょっとする。
(なんだこれは?)
床に転がった騎士の顔を見て、斬り飛ばしたであろう人物の方を見つめて歓喜する。
カール「ついに完成したぞ!」
カール「いいや、想像以上だ!」
カール「これが、これこそが......。」
シューン(風を切る音)
風を切る音がした瞬間、いつの間にか自身の腕が床に落ちていた。
カール「ははは、これは.....すごい。」
不敵な笑みを浮かべながら、カールは手元の実験体を投げ飛ばし、さらに奥の部屋へ行く。
「ダイジョウブ?」
優しく抱きしめたその人物に声を掛けるが何も返事が返って来ない。
「ねぇ.....お話、沢山....しよ?」
「私の事、助けて.....くれるんでしょ?」
あの温かく優しく包んでくれた彼女の体温は、冷たくなってしまっている。
彼女を抱きしめながら私は涙を流す。
「ひゅーひゅー.......。(小さな声)」
ッタッタッタッタ(走る音)
カール「ひゃっひゃっひゃ、やったぞ.....完成だ.......。これが錬金術の集大成だ。」
カール「いいや、あれはもう別物だ......どうしてあの壊れたやつが.......。」
カール「それでも私の実験は......成功したんだ。」
カール「おい!守護騎士!」
守護騎士「ッハ!」
カール「今すぐこの奥にいるやつを、捕まえてこい!」
守護騎士「それはどういう....というよりその腕は?」
カール「いいから行ってこい!いますぐに!」
カールは腕から血を流しながら守護騎士に命令する。
守護騎士「わ、分かりました。」
シュン(斬り割く音)
ガリガリ(削れる音)
部屋の奥で何かが斬り割く音が聞こえる。
守護騎士「これは、コンクリートが削られる音か?」
守護騎士「いいから構えろ!」
シュンシュン(斬り割く音)
だんだんと音が大きくなっていく、シュンという音がするたびに、何かが一瞬だけ暗闇で光って見える。
守護騎士「とまれ!」
ひた......ひた......(足音)
守護騎士「止まれと言っているのが分からないのか?」
ひた.......。
足音が止まり、目を凝らすと少女が立っていた。
守護騎士「なんだ.....あの実験体じゃないか。」
安心して近寄ろうとしたその瞬間、自身の視界が1回転する。
守護騎士「な....ん......だ?」
上手く声が出ないし、いつの間にか床に倒れている。
いや.....これは、倒れてるんじゃない?
守護騎士「な!構えろ!攻撃を防げ!」
シュンシュン(斬り割く音)
そんな仲間の声が聞こえた瞬間、ドサという何かが倒れた音と共に、視界に真っ赤なモノが映る。
そうか.......首を切られてたから、こんなに床と視界が近いのか.......。
ありえないほど長く感じる意識の中、自身がすでに死んでしまっていることを守護騎士は諭す。
(仲間は......同僚達は?)
薄れ行く意識の中、そんな事を考えていたが時すでに遅いだろう。
ひた.......ひた........。(足音)
カール「ひゃっひゃっひゃ、こんな場所にいたって意味がない。」
カール「この成果を元に、さらなる研究のために俺はまだ死ぬわけには、いかない。」
カール「実験体は勿体ないが、また準備すればいい。実験は、まだまだこれからだ。最高の"ホムンクルス"を作り上げなければ!」
カール「どけ!」
守護騎士「カール様!どちらへ?」
カール「そこで時間を稼げ!」
守護騎士「それは....どういう?」
カール「いいから扉を閉めろ!」
守護騎士「ッハ!」
ギィィィイバタン!(ドアが閉まる音)
守護騎士「カール様、閉めましたけどって.....。」
守護騎士「いない.......、何故あそこまで急いでおられるのか?」
バタン(扉を開ける音)
祈りの間へ勢いよく入って来たカールは、辺りを見回して女性神官の胸倉を掴む。
カール「おい!聖女様は?」
神官「聖女様なら巡礼中です。」
カール「ッチ、なら、あの女に伝えておけ!」
カール「俺は、ここから離れてC地点に行くと!」
神官「カール様!その腕は?」
カール「うるさい、急いでいるんだ!」
カール「絶対に伝えて置け!」
ドン(衝撃音)
ガラガラ(崩れる音)
カール「ッチ、もう来たのか!さすがは、私の実験体。」
カール「ひゃっひゃっひゃ。」
カールはそのまま祈りの間を急いで抜けて何処かへ行ってしまった。
神官「カール様、どちらへ......って行ってしまわれたわ。」
神官「それよりもこの音は何?」
ドン(衝撃音)
ひた......ひた.......。(足音)
太陽の光が彼女を照らす。
いつぶりだろうか?
長い事地下牢に閉じ込められ、奴隷のような扱われ方をしてきた。
「ひゅー.......ひゅー.......。(小声)」
「見て?空だよ?私達......出れたんだよ?」
涙を流しながら彼女に空を見せてあげる。
「ひゅー.......ひゅー.......。(か細い声)」
冷たくなっていく彼女からは、もうあの元気な声は、私を慰めてくれた声は......聞こえてこない。
か細い息だけが、彼女から聞こえてくる。
聖騎士「これは?あなたが?」
こちらを睨み敵意を向けながら剣を構えるあの忌々しい聖騎士を、一瞬で切り刻む。
神官「きゃああああああああ。(悲鳴)」
神官「化け物よ!」
私に抱かれた彼女と私自身を指差しながら、女性神官が悲鳴を上げている。
私は急いでその場を離れ、森の中へ身を隠す。
(とにかく彼女を......助けないと......まだ息があるのだから。)
だんだんとか細くなっていく彼女の息を聞きながら、空を飛んで森の中へ身を潜める。
(絶対に許さない。)
(聖騎士も、聖女も.......私が仕えていた存在も。)
Name:アイリス
種族:
職業:奴隷
Level:表示不可
Skill:表示不可
称号:平民/見習い神官/不運/実験動物/超越者/.........
Debuff;恐怖(超重症)、打撲(軽傷).......
Name:フリージア
種族:人+モンスター+森人......。(?)
職業:奴隷
Level:表示不可
Skill:表示不可
称号:元令嬢/神官/実験動物/ホムンクルス(未完成)
Debuff:打撲(重症)、骨折(重症)、永久的欠損(両腕、両足、片目、片耳)、出血(重症)、欠損部位改造(両腕、両足、片目)、改造(重症)、薬物依存(軽傷)、麻痺(重症)、火傷(軽症)、呪い(重症)、免疫低下(軽傷)..............
※欠損部位改造のため、両腕・両足・片目ともに機能しています。
Name:リック
種族:人
職業:聖騎士
Level:表示不可
Skill:表示不可
称号:表示不可
Name:カール
種族:人(?)
職業:錬金術師
Level:117(?)
Skill:表示不可
称号:表示不可
Debuff:永久的欠損(片腕)
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「誰の話か忘れている人もいらっしゃるでしょう。」
「第32話のその後のお話です。」
「あれからだいぶ月日がたっていますけどね。」
「それにしてもカールって人はとても恐ろしいですね.....。」
「本日はサクッと解説をやっていきましょう。」
「今回の題名:聖なる悟りの書と書いて聖悟の書ですが、正誤という言葉とも掛けてつけられた名前です。」
「ちなみに最後の人物紹介で、新しく書かれた二人の名前についてですが、希望を意味して名づけさせてもらいました。」
「どうにも希望とは程遠いほど、最悪な人生を歩んでいたようですけどね......。」
「これからの希望にと言う意味で付けさせて頂きました。」
「ちなみにDebuffの永久的欠損についてですが、彼らはプレイヤーではなくNPCなので、時間経過で治ったり、欠損部位が薬で簡単に治ったりすることはありません。」
「ただし、魔法や特別なアイテム等を用いれば治すことはできますけどね.....。」
「そういう意味では、永久的欠損ではない気もしますけど.....。」
「それでは本日のサクッと解説を終了します。」
「質問や解説してほしいものがある人はいつでも、どんなのでも歓迎です!」
(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))
「それでは、ばいば~い。」
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