020/付与


最奥まで辿り着くのに12戦。

その内乱入……連戦が発生したのが

どうなってんだおかしいだろ今回の幽世。

出現しないんじゃなかったのか?


「いや普通にヤバい。 深度上昇したけど。」

「なんじゃあれは。 特に最後じゃ最後。」

「…………死ぬかと思いました。」

「……危なかった、です……ね。」


以上、全員の感想。

ぐったりとした中、最奥で再び休息を挟む必要性に駆られていた。

これ以上動いたら多分途中で誰かが死にそう。


「……あれなぁ。」


特に不味かったのは白も言及した最終戦。

刃を持ち、顔を伏せて乱雑な髪型をした


それを見て顔を引き攣らせ、最大火力で抹殺するように叫んでしまった。

何とか足止めは成功したが、一体だけは拘束から逃れ。

前衛を飛び越えて後衛に突撃しそうになったところを前衛二人で何とか抑えた。

時々姿が見えなくなり、その度に探して足止めが必要になるとかいう仕様も相まって。

刃と見えない体を警戒しなければいけない、という状態にぐったりしたのは言うまでもない。


「多分悪婆あくばあだと思う。 何で群れてんだよあんなのが……。」


通常一戦闘に一体ずつしか登場しないやつだろ。

複数部隊の中で抽出したとか言い出したらキレるぞ。


「悪……?」

「簡単に言うと子供とか赤子を喰らう妖。 特徴なのは『姿を隠す』事。

 後は、ってことか。」


何方かと言えば出典が新しい妖だっただろうか、アレは。

江戸時代くらいの何らかの書物から作り出され、別の都市伝説と習合されて形成された敵。

街中で赤子や子供を浚い、喰らう老婆の妖。

街中では姿を透明にするとされ、誰もそれには気付けないという能力を持つ。


ゲーム的な特徴は三つ。

『奇数ターンには単体攻撃対象に選べなくなる』

『必ず一体でしか登場しない』

そして『一撃必殺クリティカルヒット』持ち。

首刈り兎や忍者に似た存在としてデザインしたんだろうが、複数体はおかしすぎるだろ。


「だから危なかった。 もし誰かが首を狙われてたらかも。」


それが実際にはどういう意味かは明言しなかったが。

他ならぬ戦闘で刃を振るう二人には殊更良く伝わったらしい。

ガタガタと今になって震えている。


「…………対応……手段、は?」

「無いこともない……けど、その為に取らなきゃいけない前提が重いんだよなぁ。」


多分西洋、華陽だとまた別の名前な気はする日ノ本での能力の一つ。

【花】系の派生、『武士の一念』。

確か重防具か何らかの耐性系の派生から伸びる能力だった記憶がある。

効果は『行動不能・即死に対する絶対耐性』。


前衛盾型タンクなら先ず真っ先に目指すべき能力ではあるんだが……。


「俺等だと多分攻撃系に偏重した方が行き詰まりを避けられるからな。」


変にバランス成長すると後半で中途半端になって役立たずになる。

だからある程度偏って育成したほうが良いのは間違いない。

実際それで一回詰まってやり直したし。

ただ、即死を避けたいって気持ちも分かる。


「……まぁ、避ける手段ならもう一つある。 此方のほうが俺等向けだな。」


だからもう一つを選ぶ。

本来は絶対耐性を取ったほうが変えが利くんだが……まあ仕方ない。

どっちにしろいつかはするつもりだったし。


「あるのか!?」

「うぉ、急に叫ぶな飛び付くな!?」


ブツブツ言ってた白が急に飛び掛かってきた。

やめろ首が苦しい。

体格的にまだそっちが上なんだから動かせない、タップタップ。


「……っと、すまぬ。」

「ったく……体格考えろよ。 えーと、何だっけ。 避ける方法だったか?」

「それじゃそれ。」


全く、話そうと思った内容が飛ぶかと思った。

とは言え、目指すべき手段はお前等でも知ってておかしくないんだが、と。

言おうとして、そもそもこの考えも秘匿されるものなのかと思い直した。


「付与効果を付けられる道具か、付与効果がついてる防具を探す。

 俺達みたいなタイプ向きだろ?」


そして、それを落とすのは丁度その能力を持つ妖が混じった編成のみ。

クソかよと思わなくもないが、実際分からんでもない。

生まれる経緯が「妖の瘴気と混ざり合う」事を挟む以上。

それに対する対抗物が出現する、という結果に結び付くのは何となく理解できるので。


「で、其処に丁度一個あるな。

 あんだけの群れを潰したんだから一個は出ると思ったが。」


古く、かさかさとした布の破片のような物を指差す。

傍目からすれば唯のゴミにしか見えないだろう。


「……これがかや?」

「そ。 皮鎧か布系防具専用の付与効果付属道具、『鬼婆の慈悲』。」


道具の名前違うじゃねえか、とか思ってはいけない。

多分山姥とかの成分が流入した結果だと思われるので。

実際、妖として現れる山姥は細々としたところで違うが似た種族として扱われているし。


「まあ使うにはその防具を作れる職人の手がいるんだが。」


向かう目線は当然、その能力を持たせた白。


「吾か?」

「当たり前だろ。 どう使うかは教えるから今度やってみてくれ。」


能力だけ上げても実際の腕前次第じゃボーナス数値が変動するしな。

出来れば高ボーナス防具……防御数値が高いモノを作って欲しい。

失敗してもまあそれはそれで売れるけど。


「…………う、うむ。」


少しばかり照れたように、視線を背けて。


「次、もう少し分配するぞー。」


そんな彼女を見ないようにして、他の二人に声を掛けた。

今は見られたくないだろう、と思ったので。

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