大祭の書

大祭の書

 このゲームには、たまにプレイヤーやNPCを巻き込む特大イベントが開催される。そのイベントは、3種類存在すると言われており、1つ目は、NPCが主催するお祭りごと、2つ目は、プレイヤーが主催するお祭りごと、そして3つ目は、自然発生するお祭りごとの3種類だ。

 そんなゲームの掲示板で数日前から、変な投稿が為される。全員がそれを否定し、馬鹿にし、あり得ないと嘲笑った。なぜなら、その投稿内容は、

<近々ヴィギルアの街で、自然発生の大災たいさいが訪れる>

という投稿だった。

なぜその投稿を全員が馬鹿にし、否定し、嘲笑ったのかって?

 ヴィルギアは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーがスポーンする街であり、初心者が多く集う場所である。そのため、そんな場所が壊滅状態になる。それこそ、モンスターが攻めてくるような事があってしまえば、ほとんどのプレイヤーは対応する間も無く死に、ゲームを維持できなくなってしまう。

 一度このゲームの事を思い出してほしい、このゲームには、そうなってしまっては致命的な欠点がある事を......。

 思い出してほしい、NPCである彼らは、一度死んでしまえば"基本的"には、二度と蘇る事が無いという事実を......。

 今まで、ゲームをやって来て、何度かイベント事はあったが、ヴィルギアだけは、1度もNPCが危険に会うようなイベント事は、起こっていない。そのため、多くのプレイヤーがその投稿を否定し、その投稿をした人に証拠を求めたり、馬鹿にしたりした。


ほんの数日前までは.......。


「おいおいおい、嘘だろ?」

「あの投稿マジだったのか?」

「いやいやいや、こんなんどうやって勝てばいいんだよ。」

「高レベルのプレイヤーって今、新大陸追加のせいで全員出払ってるんだよな?」

「急いで助けを呼んだって、間に合わなくないか?」

「おいおい、運営さんよ。こんなのあんまりだぞ?」

「とち狂ったのか?」

「一体何匹いるのよ。」

「ここにいるやつで、レベル高いやつってレベル20が限界ってところだろ?」

ザワザワ、ザワザワ。

「でもさ?街の周りにある壁のおかげで、こっちまではさすがに入れないんじゃ?」

「馬鹿言え、こういう侵略型のお祭りごとで、そんなことなかったことなんてないだろ?」

「すぐに壊されて、蹂躙されておしまいだ。」

「俺らだけで勝てっこない。」


???「ッチ、遅かったか。」


「おい、あいつ何してるんだ?」

山岳地帯からぞろぞろとやってくる緑色の肌をした人型のモンスター、通称ゴブリンと呼ばれるやつの目の前に1人のプレイヤーが立ちはだかる。

「おい、馬鹿、辞めろって。」

「やばいぞ、あいつ戦う気だ。俺は、戦いたくない。死んでペナルティなんて食らいたくない。」

「ちょ、あのフードを被ってるやつ馬鹿だろ。」

壁の上に登って、警備兵であるNPCと多くのプレイヤーがその1人のプレイヤーに注目する。

???「[@:].[/\:[」

何か短く唱えた後に、銀色のエフェクトをまとったそのプレイヤーが、何千、何万とやってくるゴブリンに突っ込み見えなくなる。それと同時にゴブリンの首が宙を舞い、山岳地帯一帯は、モンスターが死んだエフェクトで宙を覆いつくす。

NPC「英勇だ.....。」

「え...い...ゆ.....う?」

「えいゆうって"英雄"か?」

ザワザワ。

圧倒的な数の暴力を目の前に、その理不尽を捻じ曲げ、突き進んでいく一人のプレイヤー、味方であるはずなのに、同じプレイヤーであるはずなのに、恐怖すら覚える戦闘センス、人間とは思えない動きを平然とやり遂げ、赤いエフェクトと、白いエフェクト、そして銀と金のエフェクトが宙を舞う。

「俺たちは、何を見てるんだ?」

NPC「"英雄"のご帰還だ。」

「英雄.....。」

NPC「うっう.....ぅ。」

涙を流しながら跪く警備兵達、

NPC「俺たちは、助かったんだ.....。」

消え入りそうな声で、何度も何度も感謝し、涙を流すNPC。

「................。」

見ていたプレイヤー達が、ふと我に返る。

(俺たちは、ただ見てるだけか?)

「皆、行くぞ!!!」

「お~。」

数人のプレイヤーが掛け声と共に街の外へ飛び出した。

「え....あ!お~!!!」

それに続くように、多くのプレイヤーが武器を構え飛び出す。

1匹1匹は、確かに弱い。それこそ油断しなければ、ゲームに慣れてないレベル1のプレイヤーでも簡単に倒せるような弱さだ。ただ、複数に囲まれれば、その強さは測り知れない。

「行くぞ!」

NPC「この街を守るぞ!」

後ろでは、NPC達の声が聞こえて来て、モンスターに矢の雨が降り注ぐ。


その頃のユーマとは言うと、

シュイン

ユーマ「?」

締め切られた窓と扉、人っ子一人いない閑散とした街を宿屋の窓から見ながら、宿屋の店主に話を聞く。

NPC「あんた無事だったのかい?返事しても無反応だから心配したんだよ!」

(そりゃ、今しがたログインしたので.....。)

なんて事を言うのは、後回しにして状況を確認するために質問する。

ユーマ「な、何かあったんですか?」

NPC「鐘の音が聞こえなかったのかい?」

ユーマ「えっと、さ、最近この街に来たばかりで、そ、そのよく知らなくって....。」

(今来たんだから、聞こえてないって.....。)

何て言うとややこしくなるので、変な言い訳をする。

NPC「モンスターが攻めてきたんだよ。モンスターが!」

いつも穏やかな顔のおばさんは、険しい顔でそう言う。

ユーマ「え?大丈夫なんですか?」

NPC「あたしゃ、詳しいことは分かんないけど、きっと街の警備兵の人たちが助けて下さるって信じてるよ。だからあんたもしっかり窓しめて外には出ないようにするんだよ!」

(いや、そういうわけには......。)

とは、言える雰囲気ではないので、はい。とだけ言って部屋に戻る。

(俺たちプレイヤーは、スポーン出来るけど、NPCって確か死んだら二度と復活しないんだよな.....。)

ユーマ「よし!」

パンと顔を叩いて気合を入れなおした俺は、こっそり宿屋を抜け出す。

(え~っと、どっち行きゃいいんだ?)

モンスターが攻めて来た場所が分からない俺は、まずはいつもレベル上げをしている草原の方へ走って行く。

NPC「お~い!」

走っている途中で、後ろから声が聞こえて呼び止められる。

NPC「お前、今どういう状況か分かってるのか?危ないだろ!早く避難しろ!」

呼び止めたのは、あの警備兵のおじさんだ。

ユーマ「いや、俺も微力ながら力になろうと思って。」

NPC「子供が何言ってんだ!早く安全な場所に避難しろ!」

ユーマ「いや、でも俺それなりに強いんですよ。」

NPC「つべこべ言ってねぇで、避難しとけ!お前さんにはまだ未来がある。」

あまりの気迫と、優しかったおじさんの怒声にびっくりするが、俺も負けじと言う。

ユーマ「お、おじさんは、どうするんですか?」

NPC「そりゃ、おじさんは、これが仕事だかんな。」

空を見上げながら、槍をトンと前に突き出してから、

NPC「心配すんな。お前さんは、安全な場所にいろ。」

と言って、山岳地帯の方へ走って行った。

普段なら、それこそもし現実でこんな事が起きてたら、俺もおとなしく避難していただろう。ただ、これはゲームであり、死んでも蘇る。もちろんペナルティを食らうのはしんどいし、嫌な気はするが、NPCが死んで二度と会えなくなる方が、嫌な気がする。

俺は、おじさんの注意を無視してバレないように街の路地に入って、山岳地帯の方へ向かう。


ユーマ「スラッシュ!」

「ギャギャギャギャ!」

Monster:GreenGoblin (グリーンゴブリン)

ユーマ「.....多過ぎだろ。」

何時まで経っても終わらない戦闘に、精神的に疲れを感じてくる。

しかも、たまにそこそこ強いゴブリンが弱いゴブリンと混じって登場してくるのがやっかいだ。見た目に違いがそんなにないゴブリン達、弱いゴブリンだと思い気を抜いて戦えば、致命傷いを負かねないため、常に気を張っておかなければならない.....。

「おいおい、ヤバいやつが来たぞ!」

声のした方を見て見ると、プレイヤーより二回りくらい大きいゴブリンがやって来る。

Monster:GoblinGeneral (ゴブリン将官)

「グギャッギャギャ!」

「ファイヤーアロー!」

「ウォーターアロー!」

「ハイスラッシュ!」

多くのプレイヤーのスキルの掛け声と共に、そのゴブリンにド派手なエフェクトが当たっている。

「グギャ!ギャッギャ!」

ドスンと言う音が聞こえて、辺り一帯がスタン状態になる。

「ス、スタンだ!」

「に、にげろ!」

動けないでいるプレイヤーの後ろから猛ダッシュで駆け寄る複数のプレイヤー、

「任せろ!」

と言う掛け声と共に、ゴブリンが横なぎに払った棍棒を複数のプレイヤーが同時に受け止める。

「カ、カウンター入った!!!」

※カウンター:反撃の事。

「グギャ!」

ゴブリンは、腕を後ろに飛ばされて後ずさりし、尻もちを付く。

「今だ!やれ!」

「ブーストアックス!」

「スラッシュ!」

「幸運の一撃!」

「バトルブースト!」

「二連斬!」

次々と聞こえてくるスキルの掛け声と共に、ゴブリンに再度ド派手なエフェクトがまき散らされる。

「グギャーーーー!!!」

立ち上がったゴブリンは、雄叫びを上げ周囲一帯にデバフを与える。

「な!なんだこれ!」

「きょ...う....ふ?」

「それから、聴覚麻痺!」

「連携が取れねぇ!」

「しかも、若干ビリっと全身が痺れる感覚があって、上手く動けない!」

「グギャ!」

ドン!と言う鈍い音と共に一人のプレイヤーが後方に吹き飛ばされ、赤いエフェクトをまき散らして消えて行く。

「おいおい!一撃かよ!」

「皆!食らうなよ!」

「なんだって?聞こえねぇって!」

「ファイヤーアロー!ってMP尽きた!?」

「ブーストスラッシュ!」

連携の取れないプレイヤー達は、先ほどよりもゴブリンに苦戦する。なんとか空気を読みながら戦おうとするも、魔法を使うプレイヤーやバフを送りたいプレイヤーは、近距離で戦うプレイヤーに指示を送る事ができなくなってしまい、特に魔法攻撃を行いたいプレイヤーの攻撃の射線に入る近距離戦闘を行うプレイヤー達のせいで攻撃ができないでいる。

「グギャギャ!」

「次来るぞ!」

横なぎの攻撃が来るが、何人かは対応できずに被弾する。

「ッグ、まだデバフ解除されないの?」

「ポーション効き目無し!?」

「どうすれば解除されるんだ?」

「クッソ、こいつ硬すぎだろ!」

苛立ちを感じ始めたプレイヤーは、だんだんと連携を辞めて自分勝手に攻撃を始めるが、プレイヤー同士がぶつかるアクシデントも発生する。

「おま!ぶつかるな!」

「足踏んでる!」

「ちょ、攻撃来たって。」

「やめ。」

ドン!フェイントで横なぎをキャンセルし、思いっきり逆の手で拳を握りプレイヤーを殴ったゴブリンは、赤いエフェクトを巻き散らしながら倒れるプレイヤーを見てニヤッと不敵な笑みを浮かべる。

「グギャッギャグギャッギャ!」

「解除されたぞ!」

「一旦近距離で戦ってたやつは、全員離れて回復しろ!」

「遠距離隊は、ゴブリンの注意を引け!」

「魔法隊は、MPの確認しつつ、ポーションで回復して援護しろ!」

ドン、ドドン!という音と共にゴブリンが攻撃される。

「グギャ!?」

デバフが解除され、連携が出来るようになったプレイヤー達の猛攻撃が続き、やっとの事でゴブリンが倒れる。

「終わったか?」

「それ死亡フラグだって.....。」

「ッフ....」

「アハハハハ。」

先ほどまでの険悪な雰囲気とは異なり、協力して一種の強敵を倒したことで仲間との絆が出来る。

「おい、次が来たぞ!」

まだまだ終わらない。ゴブリンの侵攻、まさしく一大イベントと言っても過言ではないその数に、諦めかけるプレイヤーもいたが、最初の頃よりもだんだんとゴブリンが減って来た事に気が付く。

「おい、ゴブリンの勢いが弱まって来たんじゃないか?」

「行けるぞ!」

「お~~~!!!」

長く続いたプレイヤーとモンスターの戦いは、実に3時間以上にも及んだ。

無限に続くかと思われた、イベントもいざ終わってしまえば、楽しかった出来事の一つとしてプレイヤーの記憶に残る。


もし、これが最悪の形で終わってしまっていたら.....。なんて事にならなくて本当に良かった。


「なぁ、誰が終わらせたんだ?」

「何がだよ?」

「ボスだよボス。」

「ボス?」

「いるだろ?こういう自然発生系の侵略型イベントには。」

「それってあいつだろ?」

「あいつって?」

「知らないのかよ?最初に突っ込んで行ってそっから見てないプレイヤー。」

「だって俺って途中参加だし?」

「そいつって確か途中で死んだんじゃないか?」

「それはあり得ないだろ。」

「なんでそんな事が分かんだよ。」

「なぁ......。」

「あぁ.....。」

「?」

「だってあいつ、人間とは思えねぇ速さで、ジュネラル屠って行ったんだぜ?」

「馬鹿言うなよ。そんなプレイヤーがいるわけない。」

「複数人で立ち向かって、やっとだったんだぜ?」

「いやいや、忘れんなよ。俺らせいぜいレベル10あるかないかの初心者だぜ?」

「最前線プレイヤーだったら行けるだろ?」

「いや、馬鹿言うなよ。最前線でも無理だろ。」

「本当だって。なぁ皆。」

「俺は見たぜ。」

「あたしも見た.....。」

「んな...馬鹿な.....。」

「チーターじゃねぇか?」

「それこそ馬鹿言え、ありえねぇよ。」

「でも、人間の動きじゃなかったし。」

「このゲームで、チート使用者なんか出るわけねぇ。というか技術的に不可能だろ。」

「開発者とか?」

「それこそあり得ねぇ、あいつらこのゲームやんないだろ?」

「わかんねぇだろ?」

「まぁ、でも一つ言えるのは、そいつがこの戦いを終わらせてくれたって事だな。」

「つまり、もっと長くなってたかもって事か?」

「あぁ、もしかしたら倍以上かかってたかもしれねぇぜ?」

「はぁ?やってらんねぇだろそんなの。」

「場所が場所だしな。」

「開発者は、何を考えてこの街を終わらせようとしたのかね?」

「知らね。」


PlayerName:ユーマ

種族:人

職業:剣士

Level:17

Skill:Healing/王国騎士流体術(未完成)/Meditation(瞑想)/Slash(斬撃)/High Slash(高斬撃)/Double Slash(二連斬)/Magic Control(魔力操作)(未完成)/Boost Slash (斬撃上昇)/Hideing (身を潜める)(未完成)/Search(索敵)/Magic Regulation(魔力調整)

称号:プレイヤー


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」

「いや~、前回に続いて今回も山岳地帯の話でしたね。」

「ファンブルボアが、この一大イベント起す伏線だったのか!?」

「な~んて......。実際のところどうなんでしょうかね?」

「それよりですよ。事前にこの一大イベントを知っていた投稿者さんは、一体誰で、このフードを被ったプレイヤーは何処の誰のどいつなんですか!」

「はぁ.....。分からない事がまた増えてしまいましたね。」

「さて、そんな話は置いといて、本日も解説と行きましょうか。」

「ん~、何を解説しましょうかね?」

「どんなゴブリンがいたのか説明していきましょうか?」

「棍棒を持ったゴブリンに、プレイヤーくらいの身長があるホブゴブリン、弓を持ったゴブリンアーチャーに、槍を持ったゴブリンスピア、剣を持ったゴブリンソルジャーに、短剣を持ったゴブリンアサシンに、プレイヤーよりも二回り大きいゴブリン将官、最後に登場することなく終わったであろうゴブリンキングです。」

「ちなみに、この侵略型イベント、本来のイベントよりも、相当難易度が低くなっています。」

「本来なら、数多くの種類のゴブリンが現れ、連携を取って攻撃してきますが、今回は連携もないただただ進行してくるだけのイベントとなっております。」

「これで、難易度低いってどういうことやねんと突っ込みたくもなりますが、よくよく考えてみて下さいね。なんかフード被った強いプレイヤーの助けがあったとはいえ、初心者だけでも守り抜けるようなイベントですよ。」

「そりゃ、本物がこんなに簡単なわけがありませんよね......。」

「え?どんなのが出てくるのか参考に?」

「それはでl@[@"?$2;]/://]:;@[」

「ゴッホ、ゴホ。まだお話出来ないようなので.....。」

「それでは、本日の解説は以上とさせて頂きます。」

「ばいば~い。」

「あ、解説してほしい事があったら是非コメントにお書き添え下さい!」

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