019/指導


探索二日目。


部隊の全員の疲労は然程ではない。

恐らくはあの薬湯と、リーフが吐き出している霊力の影響か。

疲労が溜まりすぎて目に見えないところで霊能力が下がってる、なんて事態は不味い。

だからある程度のペースで意思疎通と状態確認。

若干面倒ではあるがこまめにする必要があるからな。


「せぇい!」


――――ギッ!?


最初の遭遇での羽虫と子鬼の編成を切り裂いて。

手を握っては平手にし、状態を確認したりする伽月。

それは俺達も同じで、武器を握ったり足の状態を確認したり。

最初の戦闘後こそ確認するにはうってつけ。


「どうだ?」


俺自身の影響も確かめながら。

手首や足首と言った起点になる関節部位を特に確認して、今日は問題ないと判断した。

今までの経験上、このどっちかにを感じた時は大抵良い結果にならなかったし。


「吾は問題なし。」

「…………私も、です。」

「この確認って大事なんですよね?」


三者三様の確認模様。


白は特に脚と羽根……機動力の起点になる場所を確認する傾向にある。

たまに調子が悪い時は萎れて見えなくもないから若干分かりやすい。


リーフは腕と眼……というよりは感覚器を重視して見える。

自分の感覚と霊力を通して感じる感覚のズレが酷い時がある、と前に聞いた。


それに対して伽月は頭以外の全身というのが正しいのか。

刀を両腕で振る都合上、全身の違和感を特に気にしているように見えた。


「当たり前だろ。 鍛錬するときだって調子は確かめるだろ?」

「確かに!」


確かに、じゃねーんだよ。

何処かアホの子というか全てを受け入れる状態になってるのはちょっと不味そうだが。

確かに色々教えこんでいる立場だから楽なのは間違いない……んだけども。

……依存先が変わっただけ、とかいうオチはやめろよ?


「特に幽世の中に潜った日の初戦は状態確認必須だな。

 潜る日の朝と初戦後、二つを確認しとけば7割方は問題ないと思う。」


実際調子が良いと思っても熱が出ているだけ、とか。

成長痛で身体が痛み動けない、とか。

特に俺達の年齢だとその日その日で動けるかどうかがかなりブレる。

抑える薬が無くもないが、後遺症が辛い筈だから出来れば使いたくない。


「……残りの三割は?」

「運。」

「ぇぇ……。」


そんな引くような事を言っただろうか。

大事だぞ運。

俺達に操作出来ないものだからな運。


「まだこの程度の……浅い階層だから出てこない筈だが。

 強敵とか希少な敵が乱入してきたり遭遇する危険だってあるんだからな。」


だから安全マージンを多めに取っているというのはある。

大部分は徘徊する強敵ワンダリングとか別ゲーから取ってF.O.Eとか言われる類の奴に会いたくないから。

その幽世の難易度と比較して+5~10くらい深度があれば安定する、と言われる強さで。

そいつが落とす瘴気箱は希少品が出やすかったり、そいつを模倣した装備が出たり。

最終的にはそれを狙ったりすることにもなるが、今は絶対に会いたくない。


「……あ、ひょっとしてああいうやつですか?」

「ああいう?」

「1~2回くらい? 遭遇したことがあるんですけど。」


ぶるり、と何かを思い出しているようで。

同時に彼女の周りが暗く見える。

……これも何か関わってるのか。


「一番危なかったのは……熊みたいな、腕が四つある妖でした。

 それが襲ってきて、

 丁度戦っていた妖を襲わなかったら、今こうしてここにいないと思います。」


そりゃそうなるわ。

呆れた顔と、怒る顔と。

性格次第でくっきり分かれた俺達にも、その当時の気持ちは分かる。


「というか、それで疑わなかったのか……?」

「その時は声で指示された後で土下座されまして……。」


それで流すってのは物知らずにも程がある。

……ああ、いや違うな。

物知らずになるように育てられてきてるのか。

ある程度自分たちの都合がいいように。


「確かそれが……父と行った最後の探索だったと思います。」

「え、どれくらい前だ?」

「半年……くらいでしょうか。 地元を出たのが二月は経ってない筈ですので。」


……何処に住んでいたんだろう。

地図を差し出してもわからないよなぁ。

ただ住人も大分限られてるって話だし、隠れ里みたいな場所だとは思う。


「そうか……。」


なんか白が酷く同情的になってる。

そんなに心揺さぶられたのかお前。

その気持は嫌ってほど分かるが。


「……白。 そんで、箱はどうだ?」

「あ、ああ。 麻痺薬の散布のように見えたから開けずとも良いかと思うのじゃが。」

「麻痺……かぁ。」


連戦というわけでもないし、出てくるのは確かに重要度は高くない。

精々あって付与効果付きが一つあるかどうかで……失敗した際の影響を考えると。


「そうだな。 ただ連戦後に麻痺薬が出たらその時は開けてくれ。」

「うむ。 最悪は薬を使うんじゃな?」

「使用期限を考えると残しておいても仕方ないし。」


今の場合は費用対効果に見合っていないのでスルー。

麻痺解除薬、原料が海辺じゃないと手に入らないせいでちょっと高いんだよなぁ。

作って貰える分、普通に買うよりは安く済むんだが使用期限がちょっと短いのも欠点。


「準備整えたらもうちょっと進んで帰るぞ。

 この階層の最奥までは進んで稼いでおきたい。」


はい、とか。

ああ、とか。

異口同音に声がして。

あんまりこういう命令する立場得意じゃないんだがなぁ、と。

小さく息を漏らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る