017/廃屋


白骨死体が埋まった場所……墓所を少し遠回り。

獣道から道なき道へ、その後に再度獣道。

明らかにおかしい行動ではあったものの、恐らくは薄々感じ取っているからか。

口では何も言わずに、寧ろ生暖かい目線が増えた気がする。


(……なんかすっげえ違和感。)


直接的に言ってくれる方が楽なんだが。

警戒しながらも気を緩めている――――とでも言えば良いのか。

そんな矛盾を身に纏いながらの移動だから、背筋が奇妙な感覚を覚えている。


「……はぁ。」


溜息を傍目からしても分かる程に漏らしながら、木々の合間……葉を手で避けた。

身長が中途半端というのもあって、本来なら胴や腰程度の高さでも視界を遮る邪魔になる。


……現時点で一番身長が高いのが白、というのがなんだか凄いモヤモヤする。

高すぎても邪魔だが、低すぎれば色々と戦闘面でも不利になるしなぁ。


「本当こういう所だよねえ。」

「……何となく分かります。」


背後から聞こえる声を無視して、目を凝らして更に一歩進んだその奥。

ずっと追い掛けていた足跡の先。

古びた、建物自体から落ちたような瓦が地面に幾つも転がっているのが目に入る。


白塗された、漆喰のような壁。

その中で一部が大分黄ばんだように見えるのは、日で焼けたからなのか。


白より先に気付いたのは、単純な視力に依る差だとは思い込みつつも。

ほんの少しの身長差による視界の高低差のせい、と言う正答からは目を逸らした。


「見えてきたな。」

「……何処じゃ?」

「向こうの方向。 白なら直ぐ気付くだろ。」


そちらの方向……進んでいた方向から15度程逸れた先を指差す。

足跡は直進していることから、敢えて大回りしているのか何なのか。

このまま突き進むのも有りだが、先に落下物を確認するのも選択肢の一つ。


「ん~…………あ、アレか。」

「見えたか?」

「うむ。 あの壁のようなのは……何じゃろうなぁ。」


どれどれ、と見ようとするので位置を変わる。

少しばかり屈んで同じ目線になって気付く、というのがちょっとイラッとする。


「…………屋根、からの……落下物、でしょう、か?」

「瓦だねぇ。 でも、あの量はちょっとおかしくないかなぁ?」

「何かを隠している、とかの可能性はありませんか?」


後ろの三人も同じように近付き、見ようとし。

思い思いに予想を口にする。

どうやら三人はあの場所が気になっているようだが。


「白、どう思う?」


相棒にも意見を聞いてみる。

現時点で気になるのは大きく分けて二つ。

足跡を追いかけるか、或いはあの転がっている瓦付近を調べるか。


「吾は足跡を追うべきだと思う。 ご主人は?」

「俺は……何方かと言うならあの壁が気になってる。」


何方を重視するのか、と言うだけの話に過ぎないのだが。

足跡を追えば、見えている建物付近の……言ってしまえば住処までは辿り着けるだろう。

それに対し、あの瓦付近ということは『神社としての正しい出入り口付近』を確実に調べられる。

その中で、気になったのはあの


「あの壁がか?」

「正確に言うなら色が変わってる方角とか材質とかその辺も含めて、だな。」


何を言っているのか、と目線で聞かれれば答えを返す。


太陽が当たる方角で、少しずつ色が黄ばんでいくというのはまあ分かる。

それにしては周囲が木々で覆われ、太陽光が隠れているのに色が変わるものか。

そしてついでに周囲を一廻りし、他の妖の痕跡がないかを確認しておきたい。


「……は? 色が変わっている?」

「いや、変わってるだろ。

 白い壁なら当たり前だし、それより――――。」

「いやいや、ご主人。 ちょっと待て。」


そんな、一目で分かる違和感とはまた別の視点からの言葉のつもりで。

実際には足跡を優先したほうが良いだろうな、と続けるつもりだったのだが。

白が途中で話を止めて。

じっと見つめる眼力を更に強くしつつ、問い掛けられる。


「は?」

「少なくとも吾には見えぬ。」


……見えていない?

いや、隠し扉やら隠し通路が設置されている事自体はまあ分かる。

幽世内部にそういった要素を仕込む、という事自体は幾つもあった事だし。

それを発見するにも特殊な能力が必要、というのも同じ理論で分からないでもない。


ただ、幽世の探索に特化した能力を持つ彼女が気付かない。

探索系の能力等、精々が奇妙なこの眼くらいしかない俺が気付く。

そんな事あるのか?


疑問が複数浮かびつつも、三人に確認する。

流石に俺にだけ見える異常ではないことを信じつつではあったのだが――――。


「……色?」

「え、そんな場所あるぅ?」

「……何処です? え? あの壁に?」


三人からの答えも、白と同じく。

寧ろ俺がおかしいのでは、という心配もあってか。

状態異常解除系の薬を渡され、服用してもやはり消えない。


「どうなってる?」

「それは吾のほうが聞きたいのだが……。」


だよなぁ。


……後々で確認する必要性がある事がまた増えた。

逆説的に、今すぐに調べなければいけない、という必要はない。

ならば、最初に挙げていた二択の何方かを選べばそれで良さそう。


「……先に足跡を潰すか。」


なので、気になった壁を無視するなら。

当初の予定……辿った足跡を優先することにした。


「良いのか?」

「どっちにしろ順番が前後するだけだしな。

 それに、見ていた当人を捕まえられるならそれを優先したい。」


鵺クラスの妖が住まう場所なんざ長居はしたくない。

後々で再度侵入する、という選択肢がある以上第一目標を優先しよう。


多分、間違いはない。

……結局、どっちを選んでも先が暗闇なのだから。

良いよな、と三人に念の為確認しつつも……足跡の方向へ。


掻き消さないように気をつけつつ。

草の上を辿るように、また一歩歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る