ー 29話
バタン(本が落ちた音)
どうして誰も疑問に思わないのだろう?
聞いたことのない名前の、以前から有名でもなかった会社から生まれたゲーム、書架に飾るという名前で作られ販売されたゲームは、今や子供から大人まで誰もが知っている有名なゲームになっている。
そんなゲームの技術に誰も疑問を抱かず遊び、疑問を抱いたとしても、その技術をしっかり調べもしない。そもそもその技術を知るすべが無いようなのだが.....。それなのに不安や疑心を抱かずに皆がそのゲームに夢中になっている。とある心理学者が、この前ニュースでVRについて批判していた.....。しかしの批判は、VRを批判するモノであり、書架に飾るを批判するモノではなかった。
そんな会社が出した初めの作品の話を以前に話したことがあっただろう。しかしその作品を調べても何の情報も得られなかったという。販売も中止され、ゲームの内容もどんな技術を使っていたのかも明かされることなく消えた最初の作品。
その作品を購入した人は、少なからずいるはずなのに、世の中に何の情報も出ていないというのは、
???「"おかしな話だ......。"」
怪物「本当にそう思っているの?」
今から"数年前"にそのゲームが発売された。予告も無く発売されたそのゲームは、数百人に購入されて、その後突如販売を中止した。怪しく思い返品する者も数人いたが、きちんとお金が返金され、何がしたいのか分からないと話題に上がったが、その話題も一瞬にして、別の話題に流され皆がその話を忘れてしまった。
購入してゲームをプレイした人達は、どうなったのだろうか?
[今からその人達の物語を書いてあげよう。]
[皆から"忘れられた者"達の物語を。]
[どうして、私が知っているのかって?]
[それは、.......。]
カタ(ペンが落ちる音)
「もぉちょっと、散らかし過ぎ!」
「あぁ.....すまないね。今は、これを書いてて忙しいんだ。」
本を指差しながら、頭を下げる。
「またぁ?」
「あぁ、やはり記録に残しておきたくてね。」
「もぉ、記録に残すだとかそういうのは、どうでもいいんだけど、散らかすのはやめてよね!」
「あぁ.....。すまない......。」
「いっつもそればっかりなんだから!」
怒って出て行った××は、ゴミ袋を持って戻ってくる。
「もぉ、いっつもこうなんだから.....。(小声)」
小言を言いながらも、毎回部屋のゴミを拾ってくれる。
「.................。」
「すまないね......。」
「もぉ、次はもっと綺麗にしておいてよね!」
「あと、食事はしっかりとること!」
「それと.....。」
「はぁ、もぉ.......。たまには、日光浴びなさいよ!」
怒って出て行った××が綺麗にしてくれたおかげで、部屋はすっかり綺麗になったのだが、閉まっているカーテンのせいで部屋の中は薄暗くじめじめしている気がする。
「また、怒らせてしまったよ.....。」
カタ(ペンを拾う音)
「そうだった.....。これを書かなければならないんだったね.....。」
[それは、私達がその"当時者"だからだ。]
あれは、"何十年も前"の出来事だったかな.....。久しぶりに仕事で長期の休みが取れたから、帰宅している途中にゲームを売っている中古屋に寄ったんだ。そこで新作なのにすぐに売却されてしまったゲームを見つけてしまってね.....。今の私の状況とどこか重なってしまったからか可哀そうに感じてしまった私は、ハードと一緒に試しに購入してみたんだよ。
家に帰ってPCにハードを繋げてゲームを起動すると、それはもう驚いたよ。
なんせ、キャラクターを自分の手足で自由に動かすことができ、景色がリアルのそれとなんら変わらないほど綺麗だったからね。
あの時ばかりは、今の時代に生まれた事に感謝したよ......。
私は、溜まっていた会社のストレスをこのゲームでぶつけるように、いろいろ身体を動かして遊んだよ。
それはそれは、楽しかった。まるで子供の頃に戻ったかのように自由に身体を動かせる喜びと、ワクワク感が、私を埋め尽くしたのさ。
暫くして、お腹の空いた私は、ゲームをログアウトしようとしたのだがね......。
なかったのだよ。あるはずのそれが......。
いろいろ試してみたさ。ログアウトと叫んでみたり、メニューと言ってみたり、指を動かしてみたり、終了と言ってみたり、頭に被っているはずの機械を取る仕草をしてみたりもしたもんだよ。
何を試してみても、このゲームの終わり方が分からなくてね。
疲れて座り込んだ私の目の前にUIと言うのかな?ウィンドーだったかな?ウィンドウ....だったか?が出て来て、準備はよろしいですか?と言うメッセージが届いたのだよ。
あぁ、なんだ。これで終われるのか。と安堵して"はい"を押したところ、見たことのない部屋に急に連れて来られてね。
それはそれは、驚いたさ。
私以外にも何十人か人がいてね。
「ここは、何処だ?」「ログアウトさせろ!」
だのなんだの言うてるのさ。
私は、皆も私の状況と同じなのかと理解したその時、部屋の中に兵士らしき人とお偉いさんが入って来てね。
「おぉ、主が我らのために応えて下さった。」
だのなんだの言うのさ。
状況の理解できない人達は、反抗しようとするのだが、周りの兵士が槍を突き出してきてね。怖かった私達は、じっと話を聞いて待つしかなかったんだよ。
その後、広い場所に案内されたんだが、それはそれは居心地が最悪だったのを覚えている。
広い場所を囲んで2階の席で座って見物する派手な見た目の男性や女性が私達を物色するようにじろじろと見つめ、1階では、槍を持った兵士と剣を持った騎士がそれぞれ交互に並び私達をにらみつけているのだから......。
暫くした後、座席に座っていたやつらが一斉に立ち上がって一礼をしたと思ったら、トランペットの音と共に中央の席.....王座(?)の方から、王冠を被った偉そうなやつが出て来たもんだから、腹が立ったさ。
まるで会社の上司.....いや、なんでもない。
まぁそいつが言うには、主とかいうお偉いやつが、俺たちを召喚して、救済をしてくださった?らしいんで、俺たちはその主の命令に従い、怪物を
まったく....ふざけた話だよ。ハードワーク続きで悪い夢でも見てるんだと思ったよ。
だから反抗して、馬鹿なこと言ってないで、家に帰せと言うたら、無礼者だとかなんとか言われて、腕を槍で思いっきり刺されてね.....。
血が出た時に気づいたんだよ。
[あぁ....これは"現実"なのだと。]
カタ(ペンが落ちる音)
「クソ.....。腕が震えて仕方がない。」
「これじゃぁろくに字も書けやしないじゃないか!」
ダン!(机を殴る音)
ガタン(机が壊れる音)
「はぁ....。この机も変え時か。」
「外に出るのは、嫌なんだが......。」
(私より年下のあの子に心配ばかり掛けるものじゃないな。)
「よっこらしょっと.....。」
壁に掛けてあったロングコートを着て、杖を持って家の外に出る。
「もうこんな季節になったのか.....。」
雪の積もった地面を見てから空を見上げる。
「はぁ....化け物....か....。」
口から出る白い息を見て、今が冬だという事を実感する。
それと同時に、様々な耐性や
「机と....インク....それから羽ペンか.....」
「それと.....飯.....」
あの子の言葉を思い出して、久しぶりに食事をしないといけない事を思い出す。
「飯なんていつぶりだっけか.......。」
この世界でご飯を食べられない事なんてしょっちゅうある。ダンジョンの中では、長期にわたって食べられないだけでなく、トラップのせいで帰れないことだってある。干ばつが起きればひとたび食糧難に陥るし、病気が蔓延すれば水は飲めるものではなくなるし、食事も出来たもんじゃない。
(まぁ....俺の場合は、牢獄に入れられた期間が長かった事もあり、このように空腹に対する耐性が人一番高かったりするわけなのだが.....。)
「はぁ.....。」
白い息を見ながら、現実世界.....いや、今も"現実"なのだから、"元の世界"を思い出す。
"あの子も本当は、家に帰りたいだろう。"
あれから、多くの者が元の世界に帰るために怪物を倒すために挑んだ。しかし怪物に挑んだ者は全員散って帰らぬ人となった。私達は、"諦めた側の人間だ。"
本当は家族に会いたいし、元の世界に帰りたい。
だが、それを言葉にする人は次第に消えていった。
何度目かの召喚が終わった時、私達と同じ境遇の者は、とうとう現れなくなった。
"主"だとかいうやつが諦めたのだろうか?
それとも.....今もまた別の何処かで私達と同じ境遇の者がいるのだろうか?
真実は分からないが、もう二度と私達と同じ思いをする人が来てほしくはない。
(どうか...どうか...........。)
いつの間にか降り出した雪の中で、杖を突きながら一歩一歩、歩き出す。
Name:表示不可
種族:表示不可
職業:表示不可
Level:表示不可
Skill:表示不可
称号:召喚者
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「今日は、ユーマさんが勉強を頑張っていましたね。」
「え?ユーマさんの話なんて1回も出ていない?」
「そんなはずは、ありませんよ?」
「あれ?おかしいですね.......もしかして、あなたの読んでいる"本"と私の読んでいる"本"で内容が違うのでしょうか?」
「おかしいですね.....。」
「ちょっと、このことについては次回確認するとしまして、本日もサクッと解説をしていきましょうか!」
「え?最後のステータス表示がおかしい?」
「それについて聞きたい?」
「えーっと......そちらでは、どうなってるのでしょうか?」
「表示不可?召喚者......。」
「アハハ、何の話をしてるのやらわかりませんね。」
「えーっと、気にしなくても大丈夫ですよ。どうやら別の物語の一部が間違って書架に飾るの本の中に迷い込んでしまったようですね。こちらで確認できたようなので、私が責任をもって処分しておきます。」
「フフフ、なので今回の話の内容は、忘れてください。」
「さーさー、これで本日のお話は、以上とさせていただきますよ!」
「え?何の解説もないって?」
「フフフ、忘れましょう。今日は、何も読んでいなかったのです。」
「それでは、さようなら。」
「良い夢を!」
ブチッ
※回線が切断されました。
System:質問がございましたら、コメント欄でお待ちしております。
System:ただし、ネタバレを含む解説や、今回のような不具合についての解説は、出来ませんので悪しからず。
System:それでは、これからも"書架に飾る"をよろしくお願いいたします。
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