ー 69話

「朝のニュースをお伝えいたします。」

「皆さん、おはようございます。」

「今日のニュースは、ずばり!最近話題のAIの人権についてです。」

「本日も、心理学者である土内どないさんに来ていただきました。」

土内「はい、えー.......皆さんこんにちわ。土内です。」

「えーっと....それでは、早速本題に入らせて頂きたいのですが土内さん、最近起きたあの事件については、ご存じでしょうか?」

土内「あー、はい。あの、VRMMO内の王国で起きた事件ですよね。」

「はい。皆様も連日のニュースで知っているように、書架に飾るというゲーム内で、NPCに対しプレイヤーが非人道的な行為を繰り返した事によって起きた悲惨な事件です。」

「あれについて、土内さんから心理学者の視点でお話して頂いてもよろしいでしょうか?」

土内「そうですね........。まぁ......はい.........。」

土内「心理学者の視点というより、これは私個人の意見になってしまうのですが、いずれこうなるであろうという事は予想出来ていた事ですね.....。」


台本と違うセリフにニュースキャスターやカメラマンが驚きながら、何度も目を合わせてコンタクトを取る。


「えっと.....そ、それはどういうことか詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」

土内「はい、以前皆様にお話ししたように、殺人や窃盗といった現実では犯罪として取り締まられるべき行為がぁ.......。ゲーム内では、一部のプレイヤーによって好んで行われているという話を以前に行いましたよね?」

「は....はい。」


以前のニュースの時に、土内さんが深刻な表情をしながら机を叩き、これ以上の行為は辞めるべきだと過激な主張を繰り返していた光景が脳裏に思い浮かぶ。

それに合わせて、テレビの画面の右上端っこには、以前土内さんが主張していた内容が再放送され、"土内さんは、このことを予想していたスペシャリスト!?"という大きな字幕を緊急で作られ張られている。


バン(机を叩く音)

土内「私は.......皆様にお伝えしたはずです。」

土内「このゲームは、子供たちの教育の機会を奪っていくだけでなく、道徳的な観点から見ても悪影響を与えるゲームなのだと!」

「し....しかし、土内さん......。このゲームによって、子供たちの社交性や経験、集団行動といった点に成長といった部分で大きく貢献しているというデータもございますがそれに関しては......。」

土内「あのですね......確かにそういった部分も多くあるかと思われます。」

土内「しかし、現に今回のような悲惨な事件を起こしているというのもまた....事実ではありませんか?」

「ですが......今回の事件に関しては、大人のプレイヤーが起こした事件だったという証拠やお便りが届いております。そのことについては......。」

バン(机を叩き立ち上がる音)

土内「まだわからないのか!」

土内「君たちは、データや証拠等と言って起きながら事が起きるまで傍観していた傍観者にしかすぎない!」

土内「今回はたまたま大人だっただけにしか過ぎないじゃないか......。」

土内「君達人間は......最初はおかしい事だと分かっていながら、大多数の意見に左右され、小数の意見に対し批判的に否定して....抑圧してきた。」

土内「以前、私がニュースで話した時のようにだ。」


拳を強く握りしめて静かに席に座った土内は、悲しい表情をして語り出す。


土内「君たちは、機械という便利な物の恩恵を身近に感じていく中で失ってしまった物があるのではないか?」

土内「今回の場合、子供の育て方....教育のやり方......道徳心......そういったものが歴史と共に変わってしまった。」

土内「もちろん良い変化もあっただろう......今の社会じゃ信じられないだろうが、昔は女性が働くことに対して否定的な意見が数多くあった。」

土内「他にも.....男性が育休をすることや、子供を育てる主夫という立場に対し、馬鹿にしたりあり得ない等という意見が多い時代があった......。」

土内「そういった歴史がある中で、大多数の人間の意見が小数へと変わり、今ではそれが当たり前のように受け入れられる時代へと変わってきたんだ.....。」

土内「ただ.....あまりにも早急に変わりすぎてしまったのかもしれない。」

土内「今の子供達....いいや、子供だけじゃない!大人達!」

土内「君たちは何を見て育ってきたんだ?」

土内「今の君たちは、小さいころから携帯や、ゲーム機.....そういったものを与えられ、そういった物で遊んで育ってきただろ?」

土内「今の大人たち.....いや、お年寄りたち.....。君たちが子供のころ、君たちの母親....父親.....は、何をしてくれただろうか?」

土内「そういった便利な物があまり普及していない時代だったから、君たちの面倒を見てお世話をし、旅行に連れ行ってあげたり、公園に連れて行ってあげたり.....そういった"家族との関りや、やり取り"をくれたんじゃないのか?」

土内「今の君たち大人は......今の君たちの子供に、そういった事を沢山させてあげたことがあるか?」

土内「子育てを勘違いしていないか?」

土内「子供から目を離して.......携帯なんて物を見ていないか?」

土内「子供から目を....いいや、世界すら外れてVRという機械で仮想現実で遊んでいないか?」

土内「悪い事だとは言わないさ......。」

土内「私も今の家族にそうやって育てられてきたからね......。」

土内「愛情はあったのか.......大切にされていたのか.......それは凄く単純で分かりやすい物のはずだったのに、私はそんな単純な物を感じることが難しかった。」

土内「私が何を言いたいのか分からない人がほとんどだろう........。」

土内「今の時代に受け入れがたい思想だという事も理解している。」

土内「だから、どうか.......、もう少し"人に関心"を向けてやってほしい。」

土内「間違った道に踏み外そうとする子を人を......救ってやってほしい。」

土内「これは、私が心理学を学び、人の暖かさを知り、心理学者となって皆に伝えたかったことだ。」

「え.....えーっと、土内さん本日は......ありがとうございましたぁ......。」

「ここで、一旦CMのお時間です。」

「今話題のVRMMORPG!"書架に飾る"―。」


<とある掲示板>

[なんだアレ?]

[ニュースみたか?]

[土内うぜぇ.....]

[ゲームだろ?熱くなるなよwww]

[まぁ....でも分からなくはない....。]

[はぁ?あいつ何様?]

[心理学www]

[上に同じく分からん意見ではなかった。]

[まぁ、そうだよなw]

[さすがにNPC殺すとかは、やりすぎだよなw]

[非人道的wNPCだから人道とかじゃなくね?www]

[ほら、こういうの好きな人たちによる最近のNPCキラーの動画w]

[https:/.............]

[サイテーで草www]

[ゲーム人生楽しくやろうやww]

[殺さなければまぁ、窃盗はいいだろ?俺、職業盗賊だしw]

[いや、窃盗もダメだろw]

[それはそうw]


これは、単なる火種にしか過ぎない.......。

連日ニュースで報道されているNPCやAIの人権についての話は、人に.....世界に......瞬く間に広がり.......。

非人道的な行為を行ってきた人々の写真や動画は、連日のようにネット掲示板や動画、ニュースで晒され......。

それを行った人々を特定し非難し、ある国では裁判まで開かれるようになった。

大多数を占めていたはずの意見は、

「これは、ゲームだ!ゲームだからこそ、現実では出来ないスリルや楽しみ方があるんじゃないのか!」

時が経つにつれて、

「非人道的な行為を行うような人間は、ゲームをするべきではない!裁かれるべきだ!」

と言う意見が大多数に変わった時、小数の意見が抑圧され......晒され......。

土内さんの言いたかったことは、伝わることなく皆の記憶の中から消えていってしまった。


<ネタバレにならない程度でサクッと解説コーナー!!!>

「どうも書架に飾るを書いている白ウサギです。」

「今回のお話はいかがだったでしょうか?」

「私が何を言いたかったのかが伝えられたらいいのですが.....。」

「言葉にするのは、なかなか難しいですね。」

「土内さんは、もう少し周りの人に関心を向けて、道を踏み外した人でも、周りのみんなで助けあいこれからの未来をよりよくしていきましょう的な事を言いたかったはずなのですが.....。」

「結局は、このような結果になってしまいました。」

「本日のサクッと解説は以上になります。」

「いろんな質問やコメントをお待ちしております。」

「いつでも、どんなのでも歓迎です!」

(ただ、ネタバレを含む解説は出来ませんので悪しからず。(小声))

「さようなら~。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

書架に飾る 白ウサギ @SnowRose0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画