ー 38話
「あぁ.....羨ましい........。」
「な、なんなんですか?」
ニタァと不気味な笑顔を見せながら、女性プレイヤーに詰め寄り、手で顔に触れてこようとする。
「や、辞めてください、訴えますよ?」
少し怯えながらも、強気な姿勢を取り相手を威嚇すると、
「ごめんなさい、でもでもでも、羨ましいんです。」
その気味の悪い女性は、触れようとしていた手を引っ込めて半歩後ろに下がり、不気味な笑顔で私の顔を覗いて伺う。
「な、何が羨ましいって言うんですか?」
再度強気な姿勢で、その女性に質問すると、不気味な笑顔が薄れて少し悲しそうな顔になり俯いてしまう。
「あ....えっと......な、何が羨ましいの?」
少し可哀そうに感じ、今度は優しく質問する。
俯いたままの女性は、何かぼそぼそと喋っていて、何を言っているのかが分からない、少し耳を澄まして聞いてみると、
「羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい....................。」
とずっと呟いていた。あまりのその不気味さと恐ろしさに、私は後ろに後ずさりし、この路地に入ってきたことを少し後悔した。
「も、もう行くわね?じゃ、じゃぁね?」
と言って、もうこんな路地裏の探検なんて二度としないと心に誓い、振り返って逃げようとすると、
ガシっと腕を掴まれてしまう。
「どうして逃げるんですか?」
「は、離して!」
あまりの出来事に驚いて振りほどこうとするけど、相手の方が筋力値が上で振りほどけない。
「だ、誰か!助けて!誰か!」
大きな声で叫んでも、人通りの少ない場所なので誰も来てくれない。
「離してよ!ねぇってば!離して!」
「ど.....どうして逃げるんですか?」
振り返って見て見ると、不気味な女性は私の腕を力強く握っていて、表情は俯いていて読み取れないが、怒っているのが分かる。
「ど、どうしてって、あんたが怖いのよ!だから離してよ!」
そう言うと、女性の力がだんだんと強くなり腕に痛みを感じだす。
「痛い、痛いから離して!ねぇ、痛いってば!聞いてるの!」
思いっきり振りほどこうと腕を振り回すが離れない、もう1個の手で女性の手を振りほどこうと試行錯誤するが離れない。
「痛い、辞めて!本当に痛いって!」
何度も何度も叫んで訴えるが、その女性に聞こえていないのか反応がない。
ベキ.....(何かの音)
「痛い!痛い.....ねぇ!辞めて!本当にもう無理なの!」
あまりの怖さに腰が抜けて力も入らなくなってしまい座り込む。
「何が目的なのよ!なんでもあげるからぁ!もう!やめて!」
振りほどこうとしていた腕の力を抜くと、腕の感覚が抜けていく。
涙で視界が悪く手で涙を拭うと、掴まれていた腕は、いつの間にか離されており、女性は、私の目の前に座りじっと見ていた。
「ねぇ......。」
「ひゃ、ひゃい。」
やっと喋った事に少し安堵するが、先ほどまでの恐怖が抜けきれず、肩はガタガタと震えている。
「なんでもくれるの?」
そう言うと、女性はニタァと不気味な笑顔に戻り私の顔を覗いて伺う。
「な、なんでもあげるから!アイテムでもお金でも!だからもう許して......。」
そう言って涙を拭い後ずさりすると、女性は私の方に近寄ってきてから、
「これがいいの。」
と言って私を指差し、くれるよね?と聞いてくる。
「な、何をよ?このアクセサリー?」
首にかけていたアクセサリーを外してその女性に投げつけるも、それじゃないと首を横に振る女性は、私の方をじっと見つめ、
「貴方の✕✕✕を頂戴?」
と言って手を伸ばしてくる。
驚いて目を瞑ってじっとしていると、いつの間にか目の前にいたあの不気味な女性が消えていた。
「な....なんだったの?」
「ゲームの演出?」
辺りを見回してあの女性がいないのを確認してから、急いで路地裏を抜けてプレイヤーが多くいる大通りにたどり着く。
「大丈夫ですか?」
後ろから急に声を掛けられた事と、先ほどの光景が重なってびくっとして振り返ると、さっきの人とは違うプレイヤーが心配そうに私の方を見ていた。
「う.....うぅ。」
私は、安心からその場で座り込んで泣いてしまい。周りのプレイヤーも私を心配そうに見つめ、背中をさすったり声を掛けたりしてくれる。
落ち着いた私は、その心配してくれた女性プレイヤーとフレンドになり、どうして泣いていたのかの経緯を話し、それから仲良くなることが出来た。
酷い目にあったけど、結果的に新しい友達も出来たし、良かったのかもしれないと私は、あの恐ろしかった出来事を振り返りながらそう思うようにしている。
ただ一つだけ気がかりなのは、私はあの日から、何をやっても"楽しい"と心の底から思うことが出来なくなってしまったという事だ。
「アハハ、アハ、アハハ。」
「楽しそうだな!」
そう言い女性に聞いてくるのは、女性の胸に抱かれている奇妙なぬいぐるみだ。
「うん、"楽しい。羨ましい。"」
くるくると回りながらその人形の手を持って振り回し、薄暗い路地を点々と歩いている。
「そりゃぁ、良かったぜ。」
その可愛いぬいぐるみからは、似つかわしくない野太い声が聞こえてくる。
「次は、どうするんだ?」
「"楽しい。"、"羨ましい。"だから、次は、愛を探すの。」
ニタァとした不気味な笑顔を見せる女性は、持っている人形の顔を自分の顔に近づけて、愛だよ?愛!と言い、鼻歌を歌いながら薄暗い路地を進んで行く。
「アイか?」
「そう、次は愛。"羨ましい"、"妬ましい。"」
「アッハッハ、愛か!愛!それは、いいな!俺も欲しい!」
「だよね?だよね!羨ましいよね?羨ましい。妬ましい。」
「だからだからだからだからだからだからだからだから。」
「落ち着けって相棒。」
「そうだよね?そうだね?ごめんね?ごめんなさい。」
深く深呼吸して座り込んだ女性は、持っている人形をじっと見つめる。
「おいおい、そんなに俺に見惚れんなって?これがアイってやつか?」
「そうなの?そうかな?そうなのかもね?でもね?そうだね?違うのかも?」
立ち上がった女性は、ぬいぐるみを抱えたまま、さらに暗い路地の方へ消えてしまった。
休日の昼間、ゲームにログインしたユーマは、昨日一緒にクエストを受けた人達がログインするのを待っていた。
ダリル「お、ユーマ!もう来たのか?」
ユーマ「はい、お待たせしちゃ悪いと思ったので少しだけ早く来させてもらいました。」
ダリル「おいおい、少しって約束の時間までまだ後30分もあるぜ?一応俺達も早めにログインして雑談して待ってるか?ってさっきまで通話で話してたとこだったけどよ。」
と言って、ちょっと気まずい感じになるが、他の人達が来たことで空気が和む。
ブラン「あら、もう来てたのね。今日もよろしくね。」
ユーマ「はい、こちらこそ。」
クロウ「こんちわ、ってあれ?もうユーマも来てたのか。」
ユーマ「はい、クロウさん、こんにちわ。」
ダリル「敬語は、辞めやめ。気楽に行こうぜ!」
ってな感じで、アークさんが来るまで雑談をしたり、この世界の売店で買ったという変なお菓子を食べたりして時間を潰していた。
途中からNPCのローウェルさんがもう出発した方がいいのか?という確認のためにやって来たが、まだ人数が揃っていないのですみませんと言う風に謝り、アークさんが来るのを待つ。
ダリル「少し遅くないか?」
ブラン「そうね.......。」
クロウ「確かに、約束の時間20分ほど過ぎてますしね......。」
ユーマ「これって先に進んだりすると、同じクエストの仲間のスポーン位置ってどうなるんですかね?」
ダリル「あー、俺たちが今乗ってる荷馬車の中だな。」
ブラン「先に始めましょっか?」
クロウ「う~ん、まぁそうするか。」
ユーマ「何か問題とかあるんですか?」
ダリル「いや、まぁ難易度的なもので言えば何の問題はない。」
ダリル「これは、気持ちの問題なんだがな.....。」
と言って説明をしてくれる。
どうやら、まれにこういう護衛系のクエストでは、仲間が途中でログアウトし、クエスト終了後にログインするという事があるらしい。これを行う理由としては、クエストに参加しない事で安全に街への移動が無料ででき、クエストがもしクリアしていれば、貢献度は少ないため報酬は減るがある程度のお金やアイテムを手に入れる事ができるらしい。ただし失敗した場合は、報酬は貰えずにスポーン位置がクエスト失敗場所になり、全滅の場合は、死亡扱いになるため。デメリットもあるわけだが、護衛系のクエスト、特に商人系のクエストには、必ずと言っていいほど強力なNPCが付いて周るそのため、全滅は視野にいれなくていいのだ。それにクエスト失敗の場合は、失敗位置からのスタートってだけで死亡扱いにならないため。クエストクリア時間までログアウトしていれば安全に街へ移動できるという寸法だ。
ユーマ「なんですかそれ.....。せこいですね。」
ダリル「だろ?ただまぁ滅多にいないんだがな。」
ユーマ「なんでですか?」
ブラン「えっとね。そういうことをするプレイヤーって嫌われちゃうのよ......。」
ユーマ「それって何か問題があるんですか?」
クロウ「こういう系のクエストが受けれなくなる。」
ユーマ「そっか!」
ダリル「気づいたか?そういう事だ。そういうせこい事するやつと組みたい奴なんていない。」
ダリル「もちろんやむを得ない事情だったりで来れなかった場合もあるだろうが、そういう場合は、一言メールで謝罪すればいいだけの話だ。」
ダリル「それが無いってことは、つまりそういう事だ。」
ユーマ「残念ですね......。せっかく仲良くなれたと思ったんですけど。」
クロウ「気にしない事だな。一定数そういうやつはいる。」
ブラン「分からないでもないんだけどね?」
ブラン「でも、良い気はしないでしょ?」
ユーマ「そうですね.....。ただ俺、あんまり強くないんですけど、それでも大丈夫ですか?」
ダリル「アッハッハ、気にするな。昨日も言ったが、俺たちはこういう系のクエストを沢山こなしてきたベテランだ。」
ダリル「それに、ゲームが下手だろうがなんだろうが、何も言わずにうまい汁だけ吸おうとする誰かさんよりよっぽどマシだ。」
クロウ「そうだぞユーマ、気にするな。ユーマがこのチームでレベルが一番低いってのは、昨日の自己紹介で知ってる。自分の出来る事だけをしてくれればいい。無理そうだったら俺らがアシストする。」
ブラン「そうよ。それに誰もあなたの事、足手まといなんて思ってないんだからね。」
ブラン「それじゃぁ、行きましょう?」
ダリル「そうだな。行くか!」
ユーマ「ありがとうございます。頑張ります。」
ダリル「おう、期待してるぞ!」
NPC「準備は、よろしいかな?」
NPC「では、出発!」
PlayerName:ユーマ
種族:人
職業:剣士
Level:19
Skill:Healing/王国騎士流体術(初級)/Meditation(瞑想)/Slash(斬撃)/High Slash(高斬撃)/Double Slash(二連斬)/Magic Control(魔力操作)(初級)/Boost Slash (斬撃上昇)/Hideing (身を潜める)/Search(索敵)/Magic Regulation(魔力調整)
称号:プレイヤー/竜の心呪/妖精の歓迎
PlayerName:ダリル
種族:竜人
職業:剣士
Level:28
Skill:不明
称号:不明
PlayerName:ブラン
種族:森人
職業:弓士
Level:32
Skill:不明
称号:不明
PlayerName:クロウ
種族:獣人
職業:格闘家
Level:31
Skill:不明
称号:不明
PlayerName:アーク(不在)
種族:竜人
職業:鈍器使い
Level:27
Skill:不明
称号:不明
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「ユーマさん良かったですね。頑張って皆でクエストをクリアしましょう!」
「それにしても複数人の参加型クエストにこんな落とし穴があったなんて......。」
「アークさんずるいですね。ただ、アークさん最初に出会った時も、俺は俺の身の安全が最優先なんだって言ってましたし、どうしても生き残りたい理由があるのかもしれませんね。」
「え?今回の新しい人物について何か言及はないのかですか?」
「そうですねぇ。この人も関係がありますよ。ってもう察していた方もいたり?いなかったり?」
「それにしても、なんだか怖い方ばかりですね......。」
「しばらくはこんな感じで、サクッと解説をお休みします。」
「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」
「いつでも、どんなのでも歓迎です!」
(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))
「ばいば~い。」
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