ー 31話
夏休みが終わった9月の始め、VRの人口も夏休みに比べれば緩やかに低下しているがそれでも多くの者がVRにログインし遊ばれている。
そのため、今日も冒険者組合は忙しい日々を送っている。
NPC「....リリス......、リリス。リリス!」
リリス「ふぁい!リリスは、ここです。ね、寝ていませんよ!」
髪の毛をぼさぼさにして眠い目を擦りながら飛び起きたリリスは、近くにある書類をかき集めて苦笑いをする。
NPC「はぁ....。」
手で顔を抑えてやれやれと言う風にしているのは、この冒険者組合の副責任者であるルーデウスだ。
ルーデウス「どうやらお疲れのようだね。もう君は帰って休みなさい。」
リリス「いえ、あの....その.......。」
ルーデウス「はぁ、君はね。以前も仕事の皆に迷惑をお掛けしたよね?」
リリス「.................。」
ルーデウス「君がね。頑張っているのは、良く知っているしその事については、高く評価している。」
ルーデウス「もうちょっと、肩の力を抜きなさい。」
ルーデウス「今日は、早上がりってことでいいから.....肩の力の抜き方でも学んできなさい。」
リリス「はい......。」
書類を見ながら話を聞いていたNPCがルーデウスに声を掛ける。
NPC「言い過ぎですよ?」
ルーデウス「.........。フラール、君も今日は早上がりでいいから後でリリスさんの事を慰めてやってくれないか?」
フラール「もう、不器用なんですから!」
やれやれと言う風に、書類を整理して出て行ったフラールは、泣きそうな顔で出て行ったリリスを追いかける。
リリス「うぅ.....私は、ダメダメです。」
「そんな事ないんじゃない?」
リリス「フ、フラールさん!?お、お仕事の方は?」
フラール「今日は、あなたと同じで早上がりなの。」
フラール「美味しいものでも食べに行かない?」
リリス「は、はい.....。」
明らかに落ち込んでいるリリスを見て、ルーデウスさんは別に怒っているわけじゃないんだよなぁ....と思いながら、やれやれどうしたものかと考える。
フラール「ほぉら、落ち込まない。落ち込まない。誰だってミスの一つや二つあるんだから。」
リリス「フラールさんもですか?」
フラール「えぇ......あ、あるわよ~。」
リリス「嘘ですね....。」
(なんでこういう時だけ、勘がいいのよ.....。)
フラール「いや、嘘じゃないわよ~。ほら!この前なんて買い物で買おうと思っていたものを忘れちゃってたし。」
リリス「そ....それは、仕事の失敗じゃないじゃないですか。」
フラール「まぁまぁ、今日は、肩の力を抜く勉強するんでしょ?ほら、そこのお店で甘いものでも食べちゃいましょう。」
リリス「わ、分かりました.....。」
まだ元気のないリリスを見て、これじゃぁ、肩の力を抜くどころの話じゃないわね.....。と思ってしまう。
NPC「ご注文をどうぞ。」
リリス「このフワフワパンケーキと、甘々ファシュルっていうのを下さい。」
※ファシュル:リンゴと蜂蜜を混ぜたように甘く、柑橘系のような匂いのするジュース(この世界の果実産ジュース)
フラール「私は、ブラックコフィーと、ファシュルパイを下さい。」
※コフィー:いわゆるコーヒー。
リリス「大人......ですね。」
フラール「どうしたの?」
リリス「い、いえ。なんでもありません。」
(あらら.....もっと落ち込んじゃったわ......。どうしたものかなぁ......。)
フラール「ねぇ、リリス?」
リリス「は、はい。」
フラール「どうして冒険者組合で働こうと思ったの?」
リリス「え...あ....すみません。」
(あら、もっと落ち込んじゃった......。)
フラール「ち、違うのよ?別に責めてるわけじゃないの。」
(ど....どうしよう.....。)
フラール「え.....えっとね.....。その......。」
困っているとリリスが、話し出してくれた。
リリス「えっと.....私は、冒険者の方が......安全に帰って来られるような場所にしたいなと思いまして......それが夢だったから......冒険者組合で働きたくて.........。」
フラール「そ、そうなのね。教えてくれてありがとう。とっても素敵な夢ね。」
フラール「リリスは、いつもそのために遅くまで残って一生懸命働いてるのは、皆知ってるのよ?」
リリス「え.......。」
その事を聞いてリリスは、驚く。
フラール「だからね。今回、ルーデウスさんはリリスの事を追い出したかったんじゃなくて、心配して休んで欲しくてあぁ言ったのよ?」
フラール「ちょっと......あの人は、不器用だからあんな言い方しかできなかったんだけどね。」
フラール「だからね?もうちょっと、皆を頼ったりして肩の力を抜くのは、どうかな?って......。」
リリス「.............。」
フラール「難しい?」
リリス「はい.......。」
フラール「そっかぁ......。」
フラール「私達じゃ、頼りないかな?」
リリス「い、いえ。そんな事ないです。皆さん私に良くして下さるし......。」
リリス「でも、その......どうすればいいのか分からなくて......。」
フラール「そうだったのね。気付かなくてごめんね?」
フラールは、優しくリリスを抱きしめる。
リリス「あぅあ。あの、その......。」
フラール「元気出た?」
リリス「は、はい。」
顔を真っ赤にしたリリスは、手をぱたぱたさせて手で顔を扇いでいる。
フラール「急に肩の力を抜きなさいって言っても、難しいかも知れないけど........。」
フラール「まずは、周りの人に頼る事から始めていきましょう?そうねぇ....まずは、いっつもリリスが沢山持っている書類のどれかを誰かに頼んでみるのとかはどう?」
リリス「はい....。」
NPC「お待たせいたしました。ご注文いただいた、パンケーキ、ファシュルのジュース、ブラックコフィー、ファシュルパイです。以上でよろしかったでしょうか?」
フラール「はい。」
フラール「っさ、食べましょう?」
リリス「はい。」
ほっぺたをぷっくり膨らませながら、美味しそうに食べるリリスを見ながら、本当にリリスは可愛いんだからと思いながら、私もファシュルパイを食べる。
フラール「美味しいわね?」
リリス「はい!」
目を輝かせながら食べるリリスを見ながら、今日は最高の日になったことをフラールは、感じる。
ここまで読んで気付いた方も多いだろうが、このフラールは、小さい子が大好きなのだ.....。特にリリスは、年齢的に小さい子かどうかと言われれば、不明だが.....。種族的な特徴で小さいのだから関係ない。見た目も可愛くフラールの目には、幼く見えるのだから小さい子となんら変わらないのだ.....。しかもこのドジっ子属性が加わって、フラール的には撃刺さりしているわけだ。
至福の時間を過ごしたフラールは、リリスと別れて家に帰る。
明日からもまた、忙しい仕事が待っているわけなのだが.....。今日のリリスさんの可愛さのおかげで完全回復することが出来た。リリスさんがあの職場にいなければ、私は今もこの職場で働いてはいなかっただろう。
(今日のリリスさんは、泣いていて可哀そうではあったのだが.....。)
いつも仕事場では、遠目で見る事しかできないし、話し掛けてもあんまり会話をしてくれないし......。だから今日はいっぱいお話することが出来たことがとっても嬉しいのだ。
フラール「お友達には、なれたし!次は、もっと先に.....。(小声)」
フラール「フフ、まずは親友からよね!」
とニッコニコ顔で帰って行ったのである。
???「ッチ.....。本当に最悪だ。」
ボロボロになった剣を持ち、ボロボロのフードを被ったプレイヤーが悪態をつきながらダンジョンから出ようと、最速で走り抜けている。その後ろからは、ぞろぞろとモンスターがそのプレイヤーを追ってついてきているわけなのだが.....。
どうしてこうなってしまったのか、それはダンジョンでトラップにかかったのが原因だ。
???「こんな事は、初めてだ....。」
???「.....:;;[@.:/:]/。」
何かを唱えた瞬間、プレイヤーの速度が増し、モンスターを引き離す。
「グァ!」「ギュア!」
後ろから、いろんなモンスターの声が聞こえるが、そんなことはお構いなしにダンジョンを駆け抜け、地上へ到達する。
???「ッチ、これが本当に限界か?」
自分の限界を感じ、心が折れそうになる。
そういう時はいつも、前の事を思い出し、このままじゃダメだと自分を励ます。
とうの昔に、私の心は壊れてしまっている。何度も何度も挫折し、悪態をつき、何もできなくなってしまう時もあった。しかし、その度にあの辛かった日々と、あの言葉を思い出し、力に変えてきた。
そろそろ行かなければならないのだろうか?
インベントリーから取り出し、手に持った聖杯と聖印の書を見つめ、教会に行くべきか考える。
トラップにかからなければ、もっと先へ進めるだろうか?
耐性や技能を上げれば、もっと上手く立ち回れるだろうか?
教会にさえ行けばその全てが解決する。
しかし、以前の事を思い出し足が竦む。
同じ光景は、二度と見たくない。
同じ失敗は、二度と繰り返したくない。
強い言葉を使い、フードで顔を隠し、アイテムで声と身体を偽装し、男のふりをしてきたが、まだ大学生の"女性プレイヤー"である。
精神的にもまだ育ちきっていない....いや大人で会っても耐えられない....このゲームでは、彼女にとって地獄そのものである。しかし、逃げることはできない......。
いや、もう逃げ出すことはしたくない。
いずれ訪れる最悪の結末を繰り返すくらいなら、もがき足掻いて死んだ方がましだ。
でも.....それでも......。辛い.....。怖い........。
苦しい.....。
繰り返される地獄の結末と挫折。
最善手を出し続けても最悪手となり返って来る結果に、不安と絶望が押し寄せてくる。
???「まだいける......まだ.....?」
いったいいつまで続ければいいのだろう?
"怪物"が倒されるまで?
いいや、不可能だ。
あれを攻略できる可能性は、ほぼ0に近い。
なら.....。いったいどうすれば?
また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?また?
頭の中で繰り返される一つの言葉、ぐちゃぐちゃになった思考と心の叫びが、私を暗闇に引きずり込む。
ピコーン
右上を見るとデバフアイコンが、浮かび上がっている。
Debuff:狂乱
???「ッハ、ふざけやがって!」
ダン!(地面が凹む音)
???「これが.....ゲーム?」
???「そんなわけがない!」
ダン!(地面が凹む音)
???「どうして......どうしてなの......。」
地面に座り込んだ彼女は、ステータス画面を見つめる。
???「これのせいで.....。」
称号:回帰者
称号名プレイヤーの特権を全て剥奪し、回帰者という称号を手に入れた者は、世界の
※死亡時にレベルは、リセットされます。経験のみを受け継ぎます。
なお、プレイヤーの称号の効果は、このようになっている。
※この効果の解説は、読者にのみ見えるため、プレイヤーの方々は見ることも知ることも本来は出来ません。
称号:プレイヤー
プレイヤーは、この世界において何度でも復活することが出来る。また、プレイヤーである事が一部の"××"に知らされる。
また、"技能"や"耐性"の入手難易度が大幅に下がり、成長速度が大幅に上昇する。
しかし、死亡時には、"経験値"と"保有アイテム"を一部失い、ステータスが"ダウン"する。また、天秤の効果によりこの祝福を受ける代わりに、死亡時には"記憶"の一部が欠損される。
※プレイヤーの称号を持っていない状態での死は、現実での死と同義です。この祝福は、××がプレイヤーの安全を守る事を目的とし作り出された称号です。完璧なモノを作り出すことには、至りませんでしたがこれが今出来る"××"の"限界"です。
PlayerName:不明
種族:人
職業:不明
Level:不明
Skill:不明
称号:プレイヤー/回帰者/.../Pioneer(先駆者)/英雄
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「一気に明かされた彼女の秘密。」
「第16話から語られていた"フードを深くかぶったプレイヤー(?)"が回帰者であり女性である事が明かされました。」
「今までにいったいどんな経験をしてきたというのでしょうか?」
「彼女の苦難と経験は........。」
「それと、このゲームは何なのでしょうか?」
「本日もサクッと解説をやっていきましょう。」
「まず、称号が今後の展開で必要な追加だと以前に話した事があったのでしょう。」
「それが、プレイヤーの称号の効果を語らなければならなかったからです。」
「アプデ前はどうしてたのかって?プレイヤーは、ちゃんと復活で来ていたのかって?」
「えぇ、復活できていましたよ。隠しステータス覧に称号という項目がありましてね。」
「それが、アプデで見えるようになったんですよ!」
「な~んて設定を言っても後付け感が半端ないかも知れませんが、そういう事にしておいてください。」
「ただ、このプレイヤーって名前で作られた称号の効果は、以前からずっと考えており、全てのプレイヤーが持っているモノであり、誰が制作した称号なのかも決めていた重要な設定です。この称号については、後付けではない設定ですのでよろしくお願いします。」
「という事で、今回のサクッと解説はこんなところでしょうかね?」
「前回、解説できないって言ってたくせに今回の回でいきなり解説が?」
「って思った方も多いでしょう。本当は、もうちょっと先延ばしにしようかなって思ってたんです。(小声)」
「ただまぁ、もう薄々勘づいている方も多いようなので......。」
「ただ、まぁ回帰者である事は、明かされましたがそれだけです。」
「まだまだ、彼女の秘密、彼女の語る結末などは謎に包まれています。」
「これからもどうか書架に飾るをよろしくなのです。」
「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」
「いつでも、どんなのでも歓迎です!」
(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))
ブチッ
※回線が切断されました。
System:復旧を開始いたします。
[それでも、走り続けやっとの事で逃げ出すことが出来た。]
[深い森の中を走り、崖から転げ落ち川に流され辿り着いた村で、俺は目が覚めた。]
[起きた時は、それはそれは警戒したさ。]
[部屋に入って来た女性に向けて近くにあったフォークを突き出し、近寄るなと怒鳴ると、女性は悲しそうな表情をするもんだから。]
[俺も困惑してしまう。]
[大丈夫。安心して?]
[と言う彼女をよそに、俺はどうにかここから逃げ出さないといけないと考えて、窓から逃げ出そうとする。]
[そんな俺を彼女は、必死に抑えて危ないからと落ち着かせてくれた。]
[俺は、それでも彼女に反抗して泣き叫んだ。]
[その声を聞きつけてやってきた村の住民たちが、俺を説得しようとしたりするのだが、俺は聞く耳を持とうとはしなかった。]
[きっとこのまま、王国の兵士に連れて行かれて人体実験の材料にさせられるんだ。]
[それだけならいいが、死刑にされてしまうかもしれない。]
[そんな事を考えながら、ぶるぶる震える俺を、彼女は何度も声を掛け、大丈夫だと言って看病してくれた。]
[いい歳した大人が、こんな感じだ。今思い返しただけでも恥ずかしい。]
[落ち着いたころに気が付いたのだが、俺の身体は、傷だらけで足は骨折し腫れあがっている。]
[腕は、毒の矢を受けていたようで、紫色に変色し感覚がほとんどなくなっている。]
[それから暫くの間は、村の中で暮らした。]
[と言っても俺は、重症だからベッドの上で寝たきりの生活だったわけだが.....。]
[彼女は、そんな俺を励まし看病してくれた。]
[その甲斐あってか俺の腕も治り、足の骨折も動けるまでに回復した。]
[そんな俺を見て、彼女はやったねと褒めてくれたんだ。]
[こんなおっさんの世話を今までありがとうと感謝をすると。]
[おっさんだなんて。と笑うものだから、不思議に思って鏡を見たら、若返っていたんだ。]
[いつからかは知らないが、中学生くらいの顔つきになっていて驚いたもんさ。]
[それで、驚いた俺は彼女に、自分の年齢を言うと、嘘だと笑われたなぁ.....。]
[まぁ、それからは、村で恩返しをするべく頑張ったりもしたわけだが、ふと一緒に召喚された人たちの事を思い出してね。]
[探しに行くことにしたんだよ。]
System:復旧いたしました。
System:それでは、これからも"書架に飾る"をよろしくお願いいたします。
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