醜悪の書
醜悪の書
コンコン(ドアをノックする音)
騎士「お休みのところ、失礼いたします聖女様。部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
聖女「どうぞ。」
ガチャ、バタン(ドアを閉める音)
騎士「失礼いたします。」
丁寧に一礼した騎士は、顔を上げて聖女様を見た瞬間、そのあまりの美しさに一瞬見惚れてしまった。
聖女「どうしましたか?」
騎士「し、失礼いたしました。」
顔を赤らめた騎士は、一瞬俯いた後に前を向き、少し口角を上げながら、舐め回すように下から上へ見た後に来た理由を説明する。
騎士「国王陛下から、明日のお昼、ご一緒に昼食をしないかというお誘いです。」
ぴしっとした姿勢ではあるものの、顔が緩みきってしまっている騎士の事など全く気にせずに、聖女様は返事をする。
聖女「畏まりました。喜んでお受けいたしますとお伝えしていただけますか?」
ニコっと笑う聖女に、騎士は口角を上げてニコっと笑った後に、
騎士「畏まりました!」
騎士「で、では、失礼いたします!」
と言い、騎士は勢いよくドアを閉めて出て行ってしまったのだが、外からは、先ほどの騎士と部屋の外で待機していた騎士の酷い会話内容が聞こえてくる。
騎士「聖女様、むちゃくちゃ美人だったわ。」
騎士「本当か?いいなぁ、お前は俺なんてまだ顔を見たことないんだぜ?....(だんだんと声が遠くなっていく。)」
騎士「本当にやべぇくらい美しい人だったわ!あんな方と結婚してぇ。(大声)」
騎士「.............。(遠くで聞こえる声)」
メイド「す、すみません。聖女様、騎士が大変な無礼を......。」
聖女は、何のことだか分からないというきょとんとした顔をしてから、
聖女「謝らないで?あなたのせいじゃないでしょ?大丈夫よ。」
と言ってニコニコした顔をする。
それを見たメイドは、聖女様は本当にお心が広い方なのだわ!と思い、とても嬉しくなるとともに、先ほどの騎士の態度を思い出して、今の国の現状にがっかりして寂しくなる。
一昔前ならば、この国.....私が育った大切な故郷は、胸を張って素晴らしい国だと愛国心を胸高らかに唱えられたのだが、最近のこの国は、騎士も貴族も皆おかしい。
貴族は私腹を肥やし、贅沢三昧な暮らしを続け、職務と責務を放棄しているし、騎士はだらけているだけでなく、最近は下町で問題行動を起こしているという話も聞く。
本当かどうかなんて私達お城仕えのメイドは、なかなかこの城の外に出る機会がないからよく知らないけど、噂では、盗賊まがいの事をして、市民や貴族の下女、それから貧民街の人間を拉致したり、金を巻き上げたり......。
取り締まる立場の騎士だから、誰も文句も言えないし、逮捕もできないらしい。
皆が皆そうだとは思っていないけど、こんなに心の優しい聖女様には、この短い滞在の中でこの国の素晴らしいところを知ってもらいたい。
俯いたままの私に向かって聖女様が優しく声を掛けてくださる。
聖女「大丈夫?」
その言葉がとても辛くて痛くて、心に突き刺さる。
メイド「......ごめんなさい。聖女様。」
聖女「どうしたの?」
聖女様の優しい言葉と、微笑みに胸が苦しくて溜まらない。どうしてこの国の国王様は、国の現状を無視していらっしゃるのかしら?
普段はそんな事なんて思った事もないのに、思う事も許されないような不敬な考えが頭を過る。
メイド「すみません。聖女様、なんでもないんです。」
急いで平気な顔をして、ニコっと笑って見せると、聖女様がぎゅっと抱き着いて優しく頭を撫でてくれる。
その瞬間、涙が溢れて泣いてしまった。
いつぶりの涙だろうか?
大人になってこんなに大泣きしたのは、初めてかもしれない。悲しいはずなのに、聖女様に抱きしめられているからか心がぽかぽかしてとても心地いい。
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(ふふ......この子、本当に可愛いわね。私専属のペットにしたいわね。)
心の中でそう思いながら、聖女は優しくメイドを抱きしめて微笑む。窓のガラスに反射して映る私の顔は、とてもじゃないが人前で見せられるような顔じゃなかった。
(いけないわ......。勇者様が誕生した時の、あの嬉しくてしかたなかった時のお顔みたいになってしまっているわね。)
(ほんと、可愛いんだからこの子、ちょっと聖力で、感情をいじるだけでこうなるんだから。)
(まぁ、それだけこの国に対する不満が大きかったのよね。)
ぽんぽんと頭を優しく撫でながら、泣いているメイドを見て微笑む。
(この子もさっき思いついた皇太子の件に巻き込もうかしら?)
(それで、助けてあげて忠誠心を植え付けるのもいいのかも。でも、この子が危険な目に会うのは、あまり面白くないわね。)
少し考えた後に、やはりこのメイドは使わないことにする。ただし、このメイドは貰っていく事に決めたわけなのだが......。
聖女「辛い事があったのね?」
聖女「私は、あなたが抱えている事がなんなのか全ては、分かってあげられないのかもしれないのだけれど、私に話してみてくれる?」
優しく微笑みかけてメイドをベッドの上に座らせる。
メイドは、少し困った表情をしながらも、ゆっくりと頷いて話しだした。
うん。うん。と頷きながら、話を聴いていたのだけれど、とっても下らない話ばかりだから、欠伸でも出そうだったわ。
「この国は昔は良かっただの。」
「聖女様には、この国で素敵な思い出を作って頂きたいだの。」
「母が聖女様みたいに優しく抱きしめてくれてうれしかっただの。」
本当にどうでもいい話ばかり、でも、こんなどうでもいい話を適当に頷きながら時々、抱きしめて頭を撫でてあげるだけで、人の心が簡単に手に入るのだから、楽な"物"よね。
聖力が便利なのもあるけど、この子が純粋なのが大きいのかも知れないわね。
(あぁ本当に.....ペットどころか私の"物"としてこれから扱おうかしら?)
優しく育ててあげるのもいいのだけれど、まだ疑問を持ちながらも自分の国に愛国心のあるこの子に、憎しみを抱かせてこの国を潰す
いろいろ面白い考えが思い浮かぶ中で、明日の事についても考える。
明日の昼食....たぶん司祭が例の事は全て話したのだろうから、あの件よね。
※例の事:勇者や12月25日の事
※あの件:教会との同盟
最初はさっさと条件を言って承諾してから、このうんざりする場所からすぐにでも離れようかと思っていたのだけれど、面白い玩具を見つけたし、良いペットも見つけたから困ったものだ。
(一度、話を断って延期しようかしら?)
そうすると、司教がうるさく言ってきそうだけれど、まぁ後で話せばいい事よね。
せっかく面白い玩具がいるのに、使わないなんて面白くない。
どうでもいい話を聞くのがめんどくさくなってきた私は、話をいい感じに区切る事にした。
聖女「辛かったわね?私じゃあなたの悩みをどうにかしてあげられないかもしれないけど、困ったことがあったら教会のところに来なさい?」
聖女「力になってあげるから。」
そう言ってからメイドを優しく抱きしめて、下がらせる。
聖女「はぁ、あのペットを手に入れる方法はいくらでもあるのだけれど、どれがいいかしら?」
聖女「無理やり連れていくのは、つまらないし反抗してきたらうっかり殺しちゃうかもなのよね......。」
聖女「出来れば自分から来たいと言ってほしいのよ。」
ため息を付いた聖女は、明日に向けて眠りにつく。
Name:表示不可
種族:人
職業:聖女
Level:表示不可
Skill:......./聖力(伝説級)[聖に関する技能統合]/神聖[神聖に関する技能統合]/聖なる威圧
称号:...../聖女
Name:ファミリス
種族:人
職業:メイド
Level:表示不可
Skill:表示不可
称号:平民/王宮メイド
Buff:聖力による影響(詳細不明)
<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>
「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」
「王国編第4話です。」
「いろいろややこしい展開になってきましたね。」
「王国側と教会側の心理戦です。」
「ただし、王国側はこれ以上後手に回れば.......終わりという崖っぷちではあるのですけどね。」
「本日のサクッと解説は、聖力についてです。」
「聖力はその言葉どおり、聖なる力を宿した技能です。」
「誰でも使えるというわけではなく、魔法技能でもない、"精霊技能"でもない技能です。」
「魔法が"怨念"から生み出された力だとすれば、聖力は、"信仰"が生み出した力だと思っていただければ、少し分かりやすくなると思います。」
「ちなみに聖女様がメイドさんの感情をいじるために使用した聖力は、ステータスに書いてある通り、デバフではなくバフ扱いの技能であるため、基本的に解除も防御も出来ません。」
「デバフは、良くない効果であるため、無意識に防衛機能である精神耐性等の耐性技能が働いたりするのですが、バフは、良い効果であるため、それも機能しにくいというのが理由です。」
「また、解除であるディスペル等のデバフを解除する技能に効果が期待出来ないのも、正確には全く効果が無いというわけではなく、普通は良い効果であるはずのバフ効果を解除しようとする人はいないため、解除しようとすれば簡単に解除可能ではありますが、それ用の呪文が知られていない、もしくは開発が進んでいないというのが基本的に解除が出来ないという理由です。」
「また、簡単に解除できる理由としては、デバフ効果よりもバフ効果の方が種類が少なく、効果の用途も分かりやすいため、構造を理解しやすく開発しやすいのです。」
「そのため構造を理解していれば、それを紐解くだけで解除が可能なため、実際はとても簡単に解除する事が可能なのです。」
「ちなみにディスペルは、バフ効果を残した状態で、デバフのみを解除するようにいろいろ研究されている技能であるため、デバフを解除するディスペルの方がとっても難易度が高いのです。」
「ちなみに、メイドさんがバフを付けられている事に気付いていないのは、デバフだと自身の身体の不調には、"なんとな~く今日って自分調子悪いのかも?"って気づきやすい反面、バフだと"なんか今日少しだけ調子良いのかも!"くらいに感じられ、あまり気にしないのが人間です。そのため、付けられている事に気付かなかったり、ありがたみが分かりにくかったりするのです。」
「また、今回のように詳細不明なのは、バフ自体に名前がついていないからなのかも知れませんね。」
「しかし、名前はついていなくても効果はある程度予測できます。感情を操作する系のものであるため、魅了や発狂、恐怖等のような物に近いようですね。」
「以上で本日のサクッと解説を終了します。」
「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」
「いつでも、どんなのでも歓迎です!」
(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))
「さようなら~。」
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