人心の書

人心の書

「わぁ~、聖女様~!」

「聖女様よ!!!」

「わぁ~!」

「こっちみて~!」


城門の前の箱の上に立った聖女は、拡声聖道器を手に持ち皆に向かって微笑む。

※拡声聖道器:拡声器のような物(聖遺物と呼ばれる道具の拡声器バージョン)

聖女様の美しい顔を見た人々は、演説を聞くために静かにし、城門前は先ほどの喧騒とは違い、一瞬にして静まり返る。


聖女「このような場にお集まりいただいた皆様、本当にありがとうございます。」

聖女「このような素晴らしい日に出会え事を、私は決して忘れる事がないでしょう。」


胸に手をおき祈りのポーズを取った聖女は、民衆を見渡した後に振り返り国王陛下に向かって一礼する。


聖女「国王陛下をはじめ、貴族の皆様方、固く閉ざされていた門貴族街を開いて頂き本当にありがとうございます。」

聖女「この演説を機に、新たな歴史の始まりとなる事を願い、私が演説をさせて頂きます。」

聖女「まず初めに、王国の皆様をはじめ、プレイヤーの皆様とは、これを機に良き隣人になれる事を私は強く願っております。」


驚いて席を立ち上がった国王は、今の言葉を聞きすぐに撤回する事もできずに席に座り頭を抱える。

執事がこの様子を見て拳を握り締め、聖女の方を見つめる。


聖女「プレイヤーの皆様。」


剣や弓等の武器を背中や腰につけ、いかにも冒険者という格好をしている人たちが、聖女様の方を向く。


聖女「貴方達プレイヤーの皆様は、私達NPCの事を今までどのように見てきたのでしょうか?」

NPC「NPC?」

NPC「NPCってなんだ?」

NPC「プレイヤーってなんだ?」

Player「.....................。」


周りの民衆が今の演説を聞いて、ざわざわとしだすが一部のプレイヤー達は、黙ったまま下を向き、聖女様の質問には何も応えずにその場に立ち尽くす。


聖女「貴方達プレイヤーの皆様にお伝えします。」

聖女「貴方達が生きているように、我々も生きています。」

聖女「生活があり、感情があり、時には喧嘩をし、時には助け合い。」

聖女「貴方達プレイヤーの皆様がそうであるように、私達もそうなのです。」

聖女「プレイヤーの皆様は、私達が崇めている主により、神の子としてこの世界に招かれ、特典として不死を得ました。」

聖女「貴方達の持っている不死は、決して悪事を働くための特典ではありません。」

聖女「今一度問いましょう。」

聖女「貴方達プレイヤーの皆様は、私達NPCの事を今までどのように見てきたのでしょうか?」


Player「........................。」

NPC「.....神の子だって?」

NPC「不死ってなんだ?」

Player「.......................。」


周りのプレイヤー達は、隣で騒いでいるNPC達を見て下を向き、今までの自身の行動を振り返る。


Player「俺たちは.......。」


それ以上プレイヤーは誰も言葉を発さなかった.......。

いや、発せなかったのだ。

それ以上の言葉を言ってしまえば、俺達、私達が今までしてきた事をとても後悔してしまいそうだからだ。

俺達だけじゃない、この世の中のプレイヤーには、もっと悪辣な事をするプレイヤーも存在する。システムの称号で犯罪者と呼ばれている人種達だ。

彼らの中には、プレイヤーだけでなくクエストや遊びでNPCを殺している人達もいるだろう。

皆ゲームを進めて行く中で、薄々勘づいていたんだ.....。

このゲームがあまりにもリアルに忠実に再現している事を、NPC一人とっても人間味があり、家族があり......。

それでも、気付かない振りをしてきたのは、心の何処かで彼らはただのプログラムに過ぎないと思うようにしてきたからだ。

俺達は、何度でも蘇りその度に強くなり強敵を倒して来た。

メニューを開けば、ステータスが見れ、技を唱えれば技能が発動する。

モンスターを倒せば、死骸の代わりにアイテムやお金、経験値が手に入る。


聖女「真実から目を背けないで?」

聖女「考える事を放棄しないで?」

聖女「私達を見て下さい。」

聖女「今一度問いましょう。」

聖女「貴方達プレイヤーの皆様は、私達NPCの事を今までどのように見てきたのでしょうか?」


Player「た、たかがプログラムだろ!」

Player「そ、そ、そうだ!」

Player「たかがプログラムじゃないか!」

Player「ど、どうせ、痛みも感情も偽物じゃないか!」

NPC「どういうことだ?」

NPC「俺たちに言っているのか?」

Player「でも、今.....感情があるって言ってたじゃないか!」

Player「それに、家族もいるって......それって俺達と......。」

Player「う、うるせぇ!」

Player「だったらなんだよ。俺たちゃ、遊びに来ただけなんだぜ?」

Player「そ、そうだ!何も悪くない!」

NPC「.................。」

Player「でも、だからって.......。」


聖女「落ち着いてください、皆様!(大声で叫ぶ声)」


聖女の言葉によって一瞬にしてその場が静まり返り、全員が聖女の方を向き直る。


聖女「私は、プレイヤーの皆様方に罪悪感を与えるために演説をさせて頂いているのではありません。」

聖女「ただ、知っていて欲しかったのです。」

聖女「貴方達が普段、武器を買い、物を売り、何気ない会話からクエストを受けている彼らNPCは、貴方と同じ"人"があるという事を。」

聖女「貴方達は、不死であるが故に死ぬ事が無く、この世界に現実味が無いのかもしれません。」

聖女「しかし、我々の生は一度限りであり、一度死んでしまえば二度とその人と会う事が出来ないのです。」


涙を流しながら演説する聖女を見たプレイヤー達は、拳を握り締めて俯く。


聖女「これ以上の言葉は、必要ないでしょう。」


涙を拭った聖女は、皆の方に向き直り真剣な表情をする。


聖女「最初に申し上げたように、私はこれからのプレイヤーとNPCが良き隣人に慣れる事を強く願っています。」

聖女「どうか、どうか........よろしくお願い致します。」


深々と頭を下げた聖女に、その場にいた貴族や民衆、プレイヤーの皆が拍手をし、聖女の言葉に感動する。


「ありがとう!聖女様!」

「聖女様!ばんざ~い!」

「これからの未来に!」


顔を上げた聖女は、再び真剣な顔をして演説を始める。


聖女「皆様の熱い声援ありがとうございます。」

聖女「続きまして、本題に移りたいと思います。」


本題と聞いて、全員が固唾を呑んで聖女様の方を見る。


聖女「12月25日に起きた、大祭を知っていますでしょうか?」


ざわざわと沸き立つ人々の声に、聖女は小さく頷き息を吸う。


聖女「あの大祭では、悲しい事に多くの犠牲者が出てしまいました。」

聖女「我々、聖騎士を始めとし、NPCの中にも残念ながら帰らぬ人となった方が多く存在します。」

聖女「あのような忌まわしき大祭を二度と繰り返さないように、どうか皆様お力をお貸しください。」

聖女「彼らは、"魔"という我々の敵であり、世界の敵なのです。」

聖女「彼らが我々を苦しめるために本格的に動き出したのです。」

聖女「このような犠牲を.....そして世界を救うため、どうか皆様の快い協力をお願いいたします。」


先ほどの演説もあり、人々は歓声を上げて聖女様の言葉に応える。


「NPCの人々を救うぞ!」

「これからは、俺達プレイヤーが今までNPCにしてきた事を改めてNPCを救っていくんだ!」

「聖女様ばんざい!」


この事は、ニュースにまで報道され、連日ゲームのNPCとAIのこれからについての話し合いが行われたりもした。

プレイヤーが今まで行ってきた非道な数々が、写真や動画、ネットの掲示板やニュースにまで取り上げられて、それを行ってきたプレイヤーに対して一斉に矛先が向いて行った。


しかし、何故ここまで効果があったのだろうか?

それは.......。


    「「演説の後に起きた大事件が火種となったからだ。」」


Name:表示不可

種族:人

職業:聖女

Level:表示不可

Skill:......./聖力(伝説級)[聖に関する技能統合]/神聖[神聖に関する技能統合]/聖なる威圧

称号:...../聖女


※あの演説を聞いていた全ての貴族と民衆、プレイヤーにBuff:聖力による影響(詳細不明)


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」

「王国編第10話です。」

「聖女様は、城門前での演説を勝ち取っただけでなく、演説も成功させて、人々の心と信仰を手に入れたようです。」

「演説後に起きた大事件とは何でしょうか?」

「どうやらこれによって、プレイヤーとNPCの関係について、もっと深く考えられるようになったようです。」

「一体何があったというのでしょうか?」

「それに、教会は何を考えているのでしょうか.......。」

「以上でサクッと解説を終了します。」

「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」

「いつでも、どんなのでも歓迎です!」

(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))

「さようなら~。」

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