016/遺骸
移動開始までに多少の時間を要し、足跡を追い始める。
「……やっぱり相対的な存在の差異って大事なんだねぇ。」
「ですね……。」
ぽつりと零し、それに対して応対するもう一人。
最も時間が掛かったのは予想通り紫雨。
ただ、伽月もほぼ変わらない程度に手入れを施していた。
「伽月ちゃんの方はどう~?」
「私は……そうですね、折れ曲がったりまではしていませんが。
その分芯が歪んでしまった感じ、でしょうか。」
その理由は極めて単純。
何方も鵺に対して真正面から挑むことになったから。
紫雨の場合は皮膚に対して点で当たる武器だから兎も角。
伽月の場合は線で立ち向かわなければいけなかった、というのもあると思う。
……この辺はゲームじゃ無かった要素だな。
単純に付与効果や攻撃力だけで見ていたが、その武具防具の根底次第で破損しやすくもなるか。
もう少しでも弱い幽世産の武具だったら途中で折れてたかもしれん。
「大丈夫なのか? それ。」
「同じような相手には使えませんね。 格下や普段くらいの相手なら何戦かは。」
その時点で大丈夫とは言えないんだが。
何本か予備を持たせておいて良かったのは間違いない。
……龍脈内で刀でも見つかると良いんだが。
誰も使わないし使えないから太刀はやめてくれよ。
そんな事を考えつつ、もう一人の直接戦闘していた人物――――白に声を掛けようとして。
彼女が足を止め、少し顔を顰めながら上と下を見つめ始めた。
「白?」
「ご主人……は別に構わぬか。 残りは其処で待っておれ。」
何事か、と問い掛けて。
あー……と言いづらそうな何かを抱えてしまったような顔を向けつつにそんな言葉。
何か今雑な扱いしなかったか?
手招きされる中でちょっとだけ扱いに疑問を抱き。
白の間近まで近付けば……まあ、言いたいことは十二分に分かった。
「あー…………。」
「言いたいことは通じたか?」
「確かに見るもんじゃねえもんな、普通。」
木々の下に見えているのは頭蓋骨や腕の骨。
埋められていたのを乱雑に掘り起こされたような形で地面から見えている。
そして、頭上……ほんの少し離れた木々には果実が幾つか生っている。
但し、幾つかはもぎ取られたように枝が折れているのが印象に残る。
(誰が埋めた……って考えるまでもないか。)
本来、幽世で散った場合。
妖の臓腑の内側に収められた後に白骨は大気に消える。
つまり普通にしている限りは死骸や白骨などを見る機会は殆どないと言って良い。
ただ、それに対し多少なりとも慣れる程度に見慣れてしまっているのは。
街道沿いで山賊に殺された末路なのか、木々の下に乱雑に撒かれているのを見たことがあるから。
その際もリーフに見せることなく、俺と白で対応した。
あの時は……まだ部隊として活動したてで、リーフも慣れるまでに時間を用していた時期だった。
そして今は、男女の差というつもりは更々無い。
ただ……変に見せて歪んだ感情を抱いてほしくない。
特に今のような、ギリギリの場所では。
「ご主人はどう思う?」
「そうだな……埋めたのは恐らく足跡の主だと思う。」
掘り起こしたのは恐らくあの鵺……か、或いは別の妖か。
いや、鵺なら道中の木々に跡が付くから別物の可能性のほうが高そうだな。
頭上の果実からして、恐らくはアレを主食とでもしているような気がする。
転がっている白骨の数は十では効かず、此処だけでなく彼方此方に転がっていると思う。
……つまり、迂闊に踏み込んだ超能力者の幾らかや旅人が犠牲になったということ。
悼む気持ちは当然にあるが、それよりも気になったのはゲーム版との大きな差異。
(……此処まで酷い状態じゃなかったはずなんだが。)
隠しキャラが設置されている神社は、古びているとは言え守護の役割も担っていた。
当然妖が住まい、危険であることは変わりない。
それでも、生活する上で最低限の暮らしをする為。
そして生まれの点からしても、完全に放置するのも難しいのだろう。
最悪でも、限られた超能力者が近隣の村辺りから荷を運び込める程度には余裕があった筈だ。
ただ、見る限りそういった人物達も纏めて殺される程に危険度が増している。
最良の場合なら、自らあちこちに出歩く事さえ実行していたはずなのに。
どうやって生活しているのか。
何故逃げ出さないのか。
そういった謎がまた一つ積み重なる。
(超能力者の持ち込んだモノを利用するにしても、不定期だから頼りには出来ない筈。)
果実だけを食べているにしろ、栄養素的に枯渇するものが多すぎる。
となれば、何らかの形で手に入れていると考えるのが妥当。
……いや、ひょっとすれば逆か?
定期的に何も知らない超能力者が依頼を受け、荷物を持って。
この空間に足を踏み入れる。
――――其処まで考えて。
ふと浮かんでしまった、残酷な発想を頭を振って無かったことにする。
幾ら神職の家系とは言え、それを許可するのなら。
それはもう、妖と然程変わらない存在だと俺は断ずる。
「……じん。」
「……ん?」
と、なれば……。
身を屈めて骨を確認しようとし、肩を掴まれ我に返る。
「ご主人。 また考え込んでおったのか。」
呆れ顔を浮かべつつ、俺を見つめる相棒の目線。
「ぁー……すまん。 またやってたか。」
「やってたの。 それで?」
だが、こうして考えること自体を否定するわけではない。
知識と現場の状況、それらを鑑みて行動を決めていると良く知っているから。
「目標……って言い方も悪いな。 神職の末裔は兎も角としてだが。」
言ってしまうか、どうするか。
悩むのはほんの数瞬。
「神職自体は信用しちゃいけないかもしれんな。」
それは派閥単位かもしれないし、誰か個人の独断かもしれない。
俺が知らない何かを利用して出入りしているのかもしれない。
ただ、この白骨を見て。
良い感情を抱けるような事は――――現時点では。
何も、無かった。
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