076/誘導


刃が交錯し、けれど持たずに弾き飛ばされる。


空気中を割く神の稲妻に全身を焼かれ、けれども苦しみを欠片も見せず。

彼方此方を負傷し、腐らせ、周囲の木々も土塊へと混ざり込み。

互いが互いを削り取り合う能力者と、神の争い。


もはや外なのか、外の形状を保った《異界》なのか。

何も知らない人物が見れば、戸惑ってしまいそうな状況が広がり続けている。



>9行動目...

>>『黒闇天』の『貫通攻撃』。三回命中……自陣側の生命力が減少。

>>連続行動。『黒闇天』の『腐食の風』。一部成功。

>>『朔』の『治癒の円』。発動成功。自陣側の生命力が回復。

>>『白』の『血飛沫月光』。四回命中。【出血】付与判定失敗。

>>『灯花』の『陰月の光』。発動成功。自陣側の生命力が回復。

>>『紫雨』の行動。道具を使用した。

>>『伽月』の『乱撃』。3回命中。

>>『リーフ』の行動。詠唱接続。

>>行動待機中...



地面を滑りながら、僅かに緩んだ地面を踏みしめて幾つか飛び退る。


一瞬前までいた場所に降り注ぐのは、途中から見え始めた相手の持つ手札の一つ。

実体化した影のような、それでいてそれそのものに状態異常が染み込んでいるような複数の手。

今ので見えるものとしては貫通攻撃、と呼ばれる部類の特殊な攻撃として処理される技。


(……下手に防御役タンク採用してなくてよかった、って思うところか此処!?)


その名の通り――――とでも言えば良いのか。

ダメージ計算に使われる防御値を一定値削減、貫通する類の攻撃。

自陣、というよりも現状唯一の式である白も持つ権限を得た類の術技。

それが本格的に生きるのは、防御力が限界値近いインフレした最終盤なのだが……。

其れを今敵が振るってくることには違和感というか、文句しか浮かばない。


何方かと言えば、回避を前提とする部隊であるからこそ何とか凌げてはいるが。

後半になれば其れに特化するのでも無い限りは何方も最低限は上げる必要性もある。


……また、意識が変な方向に引き摺られた。


「灯花!」


「はい、分かってます!」


舌打ちをする余裕もない。

最も行動が遅れる、そういう霊能力ステータス構成にした少女へ声をかけ。

先んじてそちらへと向かいつつも、足止めを続けている前衛へと加担する。


『あ在甕蟆!!!!!!!!!!!!!!!!!』


意味を成さない言葉は更に酷く。

その言葉に秘められたのだろう意味は、神経に作用し僅かに行動を止め。

そして、全ての強化/弱体効果を掻き消すような穢れの色を帯びている。


「いい加減それも、慣れた!」


本来そういったものではあるが、大盤振る舞いと毎度使われる道具の効果によって掻き消され。

切り札の一、相手側に優位な状態での無条件リセットはどうにか防げているような状態。

……逆に言えば、紫雨の行動はそれら全ての対応に追われてしまっていると言って良い。


上から襲い来る影の行動を予測し、見てから少しだけ余裕を持って回避しながら踏み込み。

少しずつ武器に宿り始めた、結晶化し始めた力を感じながらも奥へと強く突き出す。


ほんの僅か、そんな隙間を作り出す為だけの攻撃。

故に、その威力は殆ど意味を成さない……けれど、術技として存在している『迫撃』。


相手の巨体に命中し、そしてほんの僅かに浮くように背後に弾き飛ばす。

相手が真っ当な肉体を保持しているのならば効果を発揮する筈の麻痺も意味を成さず。

けれど、その代償か引き換えか。

相手の立ち位置を強制的に動かす効果があることを知れたのは、こうした現実化した事での理解。


「おい泥棒猫!」


「叫ぶ余裕が良くあるよねえ蝙蝠娘ぇ!」


……視線を向けるわけではないが。

と言うより、向ければ俺は狙われるだろうから……見る余裕もないが。

何であの二人は今になっても叫び合っているんだろうか。


実体化した攻撃が狙っていた『場所』自体から動かし。

そして自分達も掻き乱すように走り続けながら移動を続ける。


霊力に余裕はある。

けれど、其れを利用した技を行使する余裕がない。


つい先程身代わりにした木々は既に腐り落ち、少しずつ戦場も入口から森側へと移行している。

……というよりは。

、と言ったほうが正しいか。


(下手にあのまま後退させられたら……って考えるとな)


多分、その理由は全員無言のままに理解していた。

本殿の一室で眠る一人の女性。

巻き添えにしてはいけない、したくない。

思惑の違いは有りつつも、求める答えは全員同じ。


そして、もう一つ理由があるとすれば――――。


(本当にこっちの方角で良いんだな!?)


『こんなことで嘘を言うと思うのかい、侵害だなぁ』



画面上では知っていて、情報でも知っていて。

けれど実際に扱った経験さえもない、一発限りの大砲を放てる場所。

より正しく言うなら、放った後に正しく決めきれる場所を求めた結果。


『しかし……本当に良いのかい』


時間を掛け、手数を掛け。

呪法陣を刻んだ場所から離れるだけの価値を持つ、文字通りの切り札のぶつけ合い。


そして、俺が動いた後に動いて貰わねばならない二人は。

詠唱を続け、移動しながら……間延びしながらの言霊を周囲に響かせるように準備するリーフと。

鞘に収め、その時を待つ……俺達の部隊の中で唯一、正しく剣術を操る純前衛の伽月は。

互いに並走しながらも、俺へとじっと目線を向け続けていた。


『それをすれば、最悪の場合は君だけが朽ちるというのに』


多分。

右腕で光り輝き始めたそれを、見咎めるように。

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