ー 49話
聖女「はぁ、やっと決心して下さったんですね。私の勇者様。」
祈りの姿勢を取りながら天を見つめて、聖女は涙を流す。
聖女「聖騎士。」
聖騎士「ッハ!」
聖女の後ろに数十人の聖騎士が整列して並び、膝をついた状態で胸に手を当てて聖女様の命令を待つ、そして一人の聖騎士団長が聖女様の前に出て跪く。
聖女「あの方を......勇者様を、お迎えしてきて下さい。特に貴方.....次はありませんよ?」
聖女は、一人の聖騎士を指差し、命令する。
聖騎士「ッハ!心得ております。」
聖騎士は、聖女様の命令を聞き、全員が静かに立って敬礼すると数十人の部下と共に祈りの間を出ていった。
聖女「あぁ......愛しの勇者様、もうすぐ......お会いできるのですね。」
ニタァと笑顔で笑う彼女の顔は、絶世の美女でありながら、それでいてどこか不気味な顔をしている。
聖女「もう.....待ちきれません。」
座り込んだ聖女様に、二人の女性神官が心配そうにそばまで駆け寄る。
神官「.................。」
神官「せい....。」
一人の神官が聖女様を心配して声を出そうとするのを、もう一人の神官がそれを制し、静かにしていなさいとジェスチャーする。
ゆっくりと立ち上がった聖女は、二人の神官の方を振り返り、黙ったままニタァっと笑う。
その瞬間、聖女と目が合ってしまった一人の神官は、
神官「ッヒィ(小声)」
と、小さな声を上げてしまい、慌てて自身の口を押える。
神官「せ、聖女様!私たちは、お仕事がありますので、これで失礼いたします!」
一人の神官が声を張り上げて聖女様に嘆願し、お辞儀する。
聖女「そう.......。」
いつの間にか優しい笑顔に戻っていた聖女様の顔は、まるで聖母のような光を纏い見るものを魅了し、それに目が合ってしまった神官は先ほどとは違うその雰囲気に、その場で固まってしまう。
神官「行くわよ。」
慌てたもう一人の神官は、固まっているもう一人の神官の腕を強引に引っ張り、祈りの間を離れて廊下を黙って歩いていく。
神官「―。―ぇ。ねぇ....痛いわ。」
気が付くといつの間にか中庭の方まで来ていた。
神官「バカ、貴方ね......危ないところだったのよ。」
と血相を変えて責め立てる友人に、気圧されてその場に座り込む。
神官「ど.....どうしたのよ......。」
泣きそうな顔をしながらも、いつも優しいはずの友人がこんなにも怒る理由が気になって聞き返す。
神官「どうしたもこうしたもないわよ。貴方、聖女様に狙われてたのよ。」
その言葉を聞いて顔を真っ赤にした私は、
神官「それって恋愛的な.....でも私女性だし......。」
と言う馬鹿な友人に、ため息を付いて違うわよ。
と言って耳元でどういうことかを説明する。
神官「そんなわけないでしょ。だって聖女様よ?」
神官「馬鹿、声が大きいわよ。」
と言って頭を抑える。
神官「いい?よく聞きなさい。聖女様は、普段は優しいし聖母のような方だけど、決して怒らせたり、聖女様の気分を害してはいけないの。」
神官「貴方がこの話を信じようが信じまいがこの際構わないけど、これだけは、覚えておいてね?」
と真剣な顔をしながらも、どこか心配そうに周りを見渡す友人に、無言で頷きながら了承する。
神官「でも......その.....聖女様が......。(小声)」
神官「黙りなさい。何処で誰が聞いてるかなんて分からないんだから、私の友人もね.......。聖女様の御付きについてから数日で見なくなったの......。」
と俯きながら悲しそうに語る友人に、私は、
神官「分かったわ、気を付けるね。」
と言って何も聞かなかった振りをして仕事に戻った。
カンカン!(金属を叩く音)
カンカン!(金属を叩く音)
ボゥ(炎の音)
「これじゃダメだ.......こんな、こんな粗悪品じゃ。」
ガンカンカランカン(金属音)
「はぁはぁ.......。」
「3日だぞ......飲まず食わず、そして夜も寝ずに叩き続け、やっとの事で完成した剣......。こんなんじゃ....こんな出来じゃダメだ。」
ボゥ(炎の音)
「ッチ。」
汗を拭いながら、投げ捨てた剣を見つめる。視界がぼやけてふらついてしまう。
「まずは、飯食ってそんで寝るか.....風呂は、起きてからでもええだろ。」
メニューを開けてログアウトボタンに指を置くが、自分の作った剣を見て躊躇ってしまう。
(ここで諦めんのか?)
と.....
「ッチ。」
手に鎚を握った瞬間、目の前にウィンドウ画面が現れ、自身の体調を警告する。
「これがあるから、このゲームはいけすかねぇ......。」
「俺はもっと自由にやりてぇってのに.......。」
どうせ起きたってやるこた変わらない。寝て起きて飯食って風呂入ってまた寝るその繰り返しだ。そりゃぁ、細かく言えばやる事なんて無限にあるがよ.......。
人生なんてだいたい寝て喰って起きての連続だ。
「はぁ.......。」
「わぁったって。」
何度も警告し注意を促す文章に嫌気がさしてログアウトする。
[―さんがログアウトしました。]
「ふわぁあ......ゲームするのに意識は寝てんだからよぉ....これも実質寝てんのとかわんねぇだろうがよ。」
と、自分でも訳の分かんねぇ切れ方をするが、どうせこの家に誰もいねぇんだから関係ない。
「ッチ。飯あったか?」
冷蔵庫を開けてぎょっとする。
つ~んと鼻を刺激する匂い。
「全部.....腐ってんじゃねぇか。」
(そういや、2週間前に近くのスーパーで買いだめしておいたのにそっからずっと、ゲームして起きて飯を頼んで配達サービスに持って来させての生活してたせいで冷蔵庫の中の事完全に忘れてたわ。)
「はぁ....これどうすんじゃわれぇ.......。」
冷蔵庫の中にぎゅうぎゅうに押し込められた解凍済みの肉パックに、千切り野菜パック.....それに匂いのきつい牛乳に、ソーセージとハム.....。
「お、これまだ喰えんな。」
手に取ったソーセージとハムの日付を見て、まだ喰えることを確認する。
「まぁ賞味期限2日過ぎてんけどいけるやろ。」
※賞味期限の過ぎた食べ物はなるべく食べないようにしましょう。
「お、このハムは賞味期限すぎてねぇな。」
「んじゃぁまぁこれ丸かじりすっか.....。」
「ソーセージって生で......さすがに焼くか.....ハムはええだろ。」
と言ってハムを齧りながらコンロの火でそのままソーセージに箸を突き刺して炙る。
パチパチ(いい音)
「うへぇ、3日ぶりのメシじゃぁ。」
「酒あったか?」
冷蔵庫を再度開けて奥の方にある缶ビールを取り出す。
「うっしゃぁ。晩酌じゃぁ。ってそういや朝か.....。」
「まぁええじゃろ。」
(どうせこの後、寝て起きれば次の日になってんだしなぁ。)
「ぷはぁ......最高じゃぁ。」
パチパチ(いい音)
焼きあがったソーセージに齧り付く。
「うめぇなぁソーセージ.....。」
パリ、パリ。(いい音)
「こりゃぁ腐ってるだなんて思えねぇなぁ。」
「最高の味じゃぁ。」
ひとしきり喰い終わって、そのままベッドの上に寝転がる。
「くせぇ.......。」
「風呂......。」
「ぐがぁぁぁあ。」
と言う感じでそのまま寝てしまったのだった。
聖騎士団長「勇者様は見つかったか?」
聖騎士「いえ.......まだです。」
聖騎士団長「都市を.......世界を.....ひっくり返してでも探し出せ!」
聖騎士「ッハ!」
聖騎士「ッチ.......。」
(あんのクソ生意気なやつが勇者だと......次あったらただじゃおかねぇ.....。)
拳を強く握りしめ、目が血走っている一人の聖騎士は、舌打ちをしながらも聖女様の命令を守るために勇者を探すのだった。
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「今日のサクッと解説はお休みです。」
「質問や解説してほしいものがある人はいつでも、どんなのでも歓迎です!」
(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))
「ばいば~い。」
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