ー 42話

ユーマがシスターさんの手を取り協力すると言った後、シスターさんはユーマに今後の事について話し出した。

「ユーマさんには、これから強くなって頂きます。」

ユーマ「わ、わかりました。」

あまりの気迫に気圧されて、俺はシスターさんの言葉をそのままの勢い承諾してしまう。

ユーマ「あ、でも.......その、長く時間がかかるようでしたら難しいかもです。」

承諾してしまった手前こう言うのは本当に申し訳なく感じたが、俺はまだ学生で受験だってまだどうなるか分からない。受かっていればゲームに割く時間は出来るが、受かっていなければまた勉強をしていかなければならないのだ。

申し訳なさそうな顔をしながら言うと、シスターさんは悲しそうな顔をして、

「ごめんなさい。そうですよね.......。ユーマさんが時間のある時で構いません。」

本来なら俺に怒っても良いはずなのに、シスターさんは俺に謝罪して時間のある時で構わないと提案してくれた。

ユーマ「いえ、謝るのはこちらの方です。すみません.....シスターさんに協力すると言った手前このような形で断ってしまって......。」

俺も時間があればシスターさんに協力したいという思いは強い。

ゲームとは言え、他人事とは思えないし、シスターさんの悔しさや憎しみがとても伝わってくる。だから協力する事に決めたし、決めたことに後悔はしていないのだが......。

俺も自分の人生がかかっている。ゲームのせいで両親の期待を裏切るわけにはいかないし、心配も掛けたくない。

今の俺は、このゲームをゲームとして感じることが、出来ないくらいこの世界にのめり込んでしまっているのかもしれない。

こんなことを考えるのは、シスターさんの話を聞いたからだろうか?

これが悪い事なのか......はたまた良い事なのかは分からない。

それでも、シスターさんを助けてあげたい......協力したい。


「あなたには、あなたの世界の生活がありますものね?」


不意に呟いたシスターさんの言葉に、俺はどういう事か聞き返す。

ユーマ「ど....どういうことですか?」

「あなた達、プレイヤーの世界です。」

その言葉を聞いて固まる。

このゲームは、メタい発言つまり、この世界がゲームであるという言葉や、現実世界だけの言葉等(車や飛行機、電車)を改変しNPCに伝わらないようになっているはずだと思っていた。

それは、このゲームの世界観を保つためにそう設定されていると思っていたからこそ、今まで疑問に思った事がなかったのに.......。

それなのに、NPCが今あり得ない事を口にしている。

ユーマ「プレイヤー.......。」

「そうです。あなた達、プレイヤー。」

俺が驚いていると、シスターさんはどこか悲しそうな顔をしながら話してくれる。

「ユーマさんは、ここがゲームの世界だと思いますか?」

さっき聞いた言葉が本当に間違いじゃなかったことを俺は感る。

ユーマ「..........違うんですか?」

恐る恐るそう聞くと、シスターさんは何も言わずに席を立ち、窓の外を見る。

「.......今この寒い中、外で働いているあなた達の言うNPCには、細かいほど設定(物語)が詰まっています。」

「彼らの人生の1ページには、その人物以外に、誰も体験した事の無い、感じることのできない歴史が刻まれているのです。」

「疑問に思ったことはありませんか?」

振り返りそう問うシスターさんに、俺は何も言えず黙ってしまう。

ユーマ「................。」

パチ(暖炉の音)

「思ったことがあるようですね.......。この暖炉の音一つとっても、あなた達プレイヤーにとっては、ただのSEやBGMと言ったただのゲームの要素の1つだと感じていたのではありませんか?」

ユーマ「そう....ですね。」


「すみません。ユーマさん.......。」

急に無言になったシスターさんは、暗い顔をして席に座ってから俺に謝る。

「本当はこんな話をするつもりは、ありませんでした。」

ユーマ「どういう事ですか?」

俺はこの先の話が気になり、聞き返すがシスターさんは首を横に振ってこれ以上何も応えてくれなかった。

「この話は忘れてください。」

「協力してくれると言う私の我儘も聞かなかった事にしてくださって構いません。」

俯いたままのシスターさんは、俺にそう言って黙ってしまった。

ユーマ「シスターさんの協力はします.......。さっきの話も心のうちに留めておきます。」

ユーマ「ただ、俺がさっき言った事は訂正させてください。時間が取れないかもじゃなくて、出来る限り時間を設けようと思います。だから、俺を強くする事に協力してください。」

そう言うと、シスターさんは俺の方を向いて質問する。

「どうしてですか?」

ユーマ「俺がそうしたいからです。」

そう言うとシスターさんは、頷いてくれたがよく考えてから決めてくださいと言って立ち上がり、今日は帰って下さいと言った。

先ほどの話を聞いて、ここがただのゲームじゃないと感じた。

シスターさんの話が怖いと思ったし、さっき言ったことが本当の事かどうか疑問も感じる。

ただ、俺はシスターさんに協力する事が正しいような気がしたのだ。

それに俺はつくづく疑問に感じていた事があったのだ。

達也からこのゲームのあらすじを聞いた時から感じていた疑問、本当に怪物が悪で倒さなければならない存在なのかと.......。

だから俺は種族選択をするときにシステムに質問した。

「なぁ。このゲームっていわゆる魔王とか魔物を倒してクリアじゃないのか?」

って......。

それに対してシステムはそうだとは応えなかった。

だから俺は、シスターさんに協力し、創造主だとかいうやつを倒すことにする。

これが正しい事なのかどうかなんて分からない。

でも、このゲームのあらすじやシスターさんの話、これまでの本の内容を見たり聞いたりして思うのは、創造主がどうしてもいいやつだとは思えないという事だ。


取り敢えず今日は、シスターさんの言うように帰る事にするけど.......。

また明日、シスターさんと真剣に話そうと思う。


俺は買って来た子供達へのお土産を帰り際にシスターさんに渡してから取り敢えず今日はログアウトしようとメニューを開ける。

メニューを開くとインベントリーに[!]のマークが付いているのが目に留まる。

(なんだ?)

インベントリーを開いてみると1冊の本だった。

ユーマ「これって.......。」

[!]:<Healing Clergyman>(癒しの聖職者)

取り出してみると勝手にページが開き文字が書き込まれていく。


<Healing Clergyman>(癒しの聖職者)

著者:Yofanes Furgen (ヨファネス・フュルゲン)


"聖命の書"に記されし、種は決して万能ではない。

聖をつかさどるまやかしは、命をもてあそび万を有する種を生むことをせず能を与え嘲笑う。

竜を司る種は、万を有する種と自称し、"全て"を見下し争いを好む。

獣を司る種は、力を求め竜にすがり、争いに協力す。

森を司る種は、争いを沈め土地を救い彼らを嫌う。

土を司る種は、仲介をしこれに敗れ力を失う。

"人"を司る種は、実在せず争いは終結する。

"魔"は勝ち、種は敗れ、種は魔を嫌い聖にすがる。

聖は万人を救い。万人を"殺"す。

決して"聖"は救いでは、無い。

私は、聖職者として"創造主"に仕えてきた人物だ。

創造主の命に従い、沢山の人々を救ってきた。

だが、それは間違いだった。

私のやって来た行いは、全て救いでは無く、"信仰"だったのだ。

ただただ命に従い、人々を先導し、苦しめてきた元凶を殺し、信仰心を集めてきた。

主に対し疑問に思うこと等、畏れ多くてできなかった。

現に数多くの信者が崇拝し、人々の命が救われていたのだから。

そんなある時、とあるドラゴンを討伐したことで私の心に迷いが生じた。

今の私は正しい行いが出来ているのだろうか?

主の命令に従い悪しき者の討伐を行ってきたが、それらは本当に悪しき者だったのだろうか?

時には子供を、時には獣を、時には他国の人々を攻め.....殺し......掲げ。

それらは、本当に間違っていなかったのだろうか?

最後に抵抗することなく死んでいったドラゴンは、本当に悪しき者だったのだろうか?

今私に刃を向ける人々は、この結果を望んでいたのだろうか?

曇っていた私の目は、次第に晴れ私は自分の愚かさに気付いた。

私は......間違っていたのだ。

主の命に従い奪ってきた悪しき者と呼ばれた者達の魂は、ただ私と同じ普通の者達だった。

家族があり、生活があり、文化があり、思い出があり........。

それを私は.....私達は............奪ってしまった。


主 の 命 に 従 い そ の 悪 し き 村 人 を 殺 せ !


頭の中で何度も聞こえてくる命令に頭が割れそうだ.......。

もうやめてくれ、私は自身の胸に十字架を刺し死んだ。

死んだ魂は、何処へ行くのだろうか?

創造主の元へだろうか?

そんな事を身体が冷たくなっていく中で、考え続けていた。

そんなところへ等、行きたくない。

私がそう叫び、もがいていると.....。

私のせいで死んでしまったはずのドラゴンが私に語り掛けた。

そして私はドラゴンとある契約を結び、"神父"となったのだ。


この本を送った教会の神父より。


これを送った貴方へ。

この本にかけられた魔法が解かれた時、さらなる真実を知る事となるだろう。

その時に、私達に協力してくれる事を願う。

これは、ささやかなる私からの贈り物だ。


PlayerName:ユーマ

種族:人

職業:剣士

Level:23 → 25

Skill:Healing → High Heal/Essence of Life(生命の源)/王国騎士流体術(初級)/Meditation(瞑想)/Slash(斬撃)/High Slash(高斬撃)/Double Slash(二連斬)/Horizon Slash(ホライゾンスラッシュ)/Chain Slash(チェインスラッシュ)/Battle Up(バトルアップ)/Magic Control(魔力操作)(初級)/Boost Slash (斬撃上昇)/Hideing (身を潜める)/Search(索敵)/Magic Regulation(魔力調整)

称号:プレイヤー/竜霊魂(ドラゴンレイス)の欠片/妖精の歓迎


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「本日もサクッと解説をやっていきます。」

「どうやらHealing 技能がHigh Healに進化したようですね。」

「あと新たに技能が追加されたようですね......。」

「Healingの効果が以前話したようにヒールと同じ性能だと言うのはお話しましたよね。」

「表記を分けているというのも話をしたと思うのですけど、それにはこういう理由があったようですね。」

「どういう理由かって?ただのヒールとは違って成長型の技能だったというわけです。」

「技能が別の技能へ進化する事なんて特別な技能で以外はありえませんからね。」

「例えば、技能の<体術>のように。」

「効果のほどはどうでしょうかね?」

「以前のHealingよりもHigh Healの方がHPの回復力が高く、SPの回復もあるようです。ただクールタイムはHealingよりも長くなっており、MP消費は、Healingよりも少しコストが高いようです。」

「ただ、Healingも今まで通り使えますのでご安心ください。」

「それでは、本日もサクッと解説を終了いたします。」

「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」

「いつでも、どんなのでも歓迎です!」

(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))


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